祈るということ Ⅱ
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『行きが登りだった分、帰りは楽であるな。少しは早くレレントに到着しそうである』
『それはいいケドよォ、旦那。これはまったク慣れなイねェ……』
レレントに戻る道中、馬車の中をぺたぺた歩き回ったり、壁に張り付いてみたりしながら、セキは不満を零していた。
なまじ人並みの知性があるだけに、より一層、違和感を強く感じるのかも知れない。俺から見たらざまあみろと思うのだが、本人(?)は深刻そうだった。
「つーか今更だけど、これはどういう魔法なんだ?」
「擬態魔法の亜種です、通常は自分の髪や瞳の色を変えるぐらいが関の山ですが、魔物使いの娘が歴代改良を重ね、〝契約した魔物〟を違和感のない姿に変身させることができるのです、質量すら変化させられるんですよ」
えへんと胸を張るリーンだった。これがなかったら厄介ごとになっていたであろう事は想像できるのだが……。
「え、じゃあ何、こいつお前と契約したの?」
「仮ですけどね、どうですセキさん、魔女のしもべであるよりは気分が良いでしょう?」
『いヤ動き辛いシ落ち着かないシ不自由がすごイ』
「今日の夕飯は赤トカゲの丸焼きにしましょうか」
『アー、さすがお嬢ダ、慈悲深サに涙が出るねェ』
リーンはセキの扱い方を学び、セキはリーンの扱い方を学んでいるようだった。
そんな道程が、一日と少し。
レレントの影が遠くに見えてきたタイミングで、セキが喉を鳴らしながら言った。
『おィ、ありャなンだィ?』
「あん?」
示す方向を、目を細めて注視すると、確かに小さい何かが、ドドドドドド、と砂煙を上げながらレレントからこちらに向かって来るのが見えた。
……向かってくる!?
「どうします!? 轢きますか!?」
『キュ!?』
リーンが手綱をしっかりと握った。ニコがびびってんじゃねえか。
「即座に暴力を行使する方向にいくな! 避けりゃいいだろ!」
いやまあ、あれがこちらに危害を加えようとして近づいてきているのか、単に整備された街道を通っている為にルートがかぶっているからなのかはわからんが、もし後者ならわざわざバッティングすることもないだろう。
ほんの数十秒で、土煙が最接近してくる。道の脇に馬車を止めて、やり過ごそうとしたのは、結果的に正解だった。
ずざざざざざ、と音を立てて、ニコの前で急停止した『それ』は、や、と小さく手を挙げてこう言ったからだ。
「みーつけた」
褐色の肌、赤い瞳、俺とは似て非なる白銀の頭髪。
クレセンよりも更に一回り小柄なそいつは、見覚えのある顔だった。
「……ラッチナ?」
「いえーす、チナ、目が良い、足速い、運も良い」
むふー、と得意げにしながら、ラッチナはレレントを指さして言った。
「あのね、この先、真っすぐ行ったらだめ」
「な、なんでですか」
想定外の顔が出てきて驚いていたのは、リーンも同じらしい。
目を丸くしながら尋ねると、ラッチナは相変わらず無表情のまま言った。
「今、ギルドときょーかいが、せんそう? してるんだって」
「………………は?」
少し高い丘に移動して、レレント内部に繋がる大門を眺めてみれば、教会騎士がガッチリと固め、出入りを制限している様がよく見える。
その警戒網を避けるように、少し大回りすると、今度は南側の大門に冒険者達が集まっていた。
「あそこは、ギルドが確保した出入り口なんだって」
と、ラッチナが説明してくれた。
俺たちの馬車が近づくと、ガタイの良い冒険者達に眉尻を上げて警戒されたが、秘輝石を見せるとあっさりと通してくれた。
街の中は、俺達が出ていく前よりも更に人気がない。通行人は居らず、どの家も窓を閉め切り、カーテンで中をうかがうことができない。
たまに見かけても気の張り詰めた冒険者ばかりだ――とにかく現状の理解ができない。
