僕の彼女は可愛い人でした。
初めまして、僕は緋色と言います。特に赤くないのですが緋色という名前です。
ええ? そんな話いらないって?
まぁ聞いてくださいよ。
僕の身に起きた数奇な運命を……
突然ですが、僕には彼女がいます。
それはそれは見目麗しく、という表現が相応しい方です。
スラリと伸びた手足に小さな顔、透き通るような大きな眼に桜色の唇。
万人が想像しうる限りの美しさを持った人それが僕の彼女だったのです。
まぁ、それはそれは成績も優秀で非の打ちどころの無い尊き女性。
そう名称のつく麗しさ僕の樹……
彼女をひけらかすのはあまり好きでないので友人の陽気にだけは話していました。
「おはよう、陽気。全然陽気な顔してないのに陽気って名前で損だねお前」
陽気は朝から辛気臭い顔をして僕の斜め後ろに座る。
「おはよう、相変わらず毒舌だな緋色は……」
「ああ、そんな事どうでもいいんだよ。昨日ね、僕の可愛い樹が家に遊びに来てね、パンケーキを作ってくれたんだよ。それはそれは濃厚な味の見た目も美しい作品だったよ。その後にね僕の部屋で耳かきをしてくれたよ。なんて素晴らしい人生なんだろう」
陽気が机に突っ伏した。
どうしたんだい? 僕の樹の素晴らしい話は君にしかしないのになぁ……
「彼女の膝はとても寝心地のいいふんわりとした寝心地でね、ついうっかり居眠りをしてしまったら樹は優しく起こしてくれるんだよ『緋色さん起きてください』ってね」
ああ、陽気が机にめり込んでゆく……いつもながらどうしたんだというんだ?
「彼女はまるでヴィーナス! そうさ美の女神ヴィーナスなのだよ。さながら僕は彼女に恋をした狩人さ」
「……緋色さぁ、もうちょい穏やかに言ってくれんか? 意味が分からんというか何かの神話がごっちゃになってるぞ」
陽気が陽気に何かを言っている(駄洒落だよふふっ)
そんなところに登校してきたのが僕のディアナこと樹(ちょっと変わってる? ふふっ)
「やぁ、樹、今日も美しいね流石僕の樹だ」
そっと彼女の椅子を引き、促すように座らすとにこやかに樹が微笑む。
「ありがとう、緋色さん。いつも素敵ね」
チュッと僕の頬に優しく口づけを落とす姿はさながらアフロディテ。
と、そこに轟音を響かせてやって来たのはこのクラスの問題児の美杏さん。
がっとドアを開けて、のっしのっしとこちらにやってくる。
あぁ、女性というのは樹のように美しく穏やかでなければならないと僕はため息をはいた。
が……
「樹! あんた男だったでしょう!!!!!!!!!!!!!」
美杏が恐ろしい形相で叫び、ビックリしたクラスメイトがこちらをうかがう。
笑顔で意味の分からない言葉を受け取った本人の樹は穏やかに微笑み……
「あらやだわ、美杏ちゃん。ちゃんと説明してあげないと皆意味わかってないわよ」
呆けた教室に新たなる使者が……
「あれ? どうかしたの美杏?」
美杏の幼馴染の彩さんがすたすたと空気も読まずに後ろの席に座る。
「彩、彩。こいつ、樹は男なのよぉっぉおぉぉっぉぉぉぉぉぉぉぉぉっぉぉおっぉおぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおお」
こんにちは皆さん。
僕は緋色と言います。特に赤くなかったのですが緋色と名付けられました。
現在、顔が真っ青です。
蒼色と名前を変名するべきなのかどうか悩んでいます。
隣でにこやかにペタンこの胸を晒して微笑む美少年が僕の恋人です。
否、でした。
僕には同性愛的なホモセクシャル的な衆道的な何かは存在しないはずなのですが、僕の彼女と思っていた人はどうやら本当に男性だったようです。
僕はどうしたらよいのでしょうか?
とりあえず以下の電話番号まで解決策を宜しくお願い致します。
元緋色現在蒼色の相談窓口
080-××××―○○○○
相談時間午前七時から各休み時間十分間と放課後にお待ちしております。