17生徒会お茶会(6)
学校に普通来てこないようなきっちりしたコートで現れた霧島を、ただ無言で見守る。あくびれることなく霧島は、笑みすら浮かべてまず奥の生徒会メンバーに、
「みなさまお久しぶりでございます、お揃いでいらっしゃいますね」
例の甲高い声で言い放った。
「霧島くん、どうしたの、今日ここ貸しきりなんだけどな」
清坂がひきつり笑顔を浮かべつつ問いかけると、
「よく存じております。招かれざる客ということも自覚はございます」
開き直る口調で次に、難波の方に向かった。更科が口を開こうとすると、
「おふたかたお久しぶりです。うちの姉の件ではいろいろお世話をかけましたが、とうとう嫁入りすることになりましたのでひと安心ってところですよ」
ここはせせら笑うような言い方だった。思わずなのかそれとも図ってなのか難波が一歩前に出ようとするのを更科が止めた。
「ホームズやめとけ。それより、なんで来たのか説明必要じゃないかな。言っとくけど立村は今日いないよ。確かピアノのレッスンが午前中にあってそこから身動き取れないっていってたから」
「存じております。更科先輩」
慇懃に交わす霧島。さて次は自分のほうかと覚悟して向き直ると、
「関崎先輩、その節はいろいろお世話をおかけいたしました。おかげで僕なりの準備が整いました」
まるで乙彦がそそのかしたかのようなことを言いやがる。これは訂正しておかねばならないことでもあるので口を出す。
「霧島、今日は生徒会と他高との集まりだ。場所を伝えなかったのは、お前が顔を出してかえって迷惑になるからなんだ。いい加減ここで帰ったほうがいい」
「関崎先輩、そんなに僕が怖いですか」
鼻で笑うようにして霧島が呟く。他の連中からの視線が怖い。裏で霧島と繋がっていたと勝手に思われるのは心外だ。乙彦は、立村との仲介こそ喜んで引き受けたが生徒会がらみの面倒な話に関わる気はさらさらない。
「怖がる必要はないと思うが」
「さてそろそろ、僕を本当に恐れる方々がいらっしゃったようですね」
なんともやりきれないタイミングで、入り口の来客気配を感じる。霧島がコートを羽織ったまま振り返り、
「お待ちしておりました、さあどうぞ」
つんとした狐面で、さらりと挨拶した。
新井林、佐賀、そして後ろには雅弘と水野さん。四人で待ち合わせてきたらしい。仲良しアピールしなくても伝わってくる。これだけで霧島の言い分が間違っていることが証明されるはずなのではないだろうか。
「おとひっちゃん、遅れてごめん、あれ?」
雅弘ののんびりした声がふとおさえめになる。ひょいと乙彦に顔を向けた後、びっくりした風に霧島を見て、
「入っていいのかな」
恐る恐る尋ねている。霧島は雅弘たちに表情変えることなくテーブル席を指差し、
「僕は用が終わったら先に帰らせていただきます。どうぞお席についてください」
まず新井林に、続く佐賀、戸惑った風に一礼する水野さん、そして雅弘の順に入り口付近のテーブルを占拠した。本当は清坂も水野さんを奥に座らせて話したかったらしいが、霧島にさからうのが今のところ危険と感じたのだろう。あえてなにも言わなかった。それにしたがい乙彦の回りに名倉、泉州、阿木が陣取る形となる。
生徒会内でも外様な自分らが固まっているのもどうかと思うが仕方ない。
霧島はいかにも自分がこの場のリーダーであるかのごとく振る舞っていて、本来押さえる立場にあるはずの清坂および羽飛もなにも言えずにいる、不思議なことだった。もし乙彦が生徒会長だったとしたらためらうことなく一喝するだろう。そもそも貸しきりの場所に、呼ばれてもいないくせにふんぞり返っていること自体乙彦には理解不能である。それをあえておっぱらわないようにしているのはなにか足かせでもあるのだろうか。いや清坂が女子ゆえに動けないのであれば代わりに羽飛なり、難波なり、更科なりがなにかアクション起こしてもいいはずなのではないか。
