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魔物使いの娘  作者: 天都ダム∈(・ω・)∋
第四章

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命ということ Ⅱ

 ◆


 ようやくクローベルに入った頃には、すでに日が暮れかけていた。

 海岸線に沈んでいく夕日はなかなか荘厳な景色だったが、待ち時間の長さで凝った体を思うと割には合わない。

 馬車を降りて、最初に抱いた感想は、とにかく人が多すぎる、という事だった。


 運び屋達はこの時間でも右から左へと物資を担いで走り回り、街の人間達も特需で溢れかえった人間の対応に追われている。飲食店はどこも満員御礼、露店も人がひっきりなしで、大きな通りは常に人の流れが激しい。

 となると当然、宿の確保も厳しい……と思われていたのだが。


「ああ、ライデアのテトナさんですね、はい、祭りの間はこちらをご利用ください。同行者の方はいらっしゃいますか?」

「あ、えっと……三人と、一匹です」


 と、テトナが自分に充てがわれた宿で、そう言ってくれたおかげでものすごくスムーズに部屋を借りることが出来た。

 と言っても祭りの期間、テトナとルドルフ、ジーレで分けるはずだった部屋を、テトナ(とルドルフ)とリーン、ジーレと俺という割り振りになっただけではあるのだが。


 勿論、宿代は流石に自腹だし、そこそこの値が張るが、路傍で野宿よりはるかにマシだ。元々リーンは金は貯め込むより使うタイプだし、俺は契約に従って宿代をリーンに出させるので何の問題もない。何をするにしたって、拠点があるというだけでも精神的な疲労はかなり違う。


「ありがとうございましたテトナちゃん……もう恩人です……」


 上等な宿でふっかふかのベッドを得たリーンはテトナを神か何かのように崇めて恐縮させていた。


「私とルドルフは、これからクローベルの街議会に挨拶に行きます」

「俺も護衛だから一緒だなー、ハクラの兄ちゃん達は?」

「とりあえずギルドだな。換金もしたいし、登録もやりなおさねーと」


 街から街へ移動した際は、まずギルドで秘輝石(スフィア)の登録を行う。現地で報酬を受け取る為に必要で、これによって冒険者の移動は大まかにだがギルドが把握出来るようになっている。


「《大型冒険依頼(グランドクエスト)》はどうします?」

「内容を見て、儲かりそうなら受注する、でいいだろ」


 ということで、俺達はテトナ達と別れ、ギルドへ向かった。クローベルのギルドは、大きな街だけあって、大通りのひときわ目立つ場所に、石造り、三階建ての建物がどんと直立していた。

 まぁ、そこまではいい。無事にクローベルにたどり着き、ギルドにも入ることが出来た、のだが。


「テメェ、押すんじゃねえよ!」

「うるせぇ! 退いてろボケ!」

「チンタラしてんじゃねぇぞコラ!!」


 基本的に気性が荒い冒険者共が、我先にと良い依頼にありつこうとするものだから、まぁこうなる。


「あ、荒れてますね……」


 傍若無人の権化であるリーンが若干引いて俺の後ろに隠れるほど、中の連中は殺気立っていた。


「新しい情報はねぇのか!? おい!」

「ひ、ひぃ! い、今ある分で全部ですよお! 目撃情報はお渡ししたはずで……」


 順番待ちなどあってないようなものだ。やっとカウンターにたどり着いたら、横から割り込まれて喧嘩がおっぱじまり、その隙を狙って更に割り込む輩までいる始末だ。

 強面に詰め寄られて、一番迷惑を被っているのは受付嬢だろう。エリフェルなら睨み一発で退けられるだろうが、あのレベルを全員に求めるのは流石に酷だ。


「二日前から何も変わってねえじゃねーか!」

「で、ですからぁ……情報が正しいかどうかの検証も必要でぇ……」

「ちっ! 何かわかったら真っ先に、俺だけに伝えろ! いいな!」

「そ、それは無理ですよお、ギルドの公開情報は誰もが閲覧できるのが規則で……」

「ごちゃごちゃやかましい! 俺が寄越せっつったら言うとおりにしてりゃがごっ」


 やかましく受付嬢に迫る冒険者は、後頭部を中身入りの鞘で殴打される事で冷静さを取り戻したのか大人しくなった。あまりに冷静さを取り戻しすぎて白目を剥いて横たわり立ち上がれなくなってしまったようだが放っておけばその内目を覚ますだろう。


「あの、ハクラ、何か痙攣してるんですけど……」

「きっと寒いんだろ、そっとしといてやれ」


 リーンがなにか言ったが冷静さを取り戻したであろう相手にとやかくいうのは野暮だし冷静さを取り戻した本人にも失礼だ、冷静さを取り戻した以上きっと自身もそう思っているだろうから何も見なかったことにして、俺は受付嬢に声をかけた。


「よう、盛況だな」

「え、あ、あの、ゴンレーさんは……」

「突如床に転がる仕事がしたくなったそうだ。で、この騒ぎは一体何だ?」

「あ、そうですか……えーと、お二人は」

「ハクラ。こっちはリーン」

「ハクラさんとリーンさんですね、はい、はい……私、クローベルギルドのラメラネと申します」


 涙を拭いながら受付嬢……ラメラネは小さく頭を下げた。ギルド共通の制服を纏ってはいるが、薄い茶髪を小さなツインテールにしていることもあり、幼く見える。リーンと同じぐらいだろうか。


「こちらのギルドに来るのは……」

「初めてなんで、混み合い具合に若干驚いてる。とりあえず秘輝石(スフィア)の登録をしたい。あと報酬を換金してくれ」

「あっ、か、かしこまりました。どちらからですか?」

「二人ともエスマだ」

「あ、エスマですかぁ。私もエスマ生まれなんですよ、ラメラネ・エスマっていうんです……わ、緑色の秘輝石(スフィア)なんて初めて見ました、綺麗ですね」


 俺とリーンが差し出した右手の秘輝石(スフィア)に、透明な硝子が取り付けられた、円形の器具をかざす。

 これで秘輝石(スフィア)の外観と情報を記録し、管理しているらしい、仕組みはわからんが。


「黒い秘輝石(スフィア)はどうですか?」


 リーンが横から口を挟んだ、ラメラネはうーん、と唸りながら、俺が提出した《冒険依頼(クエスト)》の完了証を確認し、二人分の報酬である一万六千エニーを紙幣で取り出し、封筒に入れて渡してくれた。


「あんまり見ませんけど……あ、でもここまで真っ黒なのは初めてです。あんまり綺麗じゃないですね」


 どうやらあまり歯に衣を着せない性格らしい。リーンはけらけらと声を上げて笑った。助けなきゃよかった。


「で、この人だかりはやっぱり《大型冒険依頼(グランドクエスト)》のせいか?」


 俺がそう言うと、ラメラネはう、と一瞬、声を喉につまらせた。


「そうですよね、驚きますよね……一応普通の《冒険依頼(クエスト)》もあるんですけど、えへへ」


 こちらの顔色をうかがいながらそう言ってくるラメラネ。

 ギルドの受付嬢たちにとっては、《大型冒険依頼(グランドクエスト)》に冒険者たちが流れるのは大きな悩みのタネであり、できれば普通の《冒険依頼(クエスト)》を受けてほしいというのが本音だろう。ラメラネの顔にもそう書いてある。

 が、それはそれ、これはこれだ。


「とりあえず内容を聞いてから考える」


 俺がそう言うと、ラメラネははぁぁ、と疲れ切った息を零し、告げた。


「あぅぅ……では、お二人も受注ということでよろしいですかぁ? そのぉ……ユニコーン探しを」

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