愛するということ Ⅲ
☆
痛い。全身痛い。脚をぶちぶち引きちぎられる度に、もうなんか死なせてと思う。
だけど、それでも身体は勝手に動くし、あとなんか、糸を出す時すっごく恥ずかしい感じがする。もう、本当に嫌だ。
そんな事を考えられるぐらいには、アリアリアの意識は表層に浮かび上がっていた。
(アリーちゃーん、聞こえますかーっ!)
だから、どこか遠くから聞こえるその声にも、
「……リーンのお姉ちゃん?」
と、反応することが出来たのだった。
(……見つけた! えーっとよく聞いてください、これから私とちょっとした契約をしてもらいます)
「け、契約? なんか大変なこと?」
(おまじないみたいなものです、これから言うことをよく聞いてくださいね)
「う、うん……」
こうしている間にも、凍りついた糸に絡まった自分の体は、もがいてもがいて、何とか抜け出そうと足掻いているところだ。身体へのダメージを完全に無視して動いているので、とんでもなく、痛い。
(ここで聞いたことは絶対に内緒です、誰にも言っちゃいけません、特にハクラには!)
「う、うん……あ、あぐっ、い、痛い、痛いかな!」
(もうちょっと我慢してください……あとは、うん、無いですね! じゃあ行きますよ!)
「は、はいかな!」
(……我が名は■■■■■■■・リングリーン、汝、その心を縛られず生きるならば!)
――それは、当代におけるリングリーンの正統後継者、リーンという少女の真名。
――契約と継承に必要不可欠な名前。
(―――皆が待ってます、さっさと起きなさい、アリアリア・セリセリセ!)
そうして、緑色の光が、視界いっぱいにアリアリアを包み込んで――――――。
☆
「………………あれ」
気がついたら、倒れていた。
身体に全然力が入らない、ぼーっとしていて、頭もグラグラしている。
「アリー!」
そんなアリアリアを抱きかかえてくれたのは、アリアリアが大好きな人だった。
黒い髪、青い瞳、いつもは困ったような笑みを浮かべているその人は、今もやっぱり、そんな顔をしていた。
「……クロヤ…………あれ」
段々と感覚が戻ってきて、アリアリアは気づく。
「…………わたし、服着てないかな!?」
身体の肥大化と苛烈な戦闘に伴い、普段着のワンピースなどボロ切れのようになってしまって、魔人体から元に戻ったアリアリアは、一糸まとわぬ姿だった。
辛うじて、クロヤの上着をかけられているだけで、身を隠すものはなにもない、その状態で抱き抱えられているのだから……。
「あ、あうあうあうあうあ」
「ご、ごめん、すぐに服を持ってきてもらうから……アリー、よかった……」
クロヤは、込み上げてくる衝動を押さえきれず、ぎゅうと抱きしめてくれて、羞恥と嬉しさがまざって、どうにかなってしまいそうだった。
「おーい」「大丈夫ですかー」
二人の客人の声が、駆け寄ってくるのがわかる。
だから、はっきり言葉にするなら、今しかないと、アリアリアは、まだ荒い呼吸を整えるために、大きく息を吸い込んだ。
「あ、あのね、クロヤ、わたしね」
「……うん」
「クロヤのことがね」
ボンッ
✾
全ての目論見は上手く行きました。
一番聞きたかったことが聞けました。
だけど皆が笑顔の幸福論は、〝酷嬢〟の好みではありませんでした。
「くふふ」
パチン、と指を弾いて、最後の呪いを発動させた。
イスティラの血を取り込んだものに与える、不可避の終焉。
きっとセリセリセも、あの子達も、愉快な顔をしてくれるでしょう。