檻の中
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昔々、神様はもう存在していない頃。
とある水の国でのお話。
水の国のある騎士の一族に、子供が1人生まれました。代々続く由緒ある一族だったので、男の子が生まれることを皆が望みました。が、生まれたのは女の子でした。その一族は女の子を生んだきり、子供は授かりませんでした。
一族の者は女の子に男の名前を付け、男の子のように剣術などを教え、立派な騎士に育てあげました。
女の子はそれに文句の一つも漏らさず、今もずっと騎士として居続けているのでした。
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朝日が国全体を照らし、朝をつれてくる。
海賊達のいる部屋の窓からも明るい光がいっぱいに差し込んでいた。
既に目を覚ましている海賊達はざわざわと話し合い、どうにかして逃げられないかとキッチリと結ばれたロープに悪戦苦闘していた。
コンコン、とノックの音が響き重そうな扉が開かれる。
部屋にいるすべての者の注目が集まる中、部屋に入ってきたのはペルラとメランプスだった。
「お早う、諸君。よく眠れたかな?」
凛としたよく通る声で話しかけるメランプスに、海賊達は自分たちを拘束するロープをギチギチいわせて目一杯の罵りの言葉を浴びせかけた。ペルラはその姦しさに眉をひそめ、メランプスはどこか楽しそうに笑った。
「随分と元気なようだから心配無いな」
カツカツと音を立てて海賊達に歩み寄り、仁王立ちする。座った状態の海賊達を見下ろし、睨みつけてくる視線を確認するかのように一人一人に目をやった。徐に腰に手をやり、そこにある鞘からシャン、と剣を抜く。
静まる海賊達。メランプスは相変わらずニコニコしながら剣を横に薙いで、言葉を紡いだ。
「私は、王国時代よりこの国を支える十人委員会の長を代々務めるクォーツ家の第六代目、メランプス・クォーツ」
「貴様等はこの国に危害を加えようとした。故に処罰してしまうのが妥当であろう」
「だが、私はそれよりも貴様等を有効活用しようと思う」
ゆっくりと剣を下ろす。
「諸君。お前たちには、十人委員会の名の下、兵士として働いて貰う」
静まり返っていた部屋が、流石にざわめく。
ざわざわと次第に大きくなる声に、メランプスが床に剣をわざとぶつけて鋭い音を出した。再び静まる海賊達を確認し、鞘に剣を戻す。
「基本的には海軍か陸軍だが、能力によってはその限りでなく他の課に所属して貰う事もある」
そこで、海賊達の中から一人の男があの、と話しかけた。
「"能力"とは、一体何のことだ?」
海賊達は皆同じことを気にしていたようで、うんうんと同調してみせる。メランプスはペルラにチラッと目配せをした。
「"能力"とは、他の人より優れた力や、魔法のような力を操れることを指します。たとえば、」
入りなさい、と扉の外へ声をかけると、海賊達と共にいた2人の少年ーソルとマニーが入ってきた。小さく海賊達に手を振り、ペルラの横に立つ。
「あなた方もよく知っているこの少年達の能力を調べてみました」
ソル、とペルラが促すとソルは手を差し出し、その小さな掌に炎を出して見せた。
どよめき、少しばかりの悲鳴が聞こえる。
「彼は炎を操ることができるようです。他にも併せ持つ力がある可能性もあります」
「マニは、ここでは披露できませんが研究や調査に関する発想、考察力が著しくすばらしいです」
「人間誰しもが大小様々の力を持っています。あなた方もその能力に合わせた職場について貰うつもりですが、基本はやはり体力ですので体づくりは欠かさずやって貰いますよ」
パンパン、と二度手をたたくと兵士らしき人々がドッと部屋に入り込んでくる。ぶつぶつとロープを切り、列を作るように並ばせた。
「さぁ、今日はあなた方全員の能力を調査しますから、てきぱきと動きなさい」