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15 結び目(1)

 気がつけばもう三学期終業式を迎えていた。他クラスはともかく一年A組英語科に関しては何気なく過ぎ去るもの。理由はひとつ、クラス替えの存在だ。

「うちのクラスは楽でいいよねえ」

 古川が教室掃除を雑巾で念入りに行いながら乙彦に話しかけた。

「どうせ四月になったらいつもの面子で顔あわせるんだしね。他のクラスなんて大変だよ。サイン帖作ったり記念撮影したりね」

 乙彦からしたら信じ難い話ではあるけれども、クラスによっては団結力も半端なものではないらしい。古川によれば特に、

「C組なんてもう毎日宴会らしいよ。なんせ男子の人気ある奴が固まってるじゃん? 羽飛でしょ、南雲でしょ、ツートップときたらそりゃあ大変だよ」

「生徒会室ではそんな感じしないが」

 古川が目を女子らしく輝かせて語る羽飛だが、生徒会室で話している限りそんな女子人気絶大には見えない。むしろ、いつも女子が追いかけているのは南雲のほうでいつも誰かかしらが見つめている。男子と女子との見方は大幅に違うものなのだろう。

 乙彦はちりとりと箒を掃除道具入れにしまいこんだ。

「ああそうだ、関崎、例の件なんだけどさ」

「例の件と言われてもわからんが」

「ほら、春休みの、ほら他の学校とのことだけど」

 ──水野さんとのことか。

 黙って顔を見やると古川は周囲に聞こえないよう小声で、

「ちゃんと準備進めてるんだよねえ」

「もちろんだ」

 この一週間あまりずっとそちらにかかっていた。雅弘を挟んで話ができないので乙彦のほうから水野さんに連絡をしなくてはならないのだが、了解とって電話番号を清坂に渡したところすぐに意気投合して連絡しあっているようだと聞く。

「美里もそういうとこ大胆だからね。毎日電話でしゃべってるんだって。あったらしい恋人といちゃつかれて私なんてロンリーよ」

 わざとらしくため息をつく古川に、他の女子たちが声をかけてきて無理やり別グループに連れ込んでいた。女子っぽいおしゃべりにすぐ飲み込まれていく。残された乙彦は男子連中と春休みの予定についていろいろと語るのみだった。

 時折、目線を別のグループにとばしたりなどして。


 ──いい加減、あいつも俺を避けるのやめろって思うぞ。

 生協で乙彦が完膚なまでに立村を叩きのめしてから、奴は一切乙彦の顔を見ようとしない。決して疚しいことをしているわけではないので乙彦から声を掛けてみたのだが、ばつの悪そうな顔で小声の挨拶のみだ。無視するわけではないし、少し薬が効きすぎたかもという反省もないわけではないのでそのまま放っておいている。 

 ──だが、霧島のことだけはなんとかしないとな。

 あの杉本梨南からも頼み込まれたこと。男としてこれは引き受けねばなるまい。その後も霧島からはおそるおそるといった風にお伺いの連絡が届く。かつての高飛車な態度とは打って変わってびくついているように。話を聞いてみるも、進展は対してないらしい。毎日高校の校門で立村を待ちかねているようだが、一切口も利かず無視して姿を消す立村になにか言ってやりたいのだが、露骨に避けられる以上しかたない。

 ──まあ、霧島はまだ青大附属にいるからいくらでもチャンスはあるか。


 その立村は、相変わらず江波たちとカセットテープを交換しあってしゃべっている。今のところは男子のみで、乙彦たちとは別グループに属している。なにせ乙彦の友だちグループには藤沖、片岡がメインでいるので立村とは接しづらい。同時に江波も藤沖に一度楯突いた間柄なのでどうしても距離がある。

「悪いんだけどな、これ、知り合いの奴からもらったチケットなんだがな、一枚五百円で買ってもらえねえか」

「一枚でいいなら払うよ。そうか、春休みでも演奏会やるんだな」

「演奏会っつうか、それぞれの学校吹奏楽のOBOGたちが演奏する会があるんだよ。後輩たちもチケット手売り頼まれちまってさあ大変なんだ」

「けどずいぶん江波くんチケットさばけるよね。私なんていっつも自腹切って配ってるよ。そのコツ教えてよ」

 先日、杉本梨南のために一曲披露した疋田も加わってはしゃいでしゃべっている。あのグループからもれ聞こえる会話のほとんどは音楽につながっていて、乙彦の知る限りそれ以外の噂話はほとんどない。立村もそのチームと語らっている時だけは、のんびり力を抜いたように過ごしている。

 どちらにせよ立村も、春休み入ってすぐの「お食事会」に来るはずなのでその辺は心配していない。無理やりにでも割り込んですぐ雪解けに持って行こう。


「あ、そうだ、関崎くんに頼まれてたんだった」

 いきなり疋田と目が合った。乙彦にたったと近づいてきて、

「これ、青大附中の生徒会長くんから関崎くんにって頼まれてたんだ。渡すの忘れてた。ごめんね」

 ひょいと手紙を手渡された。厳重に封されているが中身はうすっぺらい白い封筒だった。

「悪い。あいつも俺に直接話せばいいんだがどうしたんだろうな」

「いろいろあるのよ」

 短く疋田がささやきすぐにまた音楽チームに戻っていった。一緒にいた藤沖たちからも、

「お前、そうか、男子からラブレターをもらうタイプだったのか。確かに男気はあるな」

 などと全く持ってわけのわからない言葉で揶揄されたりした。

「最近、霧島も中学での人気ががた落ちらしいので苦労しているようだ。お前に懐いてくるようであれば、少しは面倒みてやれ」

 とうとう一年間、藤沖に兄貴面され続けてしまったことに、多少複雑な気持ちがうごめいているもののあえて受け流した。事情を知らないのだからしょうがない。

 

 ──しかし、霧島もずいぶん策師だな。

 かばんに手紙をしまいこんだところで、立村と目が合った。すぐにそらされた。やはり相手が元弟分となると気になるものらしい。このあたりの勝負はさすが霧島の勝ちだ。

 ──こんな面倒なやり方しなくてもさっさと話し合って殴り合って終わらせろよな。

 思わせぶりの「ラブレター」もどきをわざわざ乙彦に渡しているところを、わざと立村に見せ付ければ心穏やかではあるまいという、計算だということを。

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