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魔物使いの娘  作者: 天都ダム∈(・ω・)∋
第九章 人繭のセリセリセ

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恋するということ Ⅲ


 ☆


 足が熱を持って、じくじく痛む感覚も、治療が施されると、大分落ち着いてきた。

 代わりに、顔がものすごく熱い。どれだけ叱ったって、結局、クロヤは最後にアリアリアを甘やかしてくれる。


 隣に座って、といえば座ってくれるし、撫でて、といえば撫でてくれる。

 それは妹に対する扱いだとわかっていても、触れれば幸せを感じてしまうし、この時間が、ずっと続くなら、このままでもいいかな、と思ってしまう気持ちがないといえば、嘘になる。


(…………やっぱり駄目なのかな)


 クロヤは優しい。いつでもアリアリアのことを考えてくれる。

 でも、それが家族としてではなく、女の子としての感情だと知ったら、どう思うだろう。

 拒絶はしないかも知れない、でも、今まで通りではいられないかも知れない。それが怖くて踏み出せない。


「…………」


 ちらりとクロヤの顔を見ると、ああ、この表情だ。

 時々、クロヤはこんな顔をする。ここではない、どこか遠くを見つめて、悲しそうに、寂しそうに。

 何に思いを馳せているのだろう、セリセリセが聞くなと言うから、アリアリアは今まで、クロヤがウチに来るまで、どんな暮らしをしていたのか、聞いたことがなかった。


 きっと、それを知る人がやってきたのに、どうにも複雑な事情がありそうで、教えてと言うつもりが、結局今でも聞けずじまい。

 例えば、もしもクロヤが、本当は故郷に好きな人がいて、実は帰りたがってたとしたら……なんてことを、考えなかったわけがない。


「…………」


 聞いてみて、もしそれが本当だったらどうしよう。

 今は、一緒に暮らしているけれど、遠くへ行ってしまったらどうしよう。


「ね、クロヤ、ハクラのお兄ちゃんと、なにかあった?」


 していい質問なのか、少し迷ったけれど。


「……うん、そうだね、昨日の夜、少し」


 そう返事をするクロヤは、今、アリアリアを見ていなかった。


「自分が恨まれて当然だって、思ってるんだろうな。僕はただ、生きててくれただけで嬉しかったんだけど」

「……喧嘩しちゃった?」

「喧嘩ではない、かな。意見があわないだけ……相手が悪いって思ってるわけじゃないんだ、ただね」


 長い指が、アリアリアの頬を撫でた。青い瞳の向こうで、悲しい色が揺れていた。


「……お互い、自分が悪いと思ってるんだよ」


 そんな顔をしてほしくなかった。

 ホントは、心から、思い切り笑ってほしいのに。

 胸が締め付けられるような感覚があって、自分には、何も出来ない事が悔しくて。

 不意に、昨晩の会話が、頭の中で蘇った。



『……結局、思い切って、伝えるしかないんじゃないですかね。なんでも良いから』



 今、自分がクロヤにしてあげられることはなんだろう。

 そう考えたら、自然に体が動いていた。

 少し体を持ち上げて、頭の位置を押し上げた、その時。


「えっ」

「あっ」


 ごん、とアリアリアの頭が、クロヤの顔に直撃した。


「っ、ぐ」

「ご、ごごご、ごめんかな! 大丈夫!? 見せて見せて!」


 口元を抑えるクロヤ、なんてことでしょう。


「へ、平気、口の中を少し切っただけ」


 困ったような、悲しいような、でも、相手を心配させないための、柔らかな苦笑。

 いつもアリアリアを見守ってくれた、この表情。

 お互い、向き合って、見つめ合い、気づいたら、言葉がなくなっていた。

 アリアリアが何をしようとしたのか、クロヤだって気づいていないわけがない。


「…………僕は」


 クロヤが、言い訳をするように、顔をそらした。


「誰かを、好きになっちゃいけないんだよ、アリー、だから」


 ごめん、を言わせる前に。

 アリアリアは、再び顔を寄せた。抵抗も、言い訳もさせなかった。


 少女のファーストキスは、苦い、鉄の味がした。


 数秒間、そのままでいた。

 やがて、ゆっくり顔を離すと、もう、身体の熱で全身が焼け落ちそうだった。


「関係ないかなっ」


 だから、熱に任せて、言葉を吐き出した。

 きっと伝えなければいけないと思ったから。


「クロヤが誰も好きになれなくても、わたしはクロヤが大好きだから!」


 他の誰かを好き、とかじゃないなら、それだっていい。

 だって、アリアリアがクロヤを好きになる事に、クロヤの意思は関係ない。

 恋するというのは、そういうことだ。

 ぎゅっと手を握りしめて、ちゃんと見つめなおして。


「何かあっても、わたしは絶対、クロヤの味方かな。だから、思い切り、ハクラのお兄ちゃんに、言いたいことを言うといいかな」


 それが精一杯の、アリアリアにできることだった。


「……アリー」


 兄だった男は、少し時間をかけて、それから。


「ありがとう」


 そう言って、小さな体を抱きしめた。

この物語は【魔物使いの娘】で間違いございません

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