七話
お待たせしました!
「今の銃声何だ!?」
久里が驚いて音の方へ振り向いた。高木も遅れてそちらを見る。
「・・・まさか・・・!」
高木の頭に、否、久里の頭にも嫌な考えが過ぎった。他の部員の面々が──。
二人は駆け出した。もう仲間を失いたくはない。原の二の舞はもうごめんだ。
100mほど走っただろうか。先程の場所にみんなはいなかった。二人に焦りが募る。嗚呼・・・もしかして・・・。
「は、はぁ・・・。た、高木・・・、先い、行け・・・」
久里がいきなりそう言った。高木が慌てて振り向くと、過呼吸の一歩手前なのではないか、と思うほど息を切らした久里がいた。
高木が「大丈夫か」と声をかける前に久里はゲホゲホとせき込んでしまった。どう見ても“大丈夫”な状態ではない。高木がアワアワしている間にも久里はせき込み続け、終いにはその場に座り込んでしまった。幾度となく苦しそうだ。
「つ、ついてないなぁ・・・こんな時に・・・ゲホッ・・・喘息なんて」
「お、お前喘息持ちなのか!?何で早く──」
「最近・・・出てなかったんだ・・・ゲホッ・・・。か、環境が変わったせいかな・・・」
早く行け、と久里が急かすようにもう一度言った。
──どうする・・・?
高木は迷った。久里を無理に動かすわけにもいかないが、一人残すのも不安が残る。第一に土地勘のないこの場所でここに戻ってくる自信など、無いに等しかった。
「高木!」
久里が絞り出したように叫んだ。高木には意味が分かっていた。早く行け、と。自分を置いていけ、と。
「・・・畜生ッ!!!」
高木はがむしゃらに走り出した。答えは──“久里を置いて行く”だった。
久里を置いて行く気持ちが変わる前に、あの場から一刻も早く離れたい──、高木はそんな気持ちで走っているのだろうか。
高木は中距離選手だ。800mを走っている。体力の底など、無いに等しかった。だが、4、500m走ったところで、スピードが落ち、そして──止まった。
理由は簡単だ。『人の気配が全く無かった』。ただそれだけ。それでも、高木を恐怖と孤独と絶望のどん底へと突き落とすのには十分だ。むしろ十分過ぎるほどだ。
「・・・何なんだよ・・・友情戦争って・・・」
呟くように高木は言った。だが、その言葉も静寂に呑まれていった。マイナスイオンだけが流れる、寂しく静かな森の静寂に──。
そんな静寂を破ったのは、「高木先輩」という弱々しい小さな声だった。
「だ、誰だ?」
「高木先輩、私です」
高木は声のする方へ走り出した。それは絶望のどん底にいた高木の中に、一筋の光を差し込んだ。
「高木先輩・・・」
「・・・未沖・・・生きてたか・・・」
そこには未沖の姿があった。横には黛も一緒だ。
「何があった?いきなり銃声が──」と、話し始めた高木だったが、すぐに未沖の言葉によって遮られた。
「話したいのは山々なんですが、先輩、“逃げて下さい”」
「は?」
この後、高木はここでもたついていたことに後悔することになる。