表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔物使いの娘  作者: 天都ダム∈(・ω・)∋
第九章 人繭のセリセリセ
144/168

プロローグ 白と黒と灰

 イスティラ、という国は西方大陸(リーラベル)の端にある。

 いや、国と呼んでよいかは微妙なところだ。

 なにせ国を守る城壁もなければ、番をする兵士もいない。

 物資の流通を行う商人も居ないし、通りを歩く職人も居ない、何なら、民家と呼べる建物がない。

 触れたものを侵食する黒い泥と、枯れ果てた木々の、成れの果てだけがある荒野が、延々と広がっている。


 周囲がどんな天候でも、その周囲だけは常に真っ黒な雲がかかっていて、空気が淀み、じめじめとした不快感を感じることだろう。

 この時点ならまだ引き返せる。

見られはしているが、よほどのことがなければ、追いかけられることはない。

 だが、何の理由があるのか、まともな生物ならば長居することを拒むその荒野を、粘つく泥に足を取られながら、まっすぐ進むと、沿岸地帯でも見られないような、真っ白な地面が、細長く細長く伸びている。


 もし旅人がわずかにでも安堵を覚えたのならば、それはあまりに気が早い。

 一歩踏み出すと感じる違和感が、確信に変わるのはすぐのことだ。歩く度にミシミシと、ピシピシと、ひび割れるような、砕けるような音が靴底から鳴り響く。

 そうして進んで視界に入ってくるものをみて、踏みしめているものの正体を知る。

 それらは、全てが魔女の贄となり、使い捨てられた残骸だ。

 中身まで丁寧に『使われ』ているから、ほとんど空洞で脆く、触れるだけで砕けてしまうような儚い白。


 それらが自然に風化して、あるいは尊厳なく踏みつけられて、粉々になって固められている――骨だ。無数の骨が敷き詰められて、泥の海に陸地を形成しているのだ。

 ここまで来たら、もう引き返せない。仮に振り返って逃げたとしても、気づけばまたこの白い道の入り口にたどり着いてしまう。


 生者の残骸を踏みにじりながら、進み、進み、進み、進み。

 やがて、断崖絶壁に立つ、煤けた古城にたどり着く。

 おめでとう、勇敢なる旅人よ。ここがイスティラの鳥籠、君の終焉の土地。

 門扉がひとりでに開かれ、もはや入らない、という選択肢は君からは消えている。

 そうして飲み込まれたものは、二度と戻らない。

 運が良ければ、耐え難い苦痛と絶望、後悔を積み重ねた果てに、君が踏みしめたあの白い道の一部には、なれるかもしれない。



 ✾



 

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