「チナは《冒険依頼》を受けたの、あなた達を迎えに行くっていう」
「俺達を?」
「普通に戻ってきたら、教会騎士に捕まっちゃうかもしれないから、だって」
「む、失礼しちゃいますね。教会騎士に捕まるような事なんて生涯一度たりともした記憶はありませんよ?」
「お前とパーティを組んでから教会とは敵対しかしてこなかった気がするが……」
「それはハクラが余計なおせっかいをしたからじゃないですか」
そうだったろうか、こいつが原因の諍いも多々あった気がするが……。
「チナは、どうせわかんないから、詳しいことは聞いてない、でも、報酬がすごい良かったから、ルーバが受けろって」
こいつとルーバの関係は、一体何なんだろう。深く知りたい訳では無いが、ここまで接触する機会が多いと、いい加減、気になってくる部分はある。
ラッチナの先導で、レレント滞在中に何度か通った見覚えのある道を抜けて、たどり着いたのは……。
「……なあ、ここって」
大型の馬車が出入りできるほど広い門扉には、槍を構えた衛兵が入り口の前に立ち、高い外壁が建物をぐるりと囲んでいる。
竜骸神殿を除けば、恐らくレレントで一番大きな建物……ヴァーラッド辺境伯の邸宅だった。
流石に中に入れてもらうのに一悶着するかと思っていたが、ラッチナが堂々と正門から乗り込むと、兵士たちは特に説明を求めることなく、馬車ごと俺達を中に通してくれた。
「ハクラ! リーン!」
で、馬車を降りて早々、ギルクが屋敷から飛び出してきた。
「ギルク!」
「あああよかった先に見つけてくれたんだあ……どうなることかと思ったよ……」
「チナ、ちゃんと見つけてきた」
「ラッチナちゃんえらい! すごい!」
「えへん」
得意げに胸を張るラッチナを抱きしめて一通り頭を撫でくりまわした後、ギルクははっと顔を上げて。
「大変なことになっちゃったんだよ!」
「大変なことになってるのは何となく分かるんだが、それよりお前らに接点があったことの方に驚いてるんだよ俺は」
俺達がレレントを離れてる間に、一体何がどうなったのか、とりあえず、気が重い話になることは間違いなさそうだ。
「チナ、ルーバのところに戻るね」
ということで、ラッチナはてくてく去って行くのを見送ってからギルクの案内で邸宅に招かれ、そのまま食堂らしき場所に通された。
縦に長いテーブルに、高価そうな椅子がずらりと並び、中央には丸いパンが入ったバスケットが鎮座している。
とりあえず座って、と促され、席につくと、
「えーっと、何から話したものかな……」
「コッチから聞きたいことを選んでいいならいくらでも聞きたいことがあるんだが……」
レレントを出る前後で街の状況が変化しすぎていて、何から確認すべきか悩ましい。
「とりあえず、クレセンはどうした? まだ意識は戻らないか?」
「あ、そうだそうだそうだそうだそうだよクレセン君は目を覚ましたんだよ本当に本当によかったっていうかその辺りも色々大変で」
そこからかいつまんで、クレセンが目を覚ましたこと、二人で食事に行く最中、街に隠れ潜んでいたリザードマンに襲われたこと、それをラッチナが助けたことなどを聞いて、ようやく二人の接点がわかった。
「そりゃ何よりだが、そのクレセンはどこいった?」
「えっと、出かけてる……というか、その辺りもちょっと複雑なんだけど……とにかく、その後に起こった事の方が問題で」
「ラッチナちゃんはギルドと教会の間で、んぐ、何かあったって言ってましたけど」
静かだな、と思っていたら、ここぞとばかりにパンを口に詰め込んでいたリーンが、それなりに満足したのか、ようやく口を挟んできた。何て図々しい女なんだ。
「ギルドが……厳密に言うと、ザシェさんが――」
そうだ、ザシェにどう言い訳するかも考えておかないとな……と、名前が出てきた瞬間、ふと考えて、
