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魔物使いの娘  作者: 天都ダム∈(・ω・)∋
第六章 レレントの赤い竜

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接続章 星紅と蒼玉


 †


「私の側を、絶対に離れないで」

 ルーヴィ特級騎士がそう言って、わたくしを背中にかばってくださいました。

 剣を手にしたルーヴィ特級騎士の前には、槍を構えた、蜥蜴のような形の魔物が居て。


『シャララララ――――ジャッ!?』


 ルーヴィ特級騎士が剣を振るうと、彼らは、動かなくなりました。それを見ると、なぜだか、わたくしの胸は、ぎゅうと締め付けられたように痛むのです。


「……何が、あった? クレセンは――いや、ファイア司教、こっち、安全な所に」


 ルーヴィ特級騎士が、わたくしの手を引きました。それが、彼女の仕事です。

 けれど。


「た、助けて! 誰か、誰か!」


 その悲鳴が聞こえた時、気づけば、わたくしは駆け出していました。


「――――ファイア司教!」


 ごめんなさい、ルーヴィ特級騎士。

 でも、助けを求める声が聞こえたら、わたくしは、そこに向かわねばなりません。

 崩れた瓦礫の下敷きになっている方がいました。わたくしは、指を噛みちぎり、血の雫を滴らせ、それを媒介に、祈りを捧げました。

 わたくしの生み出す蒼い光は、人の傷を癒やし、穢れた大地を元に戻す力があるそうです。何故そうなるのかは、わかりません、けれど。


「あ、ありがとう、助かった――!」


 そう言っていただけるだけで、心から、良かったと思えるのです。


「だ、誰か……!」「助けて!」「痛いよぉ!」


 だけど、まだまだ、沢山の悲鳴が聞こえます。沢山の、助けを呼ぶ声が聞こえます。

 わたくしは、走りました。誰かを見つける度に、血を与え、癒やしました。


「もう大丈夫ですよ」


 ありがとう、ありがとう、と。

 そう言ってもらえることが、何より嬉しくて。


「ああ! 聖女様、聖女様だ!」


 誰かが、わたくしを呼びました。


「商業地区にきてくれ! 建物が崩落して、怪我人が沢山居るんだ!」


 それは、大変です、言われるがまま、わたくしはそちらに行こうとしました。

 ですが。


「待ってくれ! こっちだって怪我人が居るんだ!」


 誰かが、わたくしの、反対の手を掴みました。


「ふざけんな! 俺が先に見つけたんだぞ!」

「こっちのほうが近いんだ! 先にこっちを手当してくれ!」

「馬鹿いうな! 放っておいたら死んじまう!」

「こっちだってそうだ! 聖女様! なんとかしてくれ!」

「そうだ、聖女様!」「女神様!」「助けてくれよ!」


 はい、はい、はい。わかりました。わたくしが助けます。わたくしが救います。わたくしが手を差し伸べます。だから、行かせてください、離してください。



「早くしてくれ!」「何してるんだ!」「おい、こっちにもきてくれよ!」「聖女様がいるの!?」「助けてもらったんだ!」「じゃあ俺の娘も!」「嫁を!」「父を!」



 人々が、集まってきました。助けるのが、わたくしの役割です。

 なのに、なんで、どうして。



『――ちゃんと区別をつけないと、いずれ自分に返ってきますよ』



 その時。

 大地が揺れたのかと思いました。けれど、違いました。

 大きな、大きな竜がいました。天まで果てしなく届くかに思える、赤茶けた、竜の骸。

 それが動いて、歩く度に、また、大地が揺れて、建物が壊れ、悲鳴が聞こえました。


「うわあああああああああああ!」「きゃああああああ!」


 わたくしに助けを求めていた人たちが。

 わたくしを置いて、逃げていきました。


 竜は、わたくしを見ていました。じぃと見下ろして、ぎぃぎぃと音を立てながら、ゆっくりと、その顔を近づけてきました。


 いいえ、ゆっくりに見えましたが、それは竜が、あまりにも大きかったからでしょう。

 はっと思ったときには、もうその顔は目の前にあって。

 大きな口が開いて、わたくしを飲み込もうとしていました。


「あ…………」


 動けませんでした。わたくしの足は、言うことを聞いてくれませんでした。

 怖いのに、声が出ませんでした。

 恐ろしいのに、どうしていいか、わかりませんでした。

 力が入らず、できたことは、何度も繰り返した動作だけ。

 両手を組んで、祈ること――――。


「ファイアッ!」


 風より疾く。

 炎より猛く。

 わたくしの前に飛び込んできた、赤色。


「あっ」


 手を、差し伸べられました(、、、、、、、、、)

 わたくしは、その手を、取ろうとしました。

 だけど、身体が、突き飛ばされて。

 わたくしが居た場所に、姉さま(、、、)が立っていました。

 竜のあぎとは、もうそこまで迫っていて、そして。

 ぶつん、と音がして。

 右の、肩から先が、無くなっていました。

 赤い、赤い血が、吹き出て。


(ねえ)、さま」


 駄目なのに。

 そう呼んでは駄目なのに。


「ねえさまああああああああああああああああああっ!?」


 わたくしは、何も。

 何も、出来ない。


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