船の上
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昔昔のその昔。
神様がまだ存在していた頃の話。
あるところに、小さな村がありました。その村である時、美しい双子の男の子が産まれました。親は、その子達にそれぞれ太陽と月と云う意味の名前を与えました。ところが、それを聞いた太陽の神や月の神が激怒しました。太陽神と月神は2人を攫い、月と太陽を引く車をひかせる役目を与えたのでした。
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フェンリルが海賊達の物と思われる船に辿り着いたときには、船の上は死屍累々と云った様子で人が倒れていた。灯りがそれをぼんやりと照らして不気味さは更に上乗せされている。
(眼ぇ見えてないのにこれだけやっちゃうなんて、流石……ペルラちゃん、だな)
船の上をぐるりとまわりながら、適当に倒れている人の顔をぺちぺち叩いてみる。勿論皆気絶していてうんともすんとも言わなかった。
船上にペルラの姿が確認できなかったので、船内に入ろうとすると、ガチャンとひとりでにドアが開きペルラが出てきた。別れたときと変わらない姿ーなのだが、1つ違う点があった。
「何…ソレ」
「こら、人をソレ呼ばわりしない。…この船に乗っていた子供だよ」
ペルラの服にしがみつくようにしてくっついている、2人の子供。金に近い茶色の瞳に、淡い茶髪。2人とも警戒心を露わにしてフェンリルを睨みつけている。ペルラはそんな2人の頭を撫でて宥めながら、自己紹介をするように促した。
「ソル」
「………マニ」
一言だけ、突っかかるようにして言った、目つきの鋭いソル。たっぷり間を空けてからボソッと呟いてピャッとペルラの後ろに隠れてしまったマニ。この短時間で何があったのかは知らないが、2人はすっかりペルラを信用し懐いているようだった。
「流石に子供を伸してしまうのははばかれるからね」
さぁ帰りましょう、とその辺に倒れている海賊の襟首を掴んでズルズル引きずってゆき、その辺にあったロープで適当に海賊達を縛り付ける。ソルとマニは、心配そうに海賊達の顔を一人一人のぞき込んでいた。
パンパンと手を払ったペルラは、その船にゴンドラを繋いで船ごとヴェネツィアに向かっていったのだった。
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港に着く頃には、水平線がうっすらと光を帯び始めていた。
ペルラはフードを深くかぶり直し、港に見えた人物に手を振った。
「ペルラさん、お帰りなさい」
「ただいまティアマット。今回も協力してくれてありがとうございました」
「俺の能力が役に立って良かったです」
能力、というのは世界中の誰もが持っている、他人より優れた力やまるで魔法のような力のことを云う。例えば運動能力が高かったり、水や炎を操れたり。中には複数の能力を持つ人物も存在しているらしい。
「ティアマットは何してたんだ?」
「フェンリルさんは俺の能力を見たことありませんでしたっけ」
「ティアマットの能力はあまり派手なモノではありませんからね」
ティアマットは苦笑して、それから掌を上にして、手を差し出した。すると青白い光が掌の上に現れ、水でできた球体が出来上がった。
「俺の能力は水を意のままに操れることです。今回はその応用で、ペルラさんの足下だけ、水に沈まないようにしてみました」
拳を握ると球体は消え去った。
これで満足ですか、とでも言いたげな目でティアマットがフェンリルを見ると、フェンリルは肩を竦めた。十分だ、という意味なのだろう。
そうこうしているうちにも、ティアマットが連れてきた軍人に海賊達は連れて行かれ、とある大きな建物の中の部屋に放り出されるように入れられた。雑に着地したことで、数人が若干目を覚ましている。まだ状況をうまく把握できていないらしい。ペルラは、数人で見張るように指示し、ソルとマニを連れて部屋を出た。
「話は、一眠りしてからにしましょう」