16 結び目(4)
清坂と水野さんとの間にどのようなやり取りがあったのか想像がつかず、結局雅弘を捕まえて事情を聞くことにした。まだ本番まで時間がある。
「おとひっちゃん心配症だなあ、大丈夫だよ。俺だってちゃんとわかってるよ」
もちろん青潟工業高校も春休みだ。宿題は特にないがそれなりにやらねばならないことはあるようでなかなかつかまらなかった。一日三度、「佐川書店」に顔を出してやっと雅弘をとっ捕まえて連れ出した。
「お前、水野さんとどういう話、してたんだ」
「だから、俺が妙なことで疑われているらしいってことだよ」
あっけらかんと雅弘は答えた。結局乙彦の家でのんびりしゃべることにした。
「前におとひっちゃんにいろいろ言われてたから気になってたんだ。俺がなんか妙なことで疑われているんだなって。それでさっきたんに、そっちの生徒会長さんと直接話してもらって事情まとめて確認して、ああだったらそれだったらって思ってさ」
「だったらなんで俺に相談しなかったんだ」
語気荒く尋ねると、雅弘は両手を合わせて拝むようにした。
「ごめん! だってさ、かっこ悪いよこんなの。友だちの彼女盗むようなことしてるなんて思われたくないしね。それでさっきたんから、その集まりに俺も参加して無実なんだってこと伝えようかなて思ったんだ」
まったくもって潔白。疑いなし。ロールケーキをばくばく食う。乙彦もつられて手を伸ばす。
「それとこれもおとひっちゃんに隠しておくのはなんか変だなって思ったから言っとくけど。ほら、あいついるだろ」
「立村のことだな」
「うん、言いづらいんだけどさ。やはり一方的にぶん殴ってきた奴と同じ席で楽しくしゃべりたくないし、それ、さっきたんにも言った。それで条件としてあいつが来ないならってことで約束したんだ」
──いったい水野さん、雅弘に何を話したんだ?
本当は、清坂の連呼していた「水野さんの彼氏」がいわゆる雅弘なのかを最終確認したかった。聞けばたぶん素直にうなづきそうな気もするがついつい忘れてしまった。まあ、雅弘が同席すれば水野さんにべたぼれだということも判明するだろうし、新井林も来るというのだから怖いものなどない。
「仲間内でしゃべるだけだから公式なものじゃないが、妙なかんぐりされるようなこと言うなよ」
「大丈夫だよ。俺ちゃんとわかってるよ。それにね」
にっこり笑顔で雅弘はつぶやいた。
「おとひっちゃんがちゃんと俺のこと信じてるってわかったから、あとはどうでもいいや」
霧島からの電話はしつこくかかってくる。一日三回はかかってくる。さすがに雅弘が部屋に上がっているうちはかけなおすつもりもない。帰った後、夕食食べてから連絡すると、今度は勢いよく、
「恐れ入りますが、とあるうわさを耳にいたしました」
切り出した。かつての高慢ちきな霧島が復活しつつあるようで寒気がする。
「なんだそれは」
「今度の日曜、高校生徒会でなにやらイベントがあるようですね」
どこで聞き出したのだろう。疑問がわくがよく考えれば霧島は中学生徒会長。情報が入らないわけがない。隠しているわけでもないのだが私的集まりであることは確かなので、
「生徒会じゃないが、生徒会やってる奴も混じっている。単純に俺の友だちが生徒会関係者なんで連れていって盛り上がろうってだけだ」
「やはりそうですか」
意味ありげに霧島がつぶやくのが聞こえる。
「何か怪しいとは思っておりましたが。関崎先輩も参加なさるのですか」
「そりゃ俺の友だちを紹介するんだから当然だ」
「ほかには」
「お前それ知ってどうする。生徒会役員連中もいるが関係ない奴だっている」
事実だ。なんてったって、古川がいる。霧島は引かなかった。
「と、言うことは立村先輩も参加なさるのですか」
それが目的か。であれば答えよう。
「いや、最初は乗り気だったんだが都合がつかなくなった。仲のいい先輩がうちに遊びに来るからそちらを優先せざるを得ないらしい」
「仲のよい先輩ですか」
少し黙り込む。こいつは勘がいいのでおそらく、本条先輩であることを見抜いているに違いない。
「だいたい見当つきました。そうですか。参加なさらないのですか」
「お前もそう立村にしつこくまとわりつくの、遠慮したらどうだ? さすがに春休みだぞ」
乙彦もこの電話攻撃から逃れたい。思い切ってきっぱり助言してみると、
「しつこい、というお言葉には違和感あります。熱心、ということです」
完全に昔の霧島口調に戻っている。なんだか妙な予感がするので、店の場所などは内緒にすることとした。何しろ参加者のひとりとして新井林だっているのだから、顔をつき合わせたら気まずいどころの騒ぎではないだろう。




