望むということ Ⅵ
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骸となった体で、竜は、空を舞う。
翼は動かす度に軋み、鱗が脱落していくのがわかる。
竜には、わからなかった。
(…………)
長い微睡みの中で、現実と夢想の境界が、揺れていた事もある。
度々生まれる〝目〟達も、その竜の写し身と呼ぶには、いささか個が強すぎた。
人の文化を見ることよりも、自らと仲間の生に執着した――――それは、真っ当な生命とは違うくくりにあった竜の采配ミスと言えるだろう。
むしろ、彼らには悪いことをした、という気持ちすら、湧いてくる。
(…………)
もはや、人の世の形は変わった。
竜の知らぬ社会形態があり、数は増え、営みを繰り返し、かつてとは違う姿に変貌してしまっていた。
変わらぬものも、確かにある。争いがあり、悪意がある。
だが、慈悲もある。博愛もある。
古き竜の判断で、これを裁くことに、今更、何の意味がある。
だから、竜は己で判ずることをやめて、委ねることにした。
今の世を生きた人の子が、その行き先を決めれば良い。
錆びて、朽ちた体を動かす為に使われていた力を、竜は、外へと吐き出した。
滅ぼすも、救うも、決める権利を持つ者よ。
竜は――――それに従おう。