「――ファイア司教を告発したんだ」
リーンが飲み込みかけたパンを喉につまらせ咳き込み、俺は一瞬言われた言葉の意味が理解できず思考が吹き飛び、スライムが何故か大きく震え、俺の肩にずっと乗りっぱなしのセキすら目をぎょろりと開いた。
「はああああああああああああああ!?」
何やってんだあの陰険眼鏡、っつーかタイミング的には俺らがレレントを出てすぐじゃねえか。
「それで、レレントの浄化に来てくれた、コーランダ大司教と、ミアスピカの神官隊及び教会騎士達が怒りに怒って……」
当たり前だ、というか、なんならレレントの住民だってほとんどがサフィア教徒のはずだし、リザードマンの襲撃で発生した負傷者の治療や土壌の汚染を取り除きに来てくれた連中に対して、油をぶちまけてから火をつけるような真似をしたら大問題になるに決まっている。
「ついにはギルドと教会――というかレレント市民が真っ二つに割れちゃって」
だが教会騎士や神官では、秘輝石を持つ冒険者を物理的に排除することは不可能だ。一方で冒険者達も、ザシェの独断に巻き込まれて立場を悪くしているだろうから、あまり活発には動きづらい。
「えほ、えほ……は、はぁ……で、でもそんな事になったら、ミアスピカ側がファイアさんを確保してレレントから撤収しませんか?」
さすがのリーンも予想してなかった展開に動揺を隠せないらしい。
「私もその場にいたわけじゃないから、又聞きなんだけど、ザシェさんが強引にファイア司教を捕らえて、ギルド本部に連れて行っちゃったんだって。おかげで今、ギルドに人が詰めかけてとんでもないことに……」
オルタリナ王国とサフィアス諸国連合どころじゃない、今この瞬間、レレント内で、ラッチナの言う通り、戦争が起こりそうだった。
「い、いや、待て待て待て、ギルドにそんな権限はないっつーか……ありえないだろ!?」
ギルドの基本姿勢は『中立』だ。政治に関わらず、紛争に関わらない。そのスタンスを徹底しているからこそ、世界中に支部を持ち、人々の生活に関わって行けるのだ、ザシェの行為は明らかにその範疇から逸脱している。
「私もそう思ってたよ! でも……」
ギルクは、自分の額を指さした。
「なんだか、ファイア司教の額に秘輝石があった? とかなんとか……」
それを聞いて。
恐らく、俺とリーンの表情の変化に気づいたのだろう、ギルクが目を丸くした。
横を見ると、リーンですら、パンを食べるのをやめて表情が固まっていた。
多分、俺も似たような顔をしていることだろう、多分、この部屋に居る中で、ギルクと、ついでにセキだけが、その意味を理解していない。
「…………え、っと、何かまずいの? それって」
「まずい、っつーか……なんだ」
冒険者以外にはピンと来ない感覚で、冒険者であればあってはならないと理解していること。
即ち。
「……秘輝石ってのはな、右手の甲以外に入れる事を禁じられてるんだ、ギルドの規則で」
冒険者になるのは簡単だ、最寄りのギルドに行ってスフィアを買い、その場で施術してもらえばいい。ジーレの様に身寄りのない子供ですら、しっかり働けば稼げる程度の金額で手にすることができる。
ただし、スフィアを持ち帰って自分で〝入れる〟のは認められていない、必ずその場で、職員が立ち会って行うことが義務付けられている。
「そ、それって大事なことなのかい? 別に左手とかでもいいんじゃ……」
「駄目なんだよ、もし右手以外にスフィアをつけてる奴を見つけたら、受けてる《冒険依頼》を投げ出してでも引っ捕らえるのは冒険者全員の義務だ。それが出来なきゃ最悪殺してもいいとまで言われてる」
「そ、そこまで?」
ギルクが驚くのも無理はないし、俺が冒険者になりたての頃、同じ感想を抱いたから、気持ちはよくわかる。
その程度で、と思うだろう。
