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16 結び目(2)

 家に戻ってからすぐに電話がかかってきた。ここ数日続いている霧島からのこれぞ「ラブコール」いい加減にしてほしい。すでに家族も霧島の名前を覚えてしまったくらいだ。

「おとひっちゃん、今日も霧島くんって男の子からかかってきたわよ」

「どのくらい前に」

「十五分くらい前によ」

 母の言葉を聞いてすぐ時計の針を確認した。

「またかかってくるとか言ってたか」

「そうねえ、またかけますって、でも五回目よ」

 ──お前、女子みたいなことするな。

 電話とはあくまでも連絡機器、おしゃべり道具にあらず。しかしかかってきた以上は義理欠かすわけにもいかないので折り返す。


 ──関崎先輩、ですか。

「もう家に戻ってたのか」

 ──学校から近いんです。それよりも、先ほどの手紙は受け取っていただけましたか。

 受話器ごしに聞こえる声が震えている。

「確かに受け取った。だが中には何も入っていないんだが、深い意味でもあるのか」

 ──いえ、ありません。その時、立村先輩はいらっしゃいましたか。

「いたが何にも反応なかったぞ」

 少なくとも乙彦の知る限りでは。落胆したのかかすかなため息が聞こえた。

「これで二日連続ためしているようなんだが、こんな面倒なやり方で立村の気を引くというのは間違っているような気がするぞ」

 はっきり言ってやる。要は霧島、乙彦を新たなる兄貴分として懐いているように見せかけたくてならないらしい。だから疋田に手紙……いや、中には何も書かれていない便箋のみ……を持たせて、立村のいるところで渡してもらっているのだという。

「ちなみにこの件は疋田も内容把握しているのか」

 ──わかりませんが、立村先輩がいるところで渡していただくようにはお願いしてます。

「面倒くさいことだな。とりあえず二日連続で受け取ったが全然反応ないし効果も見られない。あのな霧島、ひとつ言っておきたいことがあるんだが」

 思い切って言ってみることにする。

 ──どのような内容ですか。

「立村に反応させたいんだったらなぜ、直接あいつのところに行かないんだ。まずいことやらかしたようだから簡単に謝るわけにはいかないかもしれないが、こんな白紙の封筒を見せ付けるように受け取ったところで意味を読み取る奴はそういないぞ」

 ──立村先輩は、裏を読むタイプです。僕が保障いたします。

 いきなり霧島が断言した。少し前の高飛車な態度がちらついたように聞こえた。

「ということはなにか。今まで立村に相談していたことを俺が全部まとめて受け取るから、あいつが寂しがるんじゃないかとか、そういうことか」

 ──立村先輩は絶対そういうタイプです。

 また断言する。ただかつてのヒステリックな口調ではなかった。

 まだ傷口がぱっかり空いている状態とみた。


 ──俺も霧島をなんとかしてやってくれと頼まれているんだがな。

 立村捕まえて説教しても効果なさそうだ。かといって霧島の見せつけ手紙作戦も効果のほどはあやしい。となるとどうすればいいのか。裏であの杉本梨南が助言しているようなので本来であれば預けておきたいのだが。

 ──ちょっと待てよ。

 気がついた。そうだった。すでに中学の卒業式は終わっている。明日から春休み。 

 ──関崎先輩にご協力いただいて手紙を受け取ってもらえれば、多かれ少なかれ立村先輩もおかしいと気づくはずです。そこでおそらく関崎先輩にいろいろ近づいてくるはずです。そうすれば立村先輩は関崎先輩にご相談されることでしょう。あいまいにごまかしていただければきっと、今度は立村先輩から僕へアクションが行われることでしょう。

「しつこいようだが面倒くさい内容だ」

 ──そうしないと、立村先輩は僕と顔を合わせてくれません。

 また力が抜けたようなあわれっぽい声を出す。

 ──今日も校門でお待ちしましたが、立村先輩は僕など気づかないようにさっさとお帰りになりました。そういうことなのでしょうか。

「そういうことかどうかは別だが、立村の怒りを姑息なやり方で納めるよりは、直接土下座して頭を擦り付ければ一発で片が着くだろう」

 

 面倒な事情もあって立村を怒らせてしまった霧島。なんとかして立村のお許しを得たい。そのためにはどうすればいいか。そればかりだ。ただ肝心の中身は憶測どまりで話してくれはしない。

「どうせ四月まで休みだ。立村も少しは頭を冷やすだろう。落ち着いた頃に自分で土下座してくればいいんじゃないか」

 ──そういう問題ではないのです。春休み二週間の間に立村先輩は僕を忘れます。

「いやそれは絶対ないと思うが」

 ──僕を覚えてくれている間になんとかしたいんです。関崎先輩、今度立村先輩とお会いできる日はいつでそうか。

 しばらく霧島を相手に愚痴を聞いてやっていた。 




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