表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
99/147

17生徒会お茶会(9)

 立村は水野さんと二言三言言葉を交わした後、霧島のいる方へ歩いていった。

 ━━まずくないかこれは。

 今見たようすだと特にぶちぎれているわけでもなさそうなのだが、なにせ状況が状況なのだから、念を入れて行動したほうがいい。ここは学校内ではない外部の環境で、いくら貸しきりと言ってもなにか問題が起きたらことである。乙彦は立ち上がり立村のあとを追った。声をかけねばと口をひらきかけた時、

「立村、悪い、状況を説明するから黙ってまず聞け」

 制止が入った。難波が乙彦の方をもと来た方に乱暴に押しやった。

 ━━なにするんだこいつ!

 乙彦を日頃より目の敵にしていることは重々承知しているが、ここまで露骨に嫌うことはないだろう。割り込みたいが乙彦に向かって更科が両手合わせて拝んでいるのが目に入ったので、いったんがまんする。

 難波が周囲をにらみ回しつつ、落ち着いた口調で立村に話しかけた。これがホームズなのかと、あらためて観察することにした。


「まず、今日の集まりの目的は青大附属と可南の生徒会における、非公式の親睦会だ。それはわかっているよな」

「ああ、わかってる」

「だが生徒会同士となると顧問もはさんでいろいろとうるさいので、あえてお前や古川、また可南の生徒会長の友人も集めようということになった。恐らく立村はここからの事情を把握していないと推測しているんだがどうだ」

「難波の言う通りだ」

 立村の返答は波もなにもない。落ち着いて対応している。難波もビシネスチックに会話を進めている。

「お前が参加できないと決まった段階で人選については話し合った。可南の生徒会長としては、友達を三人呼ぶことになった。それが、ここにいる三人だ」

 新井林と、佐賀と、そして雅弘を指差した。

「友達……?」

 立村が怪訝そうな顔で乙彦の方をなぜか向いた。最初のふたりはともかくとして、因縁のある雅弘を友達とは呼びたくないのだろう。説明する義務があると感じた。口を開こうとしたがまた難波に制された。

「悪いが関崎は黙っていてくれ。立村にきちんと説明するまではな」

 ふざけるなと言いたい。可南の生徒会長イコール水野さんだが、立村と雅弘がぶつかり合った例の事件とは直接関係がない。ここは、

「だが、これは水野さんよりも俺が関わっていることだろう」

 食い下がるも、難波の態度は変わらない。きっぱりと断わられた。

「あとでその辺りも説明する。今はくちばし挟むな。たまたま新井林と佐賀は元青大附中評議委員であり、元生徒会長だ。こちらとしても、高校に進学後の繋がりをもってもらうためにはいいだろう。そういうことで生徒会側で判断したというわけだ。ここまでは立村が参加するとわかっていても当然そうしたはずだ」

「なんとなくわかる」

「だが、そこで清坂、羽飛とも相談していたのが、現在佐賀がおかれている立場だ。清坂の意見としては無事卒業した後輩たちを温かく迎え入れたい。一方で佐賀がいろいろと噂に巻き込まれているのもあわれだ。このままだと色眼鏡で見られてしまうだろう。それであればこの機会にきちんと顔を合わせてそれぞれ事情を聞く機会ももうけてしまおう。どうせ非公式なんだから、とそういうわけだ」

 いつのまにか清坂と羽飛のふたりが、立村たちを追うように奥のテーブルへ移動していた。無言でいる清坂と、もうひとり親指たてている羽飛と。難波はストローをおしゃぶりのようにくわえた。

「だが、それにつけくわえてだ。関崎がたまたま佐川と親しかったこともあり、せっかくであればきちんと三人が顔を合わせて今までのことの経緯を説明し、その上で水に流せるようであれば流し、問題あれば相談にのろうとということになったわけだ」

 本来であれば乙彦が自分の口から説明したかったことを、このホームズ気取り野郎はとくとくと語り続ける。

「関崎からしたら友達のおかれた立場を救おうとした、熱い友情の現れなんだろう。だが立村にとってはたまったもんじゃないな。清坂も立村が参加するということであれば佐川の参加は断るつもりだった。幸いか不幸か、立村がピアノの稽古かなんかで出られないと聞いたから、それであればと関崎にも了承をもらって佐川を混ぜることにした。まずはここまでが俺たちの認識しているところだ」

 ━━結局俺がすべて悪いことにするつもりか?

