17生徒会お茶会(8)
霧島が登場した時よりも清坂たちの慌てぶりは激しかった。
それまで懸命に霧島へ訴えかけていたその声が一転して、
「立村くん、あのね、事情があるの。ごめんね」
機嫌をとるようなもうしわけなさそうな口調に変わる。それまで様子見していた古川も、清坂を援護するように、
「もういいよ全部かくしだてしないでしゃべっちゃいなよ。立村、あんたにはわるいことしたね。ごめんごめん」
いろいろ言い聞かせている。さすが青大附属の姉御だけある。もうひとり、立村の扱い方にたけているはずの羽飛も同じく機嫌とりに徹している。
「立村、悪い、やっぱ美里の千里眼にさ」
まずは聞け、そう言いたいのだろう。立村の表情は特に怒りもなさそうだが無表情であることは確かだ。全くこの三人には返事しようとしない。それはまずいだろう。
ここは外部生かつ元水鳥中学出身の自分が舵取りすべき場面だ。
乙彦は立ち上がった。立村に近づいた。
「立村、俺も伝えるべきだった。やはりこれはきちんと話すべきだ」
ちらと立村が乙彦に目線を向けた。挨拶も交わさない。ぞくっとするものがあるのは気のせいか。心励ます。清坂たちは立村との友情が災いして困り果てているようだが、よく考えれば雅弘と立村、因縁のふたりが顔を合わせたのはめったにないチャンスではないだろうか。腹を割ってきちんと話せば、中学二年冬から始まるふたりのわだかまりもあっさり溶けるんではないだろうか、ほら、もう春だ。梅も咲いている。一瞬にして緊張感漂わせた目付きの雅弘に呼び掛けた。
「ほら、雅弘、なんとか言え。言いたいことをきちんと話すチャンスだぞ。これ以上、誤解を撒き散らしてどうするんだ」
本当にそうだ。雅弘は自分に見に覚えのない噂を霧島に撒き散らされてそれでかっとなっているだけだろう。もっとシンプルに考えればいいのだ。そんなことはなかったとあっさり答えればいいだけのことだ。古川じゃないが「かくしごとなどするんじゃない」そのものだ。
立ち上がり立村の背を押そうとしたとたん、かなり力込めて振り払われた。
━━挨拶くらいすべきじゃないのか?
いつもの過剰なくらい礼儀正しい立村ではない。無表情と思っていたが、これはもしかして、
━━猛烈に怒っているのか?
残念ながら立村に乙彦の真心は通じないようだった。少なくとも今の段階では。
立村が関心を持っているのは生徒会連中ではなく、水鳥のふたりと青大附中を卒業したばかりのふたり、だけのようだった。テーブルに一歩近づき、無言でなにか言いたそうに、でも無言で見下ろしている。
その気迫を感じ取ったのか、あの堂々たる新井林すら立村に丁寧に挨拶しているのが妙だ。これも違和感だ。
「立村先輩、お久しぶりです。今日来ないんじゃなかったんですか」
佐賀はるみが軽く会釈している。そちらも無視。やはりこれはいつもの立村ではない。ただなにが原因でこんな礼儀知らずな真似をしているのかが乙彦にはわからない。古川から聞いた通りであれば、今の立村はとにかく弟分の霧島を捕まえてなんとかしようとしているのだろう。羽飛に連絡してなんとかうまく対応するよう頼んだと言うのであれば、だ。ここで雅弘や佐賀、新井林と顔を合わせることになろうとは思っていなかっただろうが。それでこんなに動揺しているのだろうか。
━━ここでとにかくなんとかしないとまずい。
隣の名倉と目が合った。首を振られた。
━━どういう意味だ?
一瞬迷った隙、やさしく心地いい声が、かすかに聞き取れた。
「はじめまして。私、可南女子高校生徒会長の水野です」
━━水野さん? 立村のこと、知っていたのか?
乙彦が迷う間もなく、立村ははじめてまともに挨拶をした。
「はじめてではないと思います。二年前、杉本のことをいろいろ面倒みていただき、ありがとうございます。水鳥中学生活委員だった水野さんですね」
聞こえた声は穏やかで、いつも学校で自然に振る舞う立村そのものだった。