「理由はいくつかあるけどな、世界中どこに行っても、共通言語として『右手の甲を見れば冒険者かどうかの判別ができる』ってのが冒険者の強みだ、逆に言うと右手の甲に秘輝石がなければ、一般人を装う事ができるだろ」
「で、でも、何らかの事情で右手を使えない人もいるだろう?」
「そういう奴らは冒険者になれない、最初から弾かれる」
だから右手首から先を失うことは、そのまま冒険者としての引退を意味する。
「昔はその辺りがゆるい時代もあったらしいんだけどな、ただどっかの冒険者がやらかしたんだと」
「やらかし?」
俺はとんとんと自分の額を指で叩いて、言った。
「秘輝石は神経に根付いて、人間の能力を拡張する。なら脳に近いところに埋め込めば思考力や発想力が強化されるんじゃないかって、額に秘輝石を入れた奴がいたんだ」
「ど、どうなったんだい? それ」
「今でも秘輝石の拒絶反応で死ぬやつは一定数いるけど、首から上にそれを試みた連中は九割方死んじまったらしい。そして耐えきれたやつは――――暴走した」
「ぼ、暴走?」
「ああ、脳に直接魔素を打ち込むと、人間はまともじゃいられないってことが判明した。詳細は省くけどな、とんでもない事態になった。で、それ以来ギルドでは秘輝石の位置を固定することにしたわけだ」
それでも納得いかない、といいたげに首を傾げるギルク。
「う、ううん、でもそれって、右手以外につけたら駄目、って理由にならなくない? 頭につけるのをやめましょう、っていうだけで」
「秘輝石はギルドの独占技術だ、だからギルドは自分たち以外が秘輝石を使うことを許さない。右手以外に秘輝石を入れているやつがいたらそいつは非正規のルートで秘輝石を手に入れた、ってことになるだろ」
ギルドは秘輝石を管理している限り、冒険者の素性、経歴、貯金、能力、全てを把握できる。
言い換えるなら、秘輝石をチェックできなければ、ギルドは冒険者のことを把握できない。
「だからギルドは徹底的に、合理的に、例外はなしで『右手の甲』以外に秘輝石を入れることを許さないルールを作ったんだ。どんな理由があっても、だ」
ルーヴィだって秘輝石を入れていたのだから、ファイアが秘輝石を入れていてもおかしいことはないだろう、どちらかというと、あの『奇蹟』の力が秘輝石を土台にされていた、という方がまだ納得できる、が。
『場所がまずい、そして立場がまずいな』
スライムがぼそりと呟いた。奇蹟をほしいままにする女神の再来が、サフィア教徒達か毛嫌いする秘輝石の力を借りていた、というのは、確かに大問題だろう。
ギルドからしても、その不正な秘輝石の出どころを吐かせる必要が出てくる。ただでさえ政治的にも物理的にも面倒な状況なのに、サフィア教もギルドも、ファイアの味方をしづらい状況にある。
ただでさえ厄介な状態なのに、ギルクは更に嫌な情報を重ねてきた。
「それだけじゃなくて……〝竜骸〟が蘇ったのも、ファイア司教の責任だって言って、裁判にかけられるかもって……」
「えっ?」「えっ?」『えっ?』
俺とリーンとスライムの声が再び重なった。最近こんなのばっかだ。
ゆっくりと顔を横に向けると、リーンは凄まじい勢いでそっぽを向いていた。
「………………リーン?」
「い、いや、まさかそういう解釈をされるとは…………」
確かに、確かにリーンは、〝竜骸〟が蘇ったのはファイアの力が流れ込んだからでは? という仮説を立てていたが。
それを堂々と、専門家として、ザシェの前で披露していたが。
「ザシェ、あ、あの野郎」
本来、レレントが追及されるべき〝竜骸〟を失った責任。犠牲を伴った住民達の怒り。ミアスピカからの正当な抗議。オルタリナ王国からの責任追及、サフィアス諸国連合との戦争問題。
それらすべてを一気に解決する、冒険者の長としては見習いたくなるぐらい、あまりに合理的で無駄のないやり方。
