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家①

 バスは長いこと走って終点に着いた。降りるときに駅員はこいつもか、と睨むような目をした。

 そこはほとんど山で、舗装されている道も無い。石砂利の感触が足を伝って不快だった。何分か歩いたあと、後ろから車が来て、僕の横で止まった。開いていた助手席の窓から顔面ピアスだらけの男が顔を出して、「家」に行くのか?と聞いた。

 はい、と答えると、ピアスの男は運転手と少し話して、嘲るように笑った。後ろ乗れよ、歩くやつなんていねえぞ。

 言われた通りに車に乗ると、シートに寝転がっていた女が僕を見て面倒臭そうに座り直した。運転手とピアスの男が品のない笑い声を上げながら、車は砂利道をガタガタ進んでいった。

 車は凄いスピードを出して一時間も走り、やっと「家」に着いた。そこは新築の一軒家で、あちこちに車やバイクが停められている。

「送ってくれてありがとうございます」

 降車するときに頭を下げると、運転手は車のキーを僕に投げた。

「帰りは送れないからな」

 彼は笑いながら舌を出した。それは真っ白く、チロムを服用していない者の色だった。

 玄関のドアを開けると、靴が乱雑に脱ぎ散らかされていた。ピアスの男と運転手は横に置かれたダンボールの中に靴を投げ入れた。ダンボールの上には「死ぬ人は靴をここに」という張り紙がされている。

 リビングのドアを開けると、タバコや酒の臭いが流れてきて僕はむせた。女もさすがに眉を顰め、口と鼻を手で庇う。

「お前ら慣れてないのか」

 ピアスの男は笑い、カウンターに座っている男を呼んだ。

「おお、サカモト。シンヤも久し振りだな。こいつらは?」

 ピアスの男はサカモト、運転手はシンヤと呼ばれた。サカモトは僕と女の頭を軽く叩いて、「弟と妹」と紹介した。

「へえ、兄弟か。俺はシゲル、よろしくな。セックスしたくなったら二階まで行けよ、シャブはチロムと交換しろよ、酒もあるけど、酒飲むくらいならシャブやった方がいいな。ああ、お前ら死ぬんだよな?」

 僕が舌を出すと、シゲルは怪訝そうな顔をして太い指で僕の舌を引っ張った。赤えぞ、こいつ。

「弟は死なねえよ、妹は結構末期だが、まあ、まだ決めて無いんだと。俺とシンヤは死ぬ」

「まあ好きにしてくれや」

 サカモトは早速、チロムワンシート(10錠)と、マルボロの箱に入った大麻をシゲルと交換した。サカモト達はシゲルがカウンターテーブルに戻ったのを見て、じゃあな、と言って何処かへ行ってしまった。

 壁をあちこち改築しているのが見て分かる。リビングはクラブを思い出すほど広かった。耳は喧騒で塞がり、視界は煙で曇った。いつからか大麻の煙に酔っていて、無性に食欲が強くなりさっきまで何故売買されているのか不思議だったリンゴをチロムと交換して頬張った。それは僕が生涯で食べた物の中で一番美味しいものだった。

 自分がどこを歩いているのか分からなくなったが、すぐに女性の喘ぎ声が聞こえてきた。シゲルがセックスは二階と言っていたのを思い出したその時、黒いワンピースを着た女が抱き着いてきた。大麻の臭いはしないが目は赤く淀んでいて、チロムを服用していた。女は僕の手を引き、強引にザラ付いた舌を入れてきた。リンゴ味のキス、と女は笑った。僕がセックスを拒むと、そう、と笑って他の男に抱き着いた。

 一階と二階を行き来していた僕は正直疲れていた。セックスをする気もなければ大麻を吸う気もなかったが、その家を出ようとしたときには思考はフラクタルのように動いて、何か勿体無い気がして戻ってリンゴを購入して齧り付いた。シゲルは僕のことが気に入ったのか、僕を手招きしてカウンターまで誘った。

「楽しんでる?」

 シゲルの問に真っ先に浮かんだのは、みずみずしく甘いリンゴだったが、彼はセックスや大麻のことを聞いているのだろう。

「ええ、ところで、サカモトさんがどこにいるかわかりますか」

「あ、やっぱりサカモトの弟じゃないだろう。あの妹もそうなんだろ?いやまあいいや、あいつらは屋上に行ったと思うぜ」

「屋上?」

「屋上は死体ばっかだからな、やってらんねえよな、あんな臭いんだからよ。バイト雇って処理してもらってるけど、この前のやつが残ってたら最悪だよ、いられねえな」

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