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魔物使いの娘  作者: 天都ダム∈(・ω・)∋
第四章

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37/168

命ということ Ⅳ

 ○


 お嬢は魔物の専門家である。どこからがどこまでを魔物と定義するかは難しい所であるが、リングリーンの女たちが定義する基準があるとすれば『魔素によって影響を受けた全て』である。

 原初の悪魔ルシルフェルとの契約を受け継ぐお嬢は、その影響によって生まれた全てに対して絶対の権限を持つ。それは霊獣種であるユニコーンも例外ではない。生体も能力も、全て知識として備えている。


「…………どういう、事だ?」


 もはや小僧も『だってお前さっきと言ってること違うじゃん』とは言わなかった。


「まず、さっきの伝承話ですが……かなり信憑性が高いと思います」

「……マジか? あの与太話が?」

「はい。細かい所は脚色されてるんでしょうけど、まず、ユニコーンが住むのは自然の多い、海以外の水辺です。自身の魔力で周囲のエリアをまるごと『迷路』にしてしまうため、普通の生き物ではまず発見できませんが、出産間際で弱っていたなら――――運のいい人間なら、迷い込んでたどり着く可能性は、ゼロじゃありません。ユニコーンに限りませんが、霊獣の力で浄化された水は、確かに光を浴びると虹色に光ります」


 お嬢が指折り立てて説明するのを、小僧は真剣に聞いていた。


「ユニコーンの出産周期は、大体百年です。これもぴったり一致します。皮膚が固くて刃を通さないから、角を使った、っていうのも、多分本当です。霊獣のユニコーンには、人間の作った武器では、傷一つつけられませんから。そのあたりのエピソードだけ、異様に具体的なんです」

「………………」

「霊獣というのはその周辺地域の魔物のトップ……つまり主のようなものです。ユニコーンの縄張りに好んで入る魔物は居ません。助けられた恩返しとしてユニコーンがマーキングしているなら、クローベルが魔物に襲われない理由になります」

「…………いや。待て、リーン、でもな?」


 今度は、小僧がその意見に疑問を呈し始めた。

 尤も、全力で否定したいわけではなく、その疑問を退けて真実への純度を高めてほしい、という期待が見て取れる。


「人里近くに居るわけないって言ってたじゃねえか、どうなんだ、その辺は」

「人間の生活領域に霊獣が居るのではありません、霊獣の生活領域に人が侵入してくるのです。ただ、あまり表に出るのを好まない種が多いので、隠れてるだけなのです。実は結構、身近にいたりするものなんですよ」

「……け、けど、仮に居たとして、だ、子供の病気を治せなかったら……」

「ユニコーンの角は、高濃度の魔素を浄化した生命力を、長い時間をかけて結晶化させた、純粋な癒やしの力の塊です。その気になれば死者の蘇生すら可能な、正真正銘の奇跡を引き起こせるアイテムですよ。トップクラスの魔女の呪いだって退けられます。それに、いいですか」


 お嬢の声には確信が含まれていた。悩んでいた疑問に答えがでた時特有の、弾むような語調が聞いて取れる。


「ここしばらく感じてた疑問にもいくつか説明がつくんです、例えば、リビングデッドは水を渡れない、っていう話があったでしょう」

「あ、ああ、お前は全力で否定してたが……」

「あれはエスマ……というよりも、この周辺だけで通用する文化なんです。ユニコーンは霊獣種、属性は聖、その能力は浄化です。角だけではなく、生きているだけで周囲の生命を活性化させる力を持ち、ユニコーンが触れただけでどんな汚水も一瞬で聖水に変化します」


 お嬢はラメラネ嬢からもらった地図と、小さな光石を取り出した。手で覆っているため、外から光が見えることはないだろう、その分二人は密着して地図を見ているが、今はそんな事は意識の外にあるようであった。


「この聖水が、恐らくレストンやライデアの周辺の川に流れてるんです。流石に濃度は薄まっていくので、それほどの浄化力はありませんけど、リビングデッドは本能的に嫌うでしょう、それに……」


 レストンとライデア、地図上にある二つの村と川を指さし、


「クラウナさんを始めとした、レストンの村の皆さんがリビングデッド化した後も、ある程度自我を保っていたのは、日常的に薄まった聖水を生活用水にしたせいじゃないでしょうか。ライデアの村長さんも言ってたじゃないですか、甘果実(エリシェ)の育ちが良いのは、水が良いのでしょう、って」

「…………つまり」

「レストンとライデアに流れる川を上にたどっていけば、支流があるはずです。多分、その先の水源に、ユニコーンの住処が、あることに……」


 指がつつ、と地図を上にたどっていく。遠く離れたレストンとライデア、それぞれの川が交わる上流、さらに上へ。たどり着いたのは、クローベルから程遠くなければ、標高も高くない山の頂上だ。


「…………なあ」

「はい」

「…………マジ?」

「マジです。ちなみに」


 お嬢の声のトーンが徐々に高くなっていくのは、やはり興奮を隠せないからか。


「私なら、『迷路』の突破も出来ますし、ユニコーンに角をわけてもらうことも出来ます。何も一本まるまるじゃなくていいんです、先っぽの欠片を、ちょっとだけで十分ですから。それぐらいなら、お願いも聞いてくれると思います」

「……………………リーン」

「なんです」

「……………………マジのマジでいけるのか? これ」

「いけます」

「………………………………………………いや、マジで?」

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