 立村が来ないから雅弘を呼ぶという提案はたしかにしたが、もし立村が来たらきたで覚悟はしていた。どちらにしても雅弘は無実なのだから、きちんと話せばわかりあえるはずと思っていた。ただ時期が早いんでないかとは正直感じていたが。

 ━━まるで俺が立村の裏をかいてしくんだような話になってるんじゃないのか。

 心外だ、心底心外だ。

 とはいえ、

 羽飛と清坂が

「だから言っただろが。立村に隠し事してもいつかばれるんだから最初からいっときゃあよかったんだって俺もあれだけ言っただろが!」

「けど、でも!」

 騒いでいるのをちらと見た立村は、

「あのさ、清坂氏。詳しくは火曜にきっちり聞くから今はいいよ」

 いつものような穏やかさで声をかけた。ふたりが突然拝むようなしぐさをしたのに少しなごむ。とりあえず清坂たちが懸念していた友情断絶はなさそうだ。

 古川ひとりが食事をつまみつつ、のんびりと声をかけている。この中で一番冷静に状況を観察しているのは古川あと名倉くらいではないだろうか。

「そうさね、羽飛も美里もとりあえずは火曜にうちでじっくり事情聴取されればいいよ。つまみ作っとくからさ」 

 ━━事情聴取か。あとで聞いておこう。

 立村はしばらく難波の話に耳を傾けていた。気持ち悪いほど穏やかに、

「難波、お前の立場は中立だからもう少し聞かせてほしいんだけどさ。事情は把握したからいいんだけど、霧島がなにか今、したのか?」

 その場が凍りつく質問をさりげなく投げ掛けた。難波が絶句した。隣の更科と顔を合わせているが、ひとりだけ開き直っている奴の発言ですべて答えが出た。

「僕は間違ったことなんて言ってませんよ!」

 その瞬間、きっと立村の目付きが変わったように見えた。手を挙げかけた。周囲が息を呑む。でも誰も止めない。もし立村が霧島をぶん殴ろうとするのであれば押さえねばならない。もう一度近づこうとした。一瞬の判断だった。


 立村は降り下ろさなかった。静かに手を下ろし、霧島に一言、

「黙れ」

 今まで感情を露にしなかった立村が、静かに憤っているのだけはひしひしと感じた。霧島があれを受けて黙りこくってしまったのも無理はない。乙彦も手もちぶたさのままそこに立ちすくんでいた。立村は全く乙彦に興味を示さず、ただ難波にだけ声をかけた。

「俺はたまたま用事が早くすんだので顔だけでも出そうかなと思ってここに来たんだけど、そういう事情だったら先に失礼するよ。ただ、俺も霧島についてはそれなりに責任感じているところもあるから何があったのかだけ客観的に教えてもらえないかな」

「責任とはなんだ?」

「つまり、俺と本条先輩との関係に近いと考えてもらえば一番近い」

 ━━何を言っている? やはり、和解したのか? 

 杉本梨南が最後の力を振り絞り乙彦にたのみこんだことを思い出した。なんのことはない、当事者同士でもうまくやっているのか。このあたりも確認しなくてはならない。乙彦が思いを巡らす中、立村は相変わらず飄々とした態度でいる。難波が念押しする。

「ということは、今俺が、霧島のしでかしたことを逐一説明してその上でこいつの不始末を対処してくれるということ、と解釈していいのか?」

「うん、それでいい。霧島の全責任は俺が負う」 


 立村が言いきったとたん、霧島が口をぽかんと開けているのに気がついた。

 さっきまでの威勢のよさはどこへやらだ。

 ━━打ち合わせていたわけじゃないんだな。

 驚かされたのは乙彦たちだけではなく、霧島も同じだった、それを確認できた。


 

 




 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