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魔物使いの娘  作者: 天都ダム∈(・ω・)∋
第六章 レレントの赤い竜

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差し伸べるということ Ⅵ


 ◆


 街壁に取り付けられたバリスタがフル稼働して、太い矢が空を飛び交う。

 だが、それらは本来、空を飛んで街の外からくる魔物に対して使うものだ。

 最初からレレントの上空に現れ、垂直落下してくるような奴ら目掛けて放てば、大半の矢は外れて、街の中のどこかに突き刺さる。


 それが人に刺さらない保証はどこにもないし、仮にワイバーンに命中したとしても、今度はそのワイバーン自体が質量の塊となって降ってくるんだから最悪だ。


「馬鹿野郎! 内側に撃つな! くっそ――!」


 多分、兵士も騎士も混乱している。冒険者である俺ですら状況がわからないのだ、使える武器をとっさに使おうとしてしまうのも無理はないんだろうが……!


『シャラァ!』

「うるっせぇ邪魔だ!」


 更に厄介なことに。


『シャララララララララ!』

『シャララァ!』


 街に降ってくるワイバーンの背中には、リザードマンが二、三匹張り付いていた。

 石槍や石斧を持ったそいつらは、一般市民には勿論、教会騎士でも複数人がかりでなければ危険だ。それが概算で百匹以上、街の中に侵入している。

 レレントに滞在している冒険者達も、各々対応し始めている頃だろうが……。


『お嬢、こやつらの目的は――』


 スライムが、向かってくるリザードマンの足をとって転ばし、俺が起き上がる前に首を刎ねて仕留める。これであっという間に三匹目だ。


「ファイアさんじゃなかったら、逆にびっくりです!」

「だよなぁっ!」


 それでも、なお迫ってくるリザードマンを斬り捨てて、走る。


「うううー、もっと早く気づいてればよかった……っ!」

「考えても仕方ねえだろ、それより――――」


 蜥蜴共の攻撃対象は、誰も彼も容赦なしだ。わざわざ建物の扉をぶち破って中に入ろうとはしていないが、人間を見つけたら手当たりしだいに襲いかかっている。


「ひゃあああああああああ!?」

「――――止めなさいっ!」

『シャラッ!?』


 リーンが強く叫ぶと、槍を振りかぶっていたリザードマンの動きが止まった。その隙に首を刎ね飛ばし、襲われていた男の腕を掴んで引きずり起こす。


「おい生きてるか生きてるなよし建物の中に入って出てくんじゃねえぞ!」

「は、はい!」


 そうやって、目についた蜥蜴を斬り、人を助けても、どうしたって間に合わない事がある。


「うわあああああああああああああああ あっ」


 空から降ってきて、ぐしゃりと石畳に頭をぶつけ、そのまま動かなくなったのは、多分街の職人だろう。数メートル上で、ワイバーンがギィギィと鳴いている。


「っの野郎…………!」


 俺が殺気を向けると、ワイバーンはこちらには向かっては来ず、ぐるりと旋回していく。リザードマン達は手当り次第暴れているが、ワイバーン共はちゃんと戦う相手を選んでいるらしい。


『小僧、飛べ!』

「ああ――――テメェ逃げんじゃねえ!」


 足元で膨れたスライムに乗って、足に力を込める。まずスライムが飛び跳ねて、そして膨らむ。一気に高度を増したその位置から、更に俺が跳躍し。


『ギィ!?』

「安全かと思ったかよ!」


 両翼を〝風碧〟で斬り裂いて、背中を蹴り飛ばす。ぶよんとスライムの上に再度着地、これでワイバーンも一匹撃破だ。


「おいリーン! こいつらなんとか出来ねえのか!」

「目の前に居てくれればともかく、流石に街全体に広がられると……!」

「だったら昨日言ってたあれはどうだ!」


 種族全体に命令できるなら、レレントの中に居るリザードマンもワイバーンもまとめて対処できる。


「駄目です」


 だが、リーンはきっぱりと言い切った。


「あれは本当に、最後の最後、どうしようもなくなった時の最終手段です」

「今もうかなりどうしようもない状況な気がするんだが!?」

「いえ、そうでもないです」

「どういう意味だ――――――よっ!」

『シャッガッ』


 角を曲がり際、出てきたリザードマンを〝風碧〟で斬り払う。とにかく数が多い。


「リザードマン達は基本的に逃げ場がありません、時間が経てば経つほど、冒険者達も動き始めますから、そのうち制圧できるはずです」


 確かに、ワイバーンだって、うかつに降りてくれば斬れるのは証明済みだ、冒険者の中には弓や魔法で遠くを攻撃できる者も居る。バリスタの矢も当たればワイバーンは倒せるわけで、数は着実に減っている。