━━いざとなったら俺と名倉でなんとかしなくてはならないかもしれない。
腹に覚悟をためておくことにした。
霧島は全員が席についたことを確認し、二時間ドラマの名探偵が謎を解くがごとく、テーブルの間を歩き回り始めた。そういえば古川は?と目をやるといつのまにか店の人たちに注文を細かく出していた。誰もメニューを見ていないのにいつのまにか大皿にシーフードスパゲティと唐揚げ、フライドポテトにボール入りのサラダがセッティングされていく。乾杯の音頭をとる余裕もなさそうなので、乙彦たちの席ではアイコンタクトで意思統一し、まずフライドポテトに手を出した。
「まず最初にご説明させていただきますが」
霧島は食べ物に目もくれず、反対側のテーブルでうつむいている佐賀に向かいまた目線を生徒会メンバーに戻した。
「僕は真実をお話させていただくためここに来たのです。それ以上の目的はありません」
「でも霧島くん、それ、今じゃなくてもいいよね、別の日にまたみんなでゆっくりと話し合えばいいじゃない」
清坂の制止も無視して続ける。
「このメンバーでお集まりいただくことなど今後ないでしょう。もし新井林先輩、佐賀先輩のおふたかたが生徒会に立候補されたとしてもその時にはみなさまいらっしゃらないでしょうし。いえ、そもそも立候補して信任されるかですね。佐賀先輩、あなたは僕をすべて悪者にして、ご自分だけ自由になろうとお考えのようですが甘く見ないでいただきたいところです。ついでに言わせていただくなら」
飛びかからんばかりの新井林の目付きが怖い。いざとなったらこの虎も取り押さえねばなるまい。幸い今は雅弘が押さえに回っている。
「僕が今まで佐賀先輩にしてきたことはすべて、杉本先輩の差し金とされているらしいので、まずそのあたりを訂正しないとまずいでしょう。僕がE組で杉本先輩と接する機会があったのは事実ですが、僕に妙なそそのかしなどいちどもありませんでしたよ。どうやら学校側は杉本先輩にすべて罪を押し付けて問題解決しようとされているようですがね」
「霧島くん、黙りなさい!」
清坂ひとりが叫んでいる。
「そのことも含めて話し合おうって私が言ってるのわからない?」
かけより、霧島のそばに近づいた。同時に他の生徒会男子たち……すなわち羽飛
難波、更科の面子も雅弘たちのいるテーブルに移動してきた。とりあえず男子連中は座っているが清坂だけは立っていた。
「なんで学校側が杉本さんにひどいことしているかわかってる? すべて霧島くんを守るためにそうしているって、なぜ考えないの? 杉本さんは傷ついてて、あんなひどいことされたけど、霧島くんがかわいそうだからって理由ですべてがまんしてくれたのよ! すべて霧島くんのためなの!」
霧島の表情はうかがえないが、微動ひとつしない。
「よく存じてます。杉本先輩には最後の最後までお世話になりました。ですがお伝えすべきことはそこではありません」
制止しようとする清坂を無視し、霧島は人差し指を佐賀はるみに向けた。
「佐賀先輩、僕はあなたを無理矢理押し倒してはおりません。あなたが、僕の部屋に自分から入ってきたんですよ。僕の家はご存じの通り店を経営しているもんで裏口ってのがあります。僕ひとりで出入りする時は窓からですが、あなたをお連れするのはさすがにまずいと思い、姉がいない時にこっそりお連れしましたよ。もうお忘れになったとは、おっしゃいませんよね。そこで、そこの誰だかさんとの会瀬を言わないでくれるのであれば、同じことをとご自分から、おっしゃいませんでしたか?」
うつむき顔を覆う佐賀はるみに、そっと優しい声をかけているようすの水野さんがいる。今日は中学時代と同じお下げ髪だった。
━━水野さんだけは変わっていない。
修羅場が繰り広げられている中、乙彦は傍観者の立場からずっと水野さんだけを見つめていた。




