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17生徒会お茶会(2)

 気になることがないわけではないにせよ、とりあえず家に戻りシャワーでさっぱりしてからもう一度出掛けることにした。

「ほんとおとひっちゃんもしゃれっけついてきたねえ」

 母に冷やかされる。今までの乙彦であれば、ちょっと汗をかいたくらいでシャワー浴びて臭い消しするなんて発想はなかったはずだった。無視してさっさと外に出たけれども、突っ込まれるとたしかに否定はできない。つまり、一年前とは、

 ━━大幅に変わったってことだろうな。

 

 雅弘は水野さんを連れていくはずなので、別々に出発で問題ない。

 一応青大附高の生徒会役員なのだから、早めに到着していないとみっともない。

 開始は十二時だが店は三十分程度早めに用意してもらっているとのことなので、それに合わせることにした。すべては清坂と羽飛がしきっている状態だとわかっているが、なんだかそれが居心地悪いのも正直ある。

 ━━雅弘の無実を晴らせればそれに越したことないんだがな。

 まかり間違っても雅弘が、中学の生徒会長だった佐賀はるみにちょっかいかけ続けているなんてことはない。立村はまだ疑っているようだが、とりあえずそんなことはなく、単なるよい友達、思いやりある先輩として、新井林含めて付き合っているということだけ証明できればいい。

 ━━それにあの、なんだ、立村がやたらとなついているとかいう先輩の口封じにもなるだろうしな。

 いつぞやさんざん乙彦をこけにしやがった、現在青潟東に在籍中の先輩の顔が、思い出したくもないのに浮かび上がってきた。いったん自転車を止めて、頭をかきむしった。

 ━━あいつらがなんと言おうとも、雅弘は水野さんのことを今だ大切に想い続けているんだ。そういう奴なんだ。まだ疑っている連中も、あいつの嘘一切つかない顔を見てもらえれば、あっさり納得してもらえるはずなんだ。第一水野さんほどの人であれば、そんな二股野郎だとわかった段階であっさり振っているはずだ。当たり前のことだろう。

 水野さんのお下げ編み姿を思い起こし、ふわりと温かい感触が心臓のあたりによみがえった。当時の水鳥中学校則の通りの格好が、よくにあっていた人だった。


「あれ、関崎、はええな」

 聞き覚えのある声に呼び止められた。振り向く前からわかっている。こんな能天気な声、羽飛しか出すわけがない。自転車を止めると、すぐ横にひょいと近づけてきた。

「おはよう、羽飛もか」

「ん、まあな」

 清坂とは一緒でなかったらしい。どうしたのかお神酒徳利。乙彦が問う前に羽飛が説明してくれた。

「美里は古川連れて先に別のとこで散歩してからいくんだとさ。女子の考えることわけわからねえよなあ。あと難波と更科は先に現地集合してる。あと名倉はわからねえけど」

「あいつはあとから来るらしい」

 今回の面倒ないざこざとは無縁なので、ごくごく普通に顔を出すだけだろう。

「そっか。美里も言ってたけど名倉の会計能力すげえわ。部活動の予算申請の時はまとめてお任せするとかわけわからねえこと言ってるぞ」

 自転車を漕ぎながらゆるゆる話す。ふと羽飛が自転車を止めた。つられて乙彦もブレーキをかけた。

「ああ、あのな関崎、ちょいと現地到着の前に、お前の耳にいれときたいことがひとつあってだな」

「なんだ」

 羽飛はこいこいと手招きし、改めて自転車をがっちり止めた。

「ほんとは立ち話で済ませるのもなんだと思うんだが、ちょい緊急かもしれないんでな。実は」

 声を潜めた。青潟公園が遠くにうっすら姿を見せてきている。池のほとりに今日の店があるはずだ。

「もしかしたら、立村の弟分が襲撃してくるかもしれねえんでな」

「弟分、っていうのはもしかして霧島か?」

 確認した。たしかに気になるそぶりはあったが、乙彦は決してどこの店かとかそういう話はしていない。やましいことはない。羽飛は頷き鼻の頭をつまんだのち、ぱっと放して、

「関崎も状況は把握しているだろうけ霧島はとにかく佐賀に恨み心頭なんでな。いきなり店に飛び込んできて、ぎゃあぎゃあ騒がないとも限らねえ。ま、そんな可能性も考えて美里が今日店を貸しきりにした経緯が実はあったりする」

「なるほど、そうか」

 貸しきりにしておけば、たとえ霧島がひょっこり顔を出しても追っ払う口実ができる。清坂なりに考えているのだろう。

「あいつがなあ来ちまったら、洒落にならねえよな」

 羽飛は首を振りながら爪先でコンクリートを蹴った。

「新井林の彼女に手を出して殴られたとか、その理由はその彼女にあるとか、まあほんとかどうかわからねえけど面倒くさいことを暴露されたらたまったもんじゃねえ」

 ━━雅弘にとばっちりが来るかもな。

 乙彦が心配しているのはその一点につきる。

 新井林と霧島の恋の鞘当て自体はどうでもいいことなのだが、雅弘との繋がりを誤解もってわめき散らされたら大変なことになる。雅弘だって今回は水野さんの恋人として証言するために参加しているのだ。それをさらに塩塗り込むようなことされたらたまったもんじゃない。ここはやはり兄貴分である乙彦が雅弘をかばう必要が出てくる。

「もし何かあったら俺も霧島を正気に戻すよう努力するつもりではいるが」

 一応、杉本梨南から頼み込まれている経緯もある。羽飛はもう一度首を振った。

「いや、無理だろ。そうとう霧島ヒートアップしているみたいだし、俺たちがどこで集まるかも突き止めているみたいなんだ」

「言っとくが俺はばらしていない」

「疑ってねえよ。けど立村が言ってくるんだからしょうがねえだろ」

 ぼそりと呟いた羽飛の表情はちょっとしんどそうだった。

「立村がか?」

「ああ、立村から昨日うちに電話があったんだ。もしかしたら霧島が襲来するかもしれないから注意しろってな」

 ━━あいつら絶縁状態じゃなかったのか?

 話がうまく飲み込めなかった。とりあえず立村に関する話の種ならあるのでつきたしてみる。

「立村ならさっき、駅前で見かけた」

「あ? あいつがか? んなわけねえだろ、昨日今日あいつ、本条先輩と自宅でラブラブお泊まりデートのはずだぞ。もちろん親公認で。駅前にいるわけねえだろ」

「見間違いでなければあいつは、駅前の飲み屋の路地に、野々村先生と一緒に入っていったぞ」


 羽飛の口がぽっかんと開いた。

「まさかかよ」

「いや本当だ」

「駅前かよ。ここまで来ようと思ったら、来ることできる距離だよな」

 少し目を閉じ、すぐに自転車にまたがった。

「悪い、今の話、誰にも言ってないよな?」

「言うもなにもまだ誰にも会ってない」

「んで、関崎の大親友にもしゃべってねえよな」

「雅弘にも言ってない。話したほうがよければ話すが」

「いや、黙っててくれ、頼む! んじゃ俺はちょっくら店に向かって様子見てくるる。関崎、お前も頼む付き合え」

 脈略のない羽飛の言葉にわけがわからない。理由を聞きたい。そんな余裕も羽飛にはなさそうだった。乙彦が質問しようとする間もなく、羽飛はするんと自転車を飛ばして青潟公園方面へ突っ走っていった。


 




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