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魔物使いの娘  作者: 天都ダム∈(・ω・)∋
第七章 たった一人の為の騎士

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接続章 裁かれる蒼の魔女《せいじょ》 Ⅱ


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 ソレ(、、)は、レレントを空高くから、見下ろしていた。




 ミアスピカ大聖堂から、大司教が、神官隊を伴って到着した、という知らせはあっという間に街中に広がった。

まだ最低限しか手が回っていなかった治癒魔法の施しを、大量の銀塊を携えた司祭達が次々とこなしていく。




「ここから先は立ち入らないでください、これより女神の奇蹟を以て浄化致します」




 他にも、突然腐りだした(、、、、、、、)魔物の死体(、、、、、)によって、汚染された水や畑を、次々と流れ作業のように浄化していく。


 冒険者は、確かに、洗礼を受けた信者よりも、便利に、器用に、治癒魔法を使うかも知れない。

けれど、一つの信仰に集った、志を同じくする者達による、大規模な〝救済〟を真似することは、出来ない。


 女神の再来、ファイア・ミアスピカは、確かに奇蹟を起こした。

だが、力を合わせれば、同じことを、皆の力で出来る。


 その景色こそ、民衆がほしかった姿だ。

 冒険者だけでは足りない、教会という組織の存在が、無くてはならないことを思い出す。


 彼らは安心したい。彼らは安全でありたい。彼らは失いたくない。

 だから、拠り所を必要とする。

 だから、女神サフィアは、人々に慕われたのだ。

 求められ、貪られ、その挙げ句に、死んだのだ。


「〝我は女神の代弁者。我は女神の慈悲の雫をその手に受けたもの。ああ、どうか救い給え、救い給え、救い給え。罪なき人々の痛みを取り除き給え――――〟」


 女神の再来を伴い、神官隊を指揮しながら、大きな杖をかざし、聖句を唱え、助けを求め集う人々に、治癒を施しながら歩く大司教の姿に、誰もが安堵を覚えた。


「コーランダ様! 大司教様!」「ああ、よかった、よかったよぉ!」

「ファイア様、ありがとうございます!」「助かった……どうなることかと思った」


 助けを求めたくせに、いざとなったら見捨てて、また縋り付いた少女にすら、賞賛と感謝のエールを贈る、なんて厚顔無恥なのだろう。


〝竜骸〟を失った不安すら、埋まっていく。

 私達は、まだ大丈夫だと。

 何も終わってなんていないと、そう感じる。


 悲劇からほんの数日なのに、まるでお祭り騒ぎだった。

 年に一度、収穫祭のパレードもかくやだ。

 あそこに行けば救われると、誰もが根拠なく信じている。


 だけど、人間は愚かだから。

 人を信じきることなど、出来ないから。

 ただ無秩序に救われるだけでは、満足できないものが。

 新しい争いを、生みだしてくれる。


 ――――大司教が行く道を、とある一団が塞いだ。

 先頭に立つのは眼鏡の男。左右に立つのは、北方大陸では名前の知らないものなどいない程高名な、冒険者商隊(キャラバン)のリーダー達。

 背後には、その構成員達が群れとなって、ずらりと並ぶ。

誰も彼もが一流と呼んで良い、歴戦の冒険者であり、ギルドの意向でもって動く、合理主義者の集団。


「あなたは―――ザシェ様」


 行く先を阻まれ、困惑する大司教は、咄嗟に杖を放り捨て、傍らの娘を手元に抱き寄せた。

 まるで、なにかから守ろうとするように。


「遠路はるばる、よくぞ来てくださいました、コーランダ・ミアスピカ大司教。まさか本当に二日でレレントまで来ていただけるとは。ギルドを代表して、お礼を申し上げます」


 レレントでは(、、、、、、)、領主とギルドと教会の談合が行われているが。

 教会都市(ミアスピカ)においては、存在を許されない。

 ギルドとは、女神を冒涜するもの、穢すもの。

 故に、神官隊は、我らが大司教に触れさすまいと集い始め、

 それに応じるように、冒険者達も一歩前に出る。


「やめなさい、まだ挨拶をしただけですよ?」


 剣など持つことが出来ないであろう細腕一本を伸ばすだけで、そんな荒くれ達を制しながら、ザシェは再び、コーランダ大司教へと向き直った。

 互いの視線が交わり、やがて口を開いたのは、大司教の方だ。


「お礼を言われることではありません。我らは女神の信徒、助けを求めるものがあれば、駆けつけるが当然。誰のためでもなく、己の信仰のためにそうしているのです」


 コーランダ大司教の返答は、女神に仕えるものとして、百点満点と言っていいだろう。

 この場において、悪者は誰だろうか?

 民衆の不信感は、誰に集まるのだろうか?

 周りを取り囲む人々の視線も、徐々に険しくなっていく中、ザシェはパチパチパチ、と手を叩いた。


 軽快な拍手が響き、困惑の声は更に強くなる。

 一体、彼は何がしたいのだ。

 この奇蹟の一瞬を遮ってまで。

 誰もがそう感じていた。

 誰もがそう思っていた。

 そして。


「いい加減に――――」


 神官隊の一人が、痺れを切らして前に出た次の瞬間。


「ファイア・ミアスピカ司教」


 ザシェは、女神の再来の名前を呼んだ。


「は、はい……?」


 母親の聖衣を、縋るように掴んでいた少女は、突如呼ばれた、己の名前に困惑し。




「――――あなたを、ギルドの規律に(、、、、、、、)基づき(、、、)、拘束します」




 パチン、と指を弾くと、ザシェの右手の甲が強く光った。

 それは、刻まれた魔法の発動を意味する。


「あ、ああああああああああああっ」


 途端、ファイアは、悲鳴を上げて、頭を抑えうずくまった。


「ああああああああああっ!」

「ファイア、駄目よ、落ち着いて!」


 コーランダ大司教は、そんな娘を抱きしめ、暴れるのを止めさせようとするが。

 それは無理だろう。

 ギルドが何故、常人を遥かに超える、冒険者という生物に対して、強制力を行使出来るのか。



 それは、秘輝石(スフィア)を持つものに対する、絶対的な優位を持つからだ。



「それが女神の再来、聖女の奇蹟の正体だ。さあご覧なさい、大聖堂の者よ」

「あああああああああああああっ! 嫌ぁああああああああっ!」


 痛みに耐えかねて、少女の身体から、蒼い粒子が溢れでた。

 その勢いは、ローブを、そして表情を覆い隠す、御簾のように垂れ下がっていた前髪を、舞い上げた。


「見ないで――見ないでくださいっ!」


 大司教が、絶叫し――そして人々は、言葉を失う。

 なぜなら。


 ファイア・ミアスピカの額には、蒼い宝石が埋め込まれていたからだ。

 中央に星の文様を宿す、最上級の輝石。

 あらゆる癒やしと浄化の奇蹟を、器が許す限り刻み込んでいるであろう秘輝石(スフィア)――星蒼玉(スターサファイア)が、そこにあった。


「〝竜骸〟は蘇り、レレントを去った。では、誰が〝竜骸〟に新たな生命を与えたのか。我らがオルタリナ王国の、信仰の象徴を奪い去ったのは誰か! 潰えた命の蘇生という奇蹟を起こしたのは誰か!」


 オルタリナ王国、ヴァーラッド領レレント。


「女神の再来――――いや、こう呼ぶべきでしょう、蒼の魔女(せいじょ)、ファイア・ミアスピカ」


 〝竜骸〟が去ってから二日後の朝に、一つの告発が行われた。

 



「ザシェ・ルワントンの名において、あなたを告発します」




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