エピローグ Ⅰ 三年後の三日月
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竜骸事変、と呼ばれる様になった一件から、三年。過ぎてみれば、あっという間だった。
ミアスピカ大聖堂は大混乱に襲われた。コーランダ大司教、ファイア司教、ルーヴィ特級騎士、ドゥグリー特級騎士。
中核、と呼べる人材が、軒並み亡くなってしまったことで、一時は政治的な大問題にまで発展しかけた……らしいけど、最終的には、丸く収まった、って聞いている。
どうやって、とか、何で、とか、私が理解できるようになるのは、きっとまだ、時間がかかる。
そういえば、ギルド長による、ファイア様の告発の件は、なんだかんだで有耶無耶になったみたい……魔女裁判の被告そのものが居なくなってしまったから、当然と言えば当然なのだけど……おかげで、今、レレントのギルドの評判は、結構悪い。
私は、最後までルーヴィ様のそばに居られなかった。
戦いの場にも居られなかったし、見届けてさせてもらうことも出来なかった。
どんな思いを口にしたところで、それに伴う力がなかった。
でも、私は、聖女じゃない、女神の再来でもないし、竜の祝福があるわけじゃない。
魔女でも、悪魔でもない、小さな人間だから、一歩一歩、進んで、出来ることを増やしていかなくちゃ。
いつか、またあの人達とあった時、横に並ぶことが、できなくなってしまうから。
「ああ、いたいた」
「ラーディア? どうかした?」
「寮母さんから預かってきた、手紙、届いてるよ」
「わ、ありがと、読む読む」
ギルクさんは、ラディントンに向かって、領主として、色々教わりながら、頑張っているらしい。月に一度は、こうやって手紙を送り合って、近況報告をしている。
……領主の仕事は忙しいのか、大半は愚痴だけど。
『やあクレセン君、早速だけど、クルル姉から無茶振りをされました。人の往来が多くなってきたっていうことは稼ぐチャンスなんだから、ちゃんと考えろって、今度ラディントンで新しいお祭りを作れって言われてすごく困ってる、アイディアを思いついたら何でもいいから書いて送って欲しい。年が明けたら、ラーディア君と、パズのみんなもつれて遊びにおいで、同年代の子が居なくて本当に寂しいです』
とか、そんな感じで。
最初の頃は、私がギルクさんに会えなくて寂しかったんだけど、今は、なんだか逆になってる様な気がする。
「…………えーっと、どうしようかな、ラディントン、遠いんだよなあ」
レレントからパズへ、パズからレレントへ。どれだけ最速で行動しても、二週間の年末年始のお休みのうち、ほとんどを移動に費やしてしまうことになる。
「なんて書いてあったの?」
「ん、いつもの愚痴…………ねえ、ラーディア、年末のお休みなんだけどさ」
……でも、あの旅路を振り返ってみたい気持ちも、確かにある。
とんでもないお人好しと、傍若無人な美人と、とっても偉そうなスライムと、無鉄砲な貴族の子女との、もう二度と出来ないだろう、不思議な旅。
廊下の窓から、空を見上げた。ずっとずっと、どこまでも広がる青い空。
あの人達も――この空を見ているだろうか。
「クレセン、どうしたの?」
「あ、うん、ごめんね、すぐ行く、午後はなんだっけ」
「新しい竜骸神殿の、レリーフ作り。道具、忘れちゃ駄目だからね」
ルーヴィ様、私達は、ちゃんと前を向いて、歩いています。
あなたに助けてもらった私達が、今度は、誰かを助けられるように。




