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16 結び目(3)

 春休みに入りすぐの日曜日ということが、やっと決まった。最初はもう少し早い時期だったはずなのだが、清坂と水野さんとの間でなかなか日取り調整がずれ込んだようで、

「全く女子だけに任せとくと禄なことねえよな」

 羽飛に愚痴られた。

「そんなことやってっから参加出来る連中が少なくなるんだぞ」

「いいの、最初は少なくって! どうせちょっとこの機会に顔合わせするだけなんだもん」

「だったらお前ら会長同士でさっさとアイスクリーム食べに行ってればいいだろ」

「そういう問題じゃないでしょ!」

 三人しかいない生徒会室だからこそ話せる内容だ。すでに春休みに入り生徒たちも出入りが少ない校舎内。それでも生徒会役員としてはなんだかんだ理由をつけて集まっている。ただ不思議なことに難波と更科はめったに顔を出さない。絶対に譲れない時にはもちろん来るのだが、時間つぶしのような語り合いには加わらない。いまだに改善されていない難波との関係、このままではやはりまずいような気がする。

「いいじゃねえの。どうせ四月になったらがらっと雰囲気変わるだろ。新入生来ればまたな」

「どうせ附属生がほとんどだしあまり代わり映えないんだけどね」

 清坂がまぜっかえす中、改めて乙彦に、

「そういうわけで、非公式のお茶会、関崎くん来れるよね?」

「もちろんだ」

 問いかけてきた。もちろん当然すぎる質問なので即答する。

「あとは古川と立村か」

「それがなんだけど」

 清坂が頬杖ついたまま説明した。

「こずえは来るって。けどね、立村くんの都合がねえ」

「だからお前、あれだけ言っただろ? なんであんなにずるずる予定ずらしたりしたんだよ。ったく、最初立村来る気ありありだったんだぞ? それが美里たちがああだこうだいってた間に、さっさと本条先輩とのデート入れられちまっただろ?」

 ──本条先輩とデート?

 立村が参加しないというのは初耳だ。終業式後一度も立村とは顔を合わせていないし電話連絡もしていないが、てっきり参加決定しているものかと思っていた。

「えらく楽しみにしてたように見えるがどうしてだ?」

「それがねえ」

 清坂が説明しようとしたところを羽飛に持っていかれた。

「本条先輩が土日家に泊まり込むらしくってな、それで一泊二日のラブラブお泊りデートしたいんだと。まあ予定が最初から入ってればあいつも調節したと思うんだがな。今月初めから本条先輩に、絶対日曜空けとけって命令されたらしいんだ。あいつにとって本条先輩の存在は絶対だからなあ。逆らえないっての。それで俺たちとの集団デートはパス」

「逆らえないったって、じゃあ土曜日は無理なのか?」

「それも考えたんだけど、本条先輩わざわざ立村くんの家に来るらしいのよ。品山までわざわざね。遠いとこまで来てくれる以上、やはりまずいってことでね」

 約束したことをたがえるような立村ではないと思いたいのだが、それなりに事情もあるのだろう。本条先輩最優先主義である立村を責めるわけにもいかないらしく、羽飛も清坂もあっさり受け入れたのだという。

「それでなんだけど、実はもうひとつ相談あって」

 清坂は立ち上がり、外を見回して戸をぴたりと閉めた。

「私、結局水野さんに全部事情話しちゃったの」

「どんなことをだ?」

「だから、霧島くんとか新井林くんとか。つまり、他の人たちが水野さんの付き合っている人のことを疑っているから、そんなことないって証明をしてもらいたいってこと」

「それ本当か!」


 思わず立ち上がる。いつぞやの立村のごとく。慌てて清坂と羽飛が座るよう勧めるが無視する。

「それ、水野さんに対して失礼じゃないか!」

「ごめん、関崎くんに相談しなくて。でもね、隠し事したくなかったの」

 すでに乙彦激昂することは織り込み済みなのか、清坂は背を伸ばしたまま、

「電話で話しているだけなんだけど、すっごく水野さんしっかりしていて、もしも公式の交流会がお流れになってもぜひ草の根での付き合いはしたいよねってことで意気投合したの。それで集まる時に、ほら、立村くんのことがあったでしょ。ちょっと心配だったので軽くかまをかけてみたの。立村くん覚えてる?って」

 ──雅弘がどの程度まで話をしているかによるな。

「そしたら、水野さん、佐賀さんとも文通友だちだってことがわかって。もういろいろな青大附属の事情も把握してて、その、水野さんの彼氏がみんなに誤解されてしまって大騒ぎになってるってことがわかってたみたいなの。ほら、本条先輩が来た時にそういう話になったでしょ。みんなわかってたみたいなの」

「俺は話してない」

「わかってる。関崎くんがしゃべるわけないもん。でもね私が言いたいのは、その彼氏、佐賀さんと付き合ってなんかないし新井林くんとも友だちだし、そのことをちゃんと証明する機会を作ればいいじゃないのってこと。それで、立村くんが来ないなら代わりにその彼氏を呼んでもらおうかなって思ったの」

「要するに」

 乙彦は確認した。全身が熱い。心臓が破裂しそうだ。

「雅弘のことか? 佐川雅弘、俺の親友だ」


 雅弘と立村との鉢合わせだけは絶対に避けたい。だから雅弘には絶対出させたくなかった。青大附高の連中に水野さんがいろいろ観察されるのは申し訳ない。だが、本来であれば潔白を証明するため雅弘が参加してくれれば一番丸く収まるのは確かだ。

「でしょでしょ? 私も立村くんの予定着かないんだったらちゃんと彼氏さん呼んで証明してもらえればいいと思うの。ついでに言うと、新井林くんも呼んだらどうかなあ。佐賀さんはね、ちょっとパスだけど、でも新井林くん、関崎くんともよくしゃべるでしょ? だったらみんな仲良しって雰囲気で盛り上がればいいんじゃないかな。それで、問題がなければあとは霧島くんの勘違いってことで丸く収まるし」

「わかった、それならば」

 手帳にはさみっぱなしのテレホンカードを握り締め、乙彦は扉に手をか「どうしたの」

「これから公衆電話で雅弘に電話かけてくる。あいつにだって予定があるだろ」

 ふたりの返事は待たず、階段を駆け下りた。



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