17生徒会お茶会(4)
しばらくふたりの言い合い、いや一方的に清坂がわめいているだけなのだが、なんとか収まったらしい。頃合いを見て古川が、
「どうでもいいけど関崎来てるよ」
と声をかけたとたん、ふたりともばつの悪そうな顔で挨拶をしてきた。
「関崎くん、早いね」
「状況がうまくつかめていないんだが、立村が来るとそんなにまずいのか」
なんとなくだが、羽飛と清坂が心配しているのはこれからのお茶会で何が起こるかではなく、これから立村との付き合いをどうもっていくか、に絞られているような気がする。答えようとする清坂を古川が制した。
「関崎には私が話しとくから、とりあえずふたりで打ち合わせやっちゃいな。他の学校の子がきたらもうなにもできないでしょが。てなわけで関崎、こっちおいで」
入り口近くの席に呼ばれて向かい合った。奥の幼馴染みふたりも結局は古川の言葉に頷いて、小声で相談を始めている。
水を一気に飲んで、おかわりをもらい、古川が話し始めた。
「さっきの話の続きなんだけどさ。関崎が持ってきた極秘情報をもとに、これからあのふたりは戦略を相談するってわけ」
「戦略か」
「あんたには詳しく説明してなかったみたいだけど、要するに立村を抜いた状態で、新井林と佐賀さん、可南の子とその彼氏。二組のカップルを顔付き合わせて、実は仲良しなんですよってところを確認して、新学期に向かおうって魂胆なのよ」
「魂胆もなにも事実だろう。雅弘もそう言ってたぞ」
古川は首を振りかけてすぐ止めた。
「ああそうだった。あんたの大親友だったよね可南の子の彼氏は。そうすると関崎が太鼓判押してくれているんだから、まあ問題ないよ。めでたしめでたしでそれぞれ新学期を迎えたら悪い噂も全部消えた状態、消臭スプレー撒き完了ってとこよ」
「だがそんな当たり前のことをなぜそう騒ぐんだ。霧島も俺にいろいろ相談持ちかけてきているが動かせない事実である以上、あいつが騒いでもしょうがない。俺も霧島とは縁があるし立村とも繋がっているから、なんとか力にはなりたいと思っているが、全くの嘘を本当にするわけにはいかないだろう」
「関崎ねえ、あんた本当におめでたいねえ」
水をもう一杯ちびちびなめる。
「ここで既成事実を作っておいて、生徒会側は佐賀さんを守るって形にしたいのよ、美里の立場としてはね。美里の本心じゃないよ、ここ忘れるんじゃないよ」
「清坂の本心じゃない?」
忘れようにも理解しがたいL。聞き直すしかない。
「そう、清坂美里個人としてはこんな猿芝居やってられないって思ってるよ。でもね、やっぱりね、生徒会となるといろいろ面倒なしがらみが出てくるってわけ。関崎が言ったでしょう。嘘を本当にしなくちゃいけないとこも出てくるわけよ」
「今回のことは嘘も誠もないと思うが」
「まあそうだね。でも、美里は生徒会長で学校側の意向も考えなくちゃいけない立場、羽飛も美里をなんとか支えてやらなくちゃならない副会長って立場。幼馴染みってのもあるけどさ、どちらにしても美里のやらなくちゃいけないことは、中学で流れたいろんな噂は大嘘で霧島キリオがすべて悪い、ふられたあまりに逆上した毛結果として処理することなのよ」
情報量が多すぎて混乱してきた。頭をかきむしる。
「そう髪の毛ひっぱりなさんな、はげるよ」
茶化した後、古川はまた真面目な顔をしなおした。
「まあそうすると、キリオの兄貴分である立村を呼びたくはないよね。これも関崎、あんたがよっくわかってるはずだよ。あんたの親友をぶんなぐったんだから」
「あれは、立村が早とちりしただけだろう。雅弘もやりすぎたが」
「まあいいよどっちでも。今はいろいろあいつら仲たがいしているみたいだし、キリオが多少暴走してもこちらは数の正義で押しきればいいよ。新井林はともかくも佐賀さんはいい玉だからね。演技でもなんでもして丸め込むよ。けど、もし立村がこの場にきたらどうする?」
「事実を言うしかないんじゃないか」
ありのままを伝えるしかないだろう。隠したことに関してはあやまるしかないが。このあたりは乙彦も共犯と言われてもしかたないが、ちゃんと話せばわかるはずだ。
「関崎、あんたの頭の中、桜で満開なんじゃないの」
指でテーブルをこんこん叩きながら古川はため息を大きくついた。
「ここでは無事にまとまるかもしれないよ。立村の性格上暴れてテーブルをひっくり返して出入り禁止になるなんてこと避けたいだろうからね。けど、問題は美里たちよ。美里と羽飛は去年、立村に手を焼かされてきたからね。いろいろあったから言わないけど、どれだけあのふたりが一生懸命面倒を見てきたか、ほんと親だよ。これ菱本先生公認だから。とにかくあのふたりが一番心配しているのは、この集まりの面子を立村に知られたら絶対怒るに決まってるってこと。そりゃそうだよ、いろいろあったにせよ弟分の霧島に不利になるようなことを決めつけられ、しかも大嘘言われて蚊帳の外、しかも計画したのが自分の親友たち、あと自分の大尊敬する先輩ときちゃあね。これ、本条先輩の企みだから」
「本条先輩? たしか立村の家に泊まり込んでいたんじゃ」
言いかけてはっとした、まさか、そういうことか。
「やっとたどりついたわけか、ほんとあんたにぶいねえ」
古川は前屈みになり、少しにらむようにして続けた。
「本条先輩は美里たちと打ち合わせして、立村を自宅に足止めさせるために動いていたんだよ。自分が品山まで泊まりにいけば、立村が本条先輩に逆らえるわけなんてないんだから、おとなしくしてるよ。問題は日曜、つまり今日だけど、ピアノの稽古で一緒にくっついてって、それから食事しようって流れであれば自然だよね。あとは本条先輩ができるだけここから離れた場所に引っ張っていけば、無事気づかれないように終わるはずだったわけ。それがなんで駅前なんかにいるわけ? 本条先輩の代わりにあの野々村女史と一緒に早朝デートなんてさ。それだけじゃないよ」
さらに古川は付け加えた。水をがぶがぶ飲みながら、
「羽飛が、昨日の段階で立村から、霧島の動きについて報告受けてたってことを今になって美里に報告したのが一番まずかったよ。しつこいようだけど霧島キリオはいいの。あいつは美里の言う通り、あとで立村に面倒みてもらえればなんとかなると思うんだ。けど、霧島が来るかもしれないって情報を羽飛に伝えたってことは、立村自身も心配して後追いして来る可能性大だよ。過去の経験上そうだよ。杉本さんの時もそうだったからね。霧島の動きを把握してるってことは、立村もセットでくっついてくる。そこでからくりがばれる。どうすりゃいいのって美里は怒っていた。それがあんた来る前に起きていたこと全部よ」




