表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/9

七話

お待たせしました!

「今の銃声何だ!?」

久里が驚いて音の方へ振り向いた。高木も遅れてそちらを見る。

「・・・まさか・・・!」

高木の頭に、否、久里の頭にも嫌な考えが過ぎった。他の部員の面々が──。

二人は駆け出した。もう仲間を失いたくはない。原の二の舞はもうごめんだ。

 100mほど走っただろうか。先程の場所にみんなはいなかった。二人に焦りが募る。嗚呼・・・もしかして・・・。

「は、はぁ・・・。た、高木・・・、先い、行け・・・」

 久里がいきなりそう言った。高木が慌てて振り向くと、過呼吸の一歩手前なのではないか、と思うほど息を切らした久里がいた。

 高木が「大丈夫か」と声をかける前に久里はゲホゲホとせき込んでしまった。どう見ても“大丈夫”な状態ではない。高木がアワアワしている間にも久里はせき込み続け、終いにはその場に座り込んでしまった。幾度となく苦しそうだ。

 「つ、ついてないなぁ・・・こんな時に・・・ゲホッ・・・喘息なんて」

「お、お前喘息持ちなのか!?何で早く──」

「最近・・・出てなかったんだ・・・ゲホッ・・・。か、環境が変わったせいかな・・・」

 早く行け、と久里が急かすようにもう一度言った。

──どうする・・・?

高木は迷った。久里を無理に動かすわけにもいかないが、一人残すのも不安が残る。第一に土地勘のないこの場所でここに戻ってくる自信など、無いに等しかった。

 「高木!」

久里が絞り出したように叫んだ。高木には意味が分かっていた。早く行け、と。自分を置いていけ、と。

 「・・・畜生ッ!!!」

高木はがむしゃらに走り出した。答えは──“久里を置いて行く”だった。

 久里を置いて行く気持ちが変わる前に、あの場から一刻も早く離れたい──、高木はそんな気持ちで走っているのだろうか。

 高木は中距離選手だ。800mを走っている。体力の底など、無いに等しかった。だが、4、500m走ったところで、スピードが落ち、そして──止まった。

 理由は簡単だ。『人の気配が全く無かった』。ただそれだけ。それでも、高木を恐怖と孤独と絶望のどん底へと突き落とすのには十分だ。むしろ十分過ぎるほどだ。

 「・・・何なんだよ・・・友情戦争って・・・」

呟くように高木は言った。だが、その言葉も静寂に呑まれていった。マイナスイオンだけが流れる、寂しく静かな森の静寂に──。

 そんな静寂を破ったのは、「高木先輩」という弱々しい小さな声だった。

「だ、誰だ?」

「高木先輩、私です」

 高木は声のする方へ走り出した。それは絶望のどん底にいた高木の中に、一筋の光を差し込んだ。

「高木先輩・・・」

「・・・未沖・・・生きてたか・・・」

 そこには未沖の姿があった。横には黛も一緒だ。

「何があった?いきなり銃声が──」と、話し始めた高木だったが、すぐに未沖の言葉によって遮られた。

「話したいのは山々なんですが、先輩、“逃げて下さい”」

「は?」

 この後、高木はここでもたついていたことに後悔することになる。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