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魔物使いの娘  作者: 天都ダム∈(・ω・)∋
第八章 ミアスピカの双星

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エピローグ Ⅲ ミアスピカの双星


 †


 ソレンサ、という村がありました。

 かつては採掘業で栄え、やがて掘るものがなくなり、人が住まなくなったその土地は、いつしかリザードマン達の住処となり、そして今は、穢れの吹き溜まりとなり。

 腐敗した死体が積み重なって、汚染された土壌と水は、命あるものを立ち入ることを拒んでいる……見捨てられた、場所でした。


「ねえさま、ここであってる?」


 そんな場所に、変わった旅人が訪れました。

 長さの違いはあれど、薄紫色の髪の毛が特徴的な、二人の少女です。

 並ぶ背丈はほとんど同じで、顔立ちも驚くほど似ていて。


「…………あってる、わよね? まっすぐ、来たもの」

『あァ、間違ってねェよ』


 短い髪の毛の少女は、よく見れば、肩にトカゲをのせているのです。


「……あのね、ファ―――」


 どこか不安げな表情で、傍らの姉妹に声をかけると、


「ねえさま、今のわたくし達は、違うのですよ?」


 長い髪の少女の名前を呼ぼうとした、〝ねえさま〟は、あ、と目を見開いてから、ため息を吐きました。


「……ごめん、まだ、慣れないわ。……そっちは、ずっと、ねえさまで、間違えなくて、いいわね」

「はい、わたくしにとっては、ねえさまは、ねえさまです」


 にこにこと笑顔を浮かべる妹を見て、また、一つ、ため息を積み重ねて。

二人は、お互いの右手の甲を触れ合わせました。

 お揃いの色彩を持つ、紫水晶(アメシスト)の秘輝石が、かつん、とぶつかると、紫色の粒子が、とめどなく生まれて、大地を埋め尽くしていきました。


 汚染された土壌は、みるみるうちに色を取り戻し、朽木から新芽が飛び出してきた。

 濁った泥で停滞していた川は、少しずつ清流となっていき。

 ……まるでその地が、最初からそうであったかのように、様々な花が咲き乱れる、色彩の絨毯へと、姿を変えてしまいました。


『………………』


 短髪の少女の肩に乗った、赤い鱗のトカゲは、彩りにあふれていく大地を見て、静かに目を閉じました。

 それは、遠い昔の記憶。

 少女が、いつまで経っても色あせない、柔らかな笑顔で、言いました。



 ――――いつか、花が咲いたら素敵だと思わない?



『あァ、そォだな』


 たったその一言を言うために、随分と回り道をしてしまったものです。


「……何か、言った?」

『……なンにも。で、次はどこに行くって?』


 トカゲはツンとそっぽを向いて、肩の上で丸くなってしまいました。

 どうして拗ねたのか、わからないその様子に、首を傾げながら。


「まずは、パズね、それから、西方大陸。ここから、歩いていくのは、大変だけど」


 そう言って、妹の顔を見て、微笑みながら、言いました。


「……大丈夫よね? 私達、一緒なら」


 妹は、楽しそうに両手を広げて、言いました。


「勿論、どこへでも! ねえさまとなら、あなた(ヴァミーリ)となら!」


 長い旅路です、徒歩で進むにはいささか辛く、時間もかかりますが。

 今まで足りなかったものを、埋め合わせるのには、きっとちょうどよいのでしょう。


 籠の外から出た鳥を、遮るものはもう居ません。

 どこまでも広がる青い空を見上げながら、二人は手をつないで、歩き出しました。


 かつて一つだったものを、二つにわけた双子の姉妹。

 割れてしまったモノを補うために、二人で一つとなった双子の姉妹。

 生と死を共有し、命という器を重ね合わせた、双子の姉妹。


 後にミアスピカの双星と呼ばれる、赤い鱗のトカゲを連れた、双子の冒険者。

 アメラとシストと名乗る姉妹は、行く先々で様々な事件に首を突っ込む事になります。

 彼女たちの冒険が、吟遊詩人達の、格好の弾き語りの種になるのは、まだ少し先の、未来のお話。


挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
こんな映画ポスターみたいな絵を残して行かないでくれ! 漫画化アニメ化してくださいお願いします
[良い点] ここまでずっと面白かったですが、8章はほんとバツグンに良かったです。ありがとうございます
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