「全部の責任をファイアに押し付けるつもりか!?」
ザシェからしたら、セキが見つかろうが見つかるまいが、〝竜骸〟を取り戻せようが取り戻せまいがどっちでもよかった……いや。
取り戻せるかどうかわからない〝竜骸〟なんざ、最初から選択肢から切り捨てて、被害を最小限に抑える方法を選んだのだ。
〝竜骸〟を失った責任がレレントにあれば、それはオルタリナ王国の失策となる、サフィアス諸国連合の付け入る隙になる。
だが、ファイアを原因にしてしまえば、オルタリナ王国ではなく、ミアスピカ側の管理責任、ひいてはサフィア教全体の問題となる、という理屈だ。
俺達をセキの探索に向かわせたのは、見つかって情報が手に入れば儲けものだし、そうでなくてもファイアを拘束するまでの過程に首を突っ込ませない、という理由があったと思えば、ぶっ飛んだ報酬額にも納得がいく。解決を期待しているわけではない、と言ったのはきっと本心だったのだろう。
成功するかわからない《冒険依頼》の結果を待つより、生贄を用意したほうが確実だから。
『それで教会騎士とギルドがやりあっておるのか……愚かな』
「ギルドには抗議する人々が殺到してて、受付が機能してないから、そもそも《冒険依頼》も受けられない、って状況らしくて……」
そうすると、今度は〝竜骸〟によって壊れた街の修復がままならなくなってくる。物資の流通や建築の補助は、街に居着く冒険者の主流の仕事だというのに。
「で、父様はその処理に手一杯、とても間を取り持てる状態じゃなくて……」
「……その状況だったら、冒険者なんか出ていくだろ、レレントから」
合理主義者の冒険者達が、危険はあるのに仕事がない街に留まり続けるわけがない。いくらザシェがレレントのギルド長でも、個々の冒険者の行動にまで枷はつけられないだろう。
「うん、教会騎士は出入り口を固めて、出ていく冒険者は引き止めないけど、入ろうとする冒険者は立ち入れないようにしてるみたい、ザシェさんの子飼いのキャラバンが唯一確保したのが、ハクラ達が入ってきたルートだけど、あっちはミアスピカに続く街道しかないから、普通の冒険者はわざわざ回り込んで来なくて……」
そうやってどんどん冒険者が減っていけば、勢力として教会側が有利になるのは疑いようがない。
「なまじコーランダ大司教がレレントにいるから、より大事になっちゃってるんだよね、いつどこで何が爆発してもおかしくないっていうか……」
『……今、ファイア嬢はどこに?』
スライムが尋ねると、ギルクは首を横に振った。
「多分ギルド……だと思うけど、ザシェさんがファイア司教を確保してから、私達は姿を見てない。父様に聞いてもわからない、としか言ってくれなくて」
「んー……まずいですねこれは」
さすがのリーンも焦った様子だった。
「ファイアさんに全部押し付けるためにいちばん簡単な方法は、ファイアさんを魔女に仕立て上げてしまうことですから」
ザシェのやったことは、理屈は通っていても道理が通らない、民衆の感情が許さない類の大暴投だ……それを通そうとするなら、相応の理由がいる。
時間が経つにつれて、立場は悪くなっていくのだから……どれだけ悠長に構えても、あと数日以内にはファイアが魔女である証拠を作り出してくるはずだ。
奇蹟の聖女が、ギルドも教会も裏切っていた、背信者の魔女である、となったら、ギルド、というよりも、ザシェに向けられている怒りが、そのまま全部ファイアに向くだろう。
「せめて【聖女機関】が機能してればよかったんですけど……今は専門家がいないんですよね」
なにせトップのルーヴィがいない。それ以外の中心メンバーはパズでククルの庇護下にある。教会側ですら、魔女かどうかを判断できる人材は限られているのだ。
残っているのといえば……。
「ギルク」
「…………な、何だい」
「…………クレセン、今どこにいる?」




