願うということ Ⅱ
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――――竜は、判断を人に委ねた。
その者になら、決める権利があると思った。
だから、その道を選んだのであれば、竜もまた、そうしよう。
【グル、ォ――――――】
竜は、高く高く、空へと舞い上がった。
人の住まう地がある、人の住まう家がある、人の住まう街がある。
全て、全て滅ぼそう。人の子がそれを選んだのなら。
ほとんどの力をあの子に返してしまったが、それでも、わずかに残っている。
そして、竜にとってのそれは、人では抗えぬ、終焉と同じ意味を持つ。
【ゴ――――ァ――――】
その火球は、まず眼前の街を滅ぼすだろう。炎は消えず、大地を走り続け、この大陸全てを焼き払うだろう。
やがて、海をも蒸発させ、なおも消えず、大陸を巡り、星を焼き尽くす――竜の裁き。
『――――――それがお前の選択か、ヴァミーリ』
……懐かしい声が、聞こえた。それは竜にしか使えない言語で、人には意味の伴わない咆哮に聞こえたはずだ。
彼女との記憶以外、ほとんどが欠落した竜が、かすかに記憶に残す、その声は。
『甘えるなよ赤竜、サフィアリスが遺した物は――まだ、ある!』
赤竜の放つ熱を相殺するほどの、膨大な冷気。
蒼銀の体毛、二股に別れた尾、巨大な氷柱の如き、一本の角。
見間違えるわけもない、それは、かつて彼と共に世界を食らった同胞。
蒼竜アイフィスは、大きく吼えると、竜の骸に、その尾を叩きつけた。