「だったらこいつら、なんでわざわざ特攻してきてんだ!?」


 とりあえず走ってはいるが、どこに向かっているか、自分ですら分かっていないのが、正直な現状だ。

 敵がファイアを狙っているとして、そのファイアがどこに居るのか、俺達はわからない。

 俺達にわからない、ということは、当然蜥蜴共にだってわからないはずだ。


「いえ、多分私達より早く、ワイバーンはファイアさんを見つけるはずです」


 リーンははっきりと断言した。


「……その理由は?」

「これだけ被害が広がれば、ファイアさんは絶対に誰かを助けに動いて、奇跡を起こすでしょう?」

「そりゃそうだろうが…………ああ!」


 そうだ、ファイアが傷を治す所を、俺達は見た。

 ファイアが力を使う際は、眩く光る蒼い光の粒子を放つ。


「向こうの目は空の上です、上から見れば、一発でわかります、だから――――」

「――――ファイアに(、、、、、)力を使わせて(、、、、、)、居場所を突き止めるつもりなのか!」


 畜生、なんて真似しやがる。命をコストとして消費する前提なら、冒険者より、よほど合理的だ。

 俺が悪態を吐いて、じゃあどうするかと思案した時。


『きゅいいいいいいいいっ!』


 聞き覚えのある鳴き声が、耳に飛び込んできた。


「ニコ!」「ニコちゃん!」


 荷台は牽いて居らず、単体でここまで来たようだ。見た所怪我はないらしく、リーンを見つけると駆け寄ってきて、頭をぐいぐいと押し付けた。


「よくここがわかりましたね、いい子です!」

『きゅい!』


 リーンは手早くニコに跨り、それから俺に手を伸ばした。


「ハクラ、何してるんですか、速く!」

「…………いや、俺が触るとニコは怒るし」

『きゅいいいいいいい!』

「あいたっ!?」


 前足で、思い切り足を踏まれた。


「そんな事言ってる場合じゃないだろ、って言ってますよ! いいから速く!」

「ああそうかよ! この野郎覚えてろテメェ!」


 リーンの後ろに乗ると、ニコは指示を待たずに走り出した。馬車を牽いている時とは、比べ物にならない速度だ。


「…………こいつどこに向かってんだ?」

「え、わかんないですけど……ニコちゃん?」

『きゅい!』


 やがて大通りに出ると、道に沿って、ニコは更に加速する。この景色には、見覚えがある。


「え……なんですか、ニコちゃん――――あれ?」


 このまま進めば、たどり着くのは竜骸神殿だ。特徴的なシルエットが見えたと思ったら、ぐんぐんと大きくなっていく。


「この先に、ファイアさんがいるんですか?」

『きゅうぃ?』

「違うんですか!? え、じゃあ何――――あっ!」

「ん? …………あぁ?」


 リーンの指す先、竜骸神殿に向かって、ワイバーンが一匹、降下している影が見える。


「何であんなとこに――――うおっ!」

『きゅいいいいいいいいいいいいっ!』


 それを見たニコが、またも速度を上げた。途中にある邪魔なもの全てを飛び越えて、あっという間に神殿に到着し、そのまま中へ突っ込んでいく。


「――――――こりゃァ、驚いたねェ」


 竜骸の目の前に到着し、ようやくニコが足を止めた。


「陽動は上手く行ッてたと思ったんだがねェ――あァ、そっちの馬には、俺の臭いを覚えられてたのか、そりゃあ失敗、失敗」


 フルル、と威嚇するようにニコが体を震わせた。

 強烈な加速でふらつく身体を、なんとか両足で支えながら、俺はそいつを見上げて、睨みつける。




「テメェ――――セキ!」





「ハクラ・イスティラ。また会ったねェ」


 竜骸の頭部の上に、あぐらをかいて座っていたのは、ラディントンへ向かう道中に出会った、あのリザードマンだった。ここまでセキを運んだであろう黒いワイバーンは、主を守護するように寄り添い、俺達を睨みつけている。


「この騒ぎはテメェの差し金か」

「まぁねェ。褒めてくれヨ、大変だったんだぜ、同胞達をまとめ上げるのはサ」


 リザードマン共が群れで動いて、ワイバーンと共闘してる理由。

 人並の知性を持つリーダーが組んだ、作戦に寄って動いていたのだ。


「つまり、テメェの首を飛ばせばいいってことだな」

「出来るかィ? いやァ、出来ないねェ。俺ァ戦いに来たわけじゃないのサ。返してもらいに来たんだヨ」

「――――あぁ?」


 どっちにしても、問答するつもりはない。この距離なら、飛べば届く。

 前とは違う、こちらには〝風碧〟がある。今度は、怯む理由がない。


「何を返せって?」

「そりゃァ決まってるサ」


 セキは座ったまま、右手でもった槍を持ち上げた。

 以前、セキが持っていたものとは違う、柄から穂先まで、全てがどす黒い赤に染まった、不気味な槍だった。


「――――駄目ですハクラ、逃げて!」


 それを見た瞬間、リーンが叫び。


「遅いねェ」


 俺が攻撃に移るより速く、セキは手にした槍を――――竜骸に突き刺した(、、、、、、、、)





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