17生徒会お茶会(5)
そうこうしているうちにも他の青大附高生徒会メンバーが顔を出し始めた。生真面目な名倉が現れて、軽く頭を奥のふたりと古川に下げた後、すぐ乙彦をひっぱっていった。これ以上古川に確認は難しい状況だ。
「どうした」
まずふたりだけの席に移動し、いきなり問われる。名倉も鈍感ではないらしく、雰囲気が殺気立っていることには違和感ありありらしい。
「いろいろ面倒なことはあるようだが、俺たちのすべきことは変わらないだろう」
「どういうことだ?」
「すなわち、他の学校の奴とうまくやっていこうということだが」
━━いや、それ以前の問題としてだ。
名倉にはまだ誰も、生徒会裏のややこしい事情について説明をしていないようすだ。清坂生徒会長をトップにした青大附属高校生徒会も一枚岩というわけではなく、相変わらず馴染めない人間は放置されているというのが現状。もっとも名倉には阿木が懸命にアプローチしていたり、泉州がからかったりしているのでそれなりに会話する機会はある。さらにいうなら名倉の会計能力を清坂は高く評価し、なにくれとなく気にかけてはいる様子だ。もっとも名倉にはそれをありがたがる気持ちなどなく、乙彦がいる時はいつもべったり張り付いてくる。うんざりしているといった顔でだが。
「結論はそこなんだが、はっきり言って俺たちは余計なことに首突っ込まず流れに任せておいたほうがいい。どちらにせよ今日は俺の親友が来るから、あとで紹介してやるよ」
雅弘のお披露目とも言える。言いながら気づいたのだが、この場でうまく話がまとまれば、青潟工業とのルートもできるだろうし、あの如才ない雅弘のこと、あっという間に仲間をこしらえて連絡とってくれるかもしれない。そうすると家に戻らなくても学校との繋がりで雅弘とも会えるというわけだ。それはそれで楽しいことだ。
「お前の親友か」
「ああそうだ。幼稚園時代からの腐れ縁だが、ある意味弟分のようなもんだ」
名倉はテーブルにおかれた水をくいくい飲んだ。やっぱり空っぽにするのが早い。十二時から注文開始とあるが早めに飲み物くらい用意してもいいような気がするのだが、やはり決まりなのだろう。ふと、名倉が立ち上がり店舗の責任者らしき人を呼び止め、
「すいません、飲み物注文先にしてください」
ぶっきらぼうながら、誰もが希望していたであろうことを頼み込んだ。
特にいやがられることもなく、全員の前にはアイスコーヒーやオレンジジュースがすぐに並べられた。戻ってきた名倉に古川が一言、
「どうもあんがとね」
礼を言うも無視していた。
そのタイミングでさらに他の連中がぞろぞろ入ってきた。次に現れたのは難波と更科の元青大附中評議委員コンビだ。乙彦をちらと見て、手を挙げる難波と、愛想よく、
「やあやあ、これはお早いお集まりで」
と笑う更科。相変わらずいいコンビではあるが、乙彦とは近づきたくないようですぐ奥のふたりを捕まえていた。
「もう注文したのか」
「名倉くんが言ってくれたの。難波くんたちも頼みなよ」
もう席は奥と決まっているらしく、さっさと四人席についた。清坂が古川と乙彦、名倉に呼び掛けた。
「じゃあ奥にみんな集まろうよ」
「ちょいと待った、客人たちはどこに座らせるんだ」
難波が鋭く質問を投げかける。乙彦もそれは入ってきた当初から気になっていた。店内は少し大きめのテーブルが奥まったところにあり、その手前に小さな四人がけのテーブルが並んでいる。今回の集まりは貸しきりにせざるを得なかった理由でもある。
「それほど広くもないし、いいんじゃない早いもの勝ちで」
「そういうわけにはいかないだろう。やはり生徒会関係者が奥でそれ以外がテーブルというのが自然じゃないのか」
「そうかもしれないけど、ただ」
異論ありそうな清坂を遮るようにして羽飛が口を出した。
「ホームズ、悪い、それより昨日の話で追加事項が増えちまった」
「なんだそれは」
耳打ちする羽飛。乙彦の隣で名倉が奇妙そうに、
「なにかあったのか」
また尋ねた。
「あったんだが、俺たちには直接関係ない」
あるならきっと羽飛あたりから発表があるだろう。耳打ちされた難波が手招きで更科を呼び、また聞こえないようにささやく。
「そっかあ、キリオくんだけじゃないってことか」
「あいつのことならやりかねないが、へぐったな本条先輩も」
「まあそんなわけで臨戦態勢ってわけだ。俺たちは霧島がひょっこり現れたらできる限り追い出す。貸しきりってところで諦めてもらえたらありがたいんだが。けどどんどん奥へ入ってきたら今度は難波、お前に任せた。美里は口出すなよ」
「えー、どういうことよ!」
ここは羽飛がてきぱきと話を進めている様子だった。
「お前は生徒会長なんだから、可南の生徒会長とあと新井林の機嫌をなんとかとってやってくれ。美里でねえとできねえだろそこんとこ。古川には悪いが立村が顔だした時のためにうまく丸め込む準備だけよろしくな」
「わかったわかった。準備しとく」
どうやらここで主導権は羽飛に移ったらしい。少しは乙彦も話が通じそうなので、いくつか聞いてみることにした。
「霧島がきたら俺たちはどうすればいいんだ? 普通に話し合って終わらせることができないのか? さっき古川からある程度の事情は把握したんだが全くの濡れ衣の話なんだから、話せばわかるんじゃないか」
あきれはてた、内部生一同。
「関崎くん、今回、私ももう少し説明しとけばよかったね。今時間がないからあとでその話するけど、とにかくこの場では霧島くんの言い分を認めるわけにはいかないの、たとえ嘘であっても、私たちは霧島くんが悪いことにしとかなくっちゃいけないの。そのために立村くんには内緒で話を進めてきたの。立村くんにはあとで私たちがきっちりと腰据えて話すつもりでいたけど、今だと時期が早すぎるの」
「霧島が悪いもなにも、噂を広げた以上は反省しなくてはならないだろう」
「そうね、でもこの件は本当にいろんなことが混じりあっていてこれ以上話を大きくしたくないの。いい、関崎くん」
きりっと表情を引き締め、清坂は言い放った。
「どんなに嘘つきと思われても、今の段階では佐賀さんを無事に青大附高に迎え入れて、今までのどす黒い噂が全くの濡れ衣であることを証明する必要があるの。そのために関崎くんの親友さんにも協力してもらっているし、新井林くんとも話しをしている。あと、もちろん水野さんともね。もしこの人たちが言っていることが仮に大嘘だったとしても、ゆいちゃんの弟くんが正しいとは絶対に言っちゃいけないの」
乙彦が話を噛み砕いている間にも、次から次へと客人が現れた。
「おっはよー! じゃなくてこんにちは、かな」
元気な声で泉州と阿木が並んで現れた。もうひとり、後ろに誰かいるらしい。男子の声だった。雅弘か、それとも新井林か。ひょいと振り返り、そこにいるほぼ全員が凍りついた。
「可南女子高校の関係者?」
おそらくなにも知らないであろう名倉だけが、ごく普通の口調で入り口の男子生徒に問いかけた。それが合図に、背をすっくと伸ばし入ってきたのはまごうことなきかの霧島真、その人だった。




