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15 置きみやげ(1)

「関崎、ちょっといいかな」

 青大附高も附中ももちろん公立中学も卒業式が滞りなく終わった次の日、立村から声をかけられた。あと一週間もすれば春休み、みな旅行計画をはじめいろいろと予定を立てる声があちらこちらから聞こえてくる。一方で年度末試験の結果に苦しめられ追試、再追試に追われている生徒もたくさんいる。天国と地獄が混じりあう春近き午後。

「どうした。俺はいつでも大丈夫だが」

「すぐに終わる」

 それだけ言って立村は乙彦に外へ出るよう促した。生徒会の用事が全くないわけではないのだが、乙彦も一度はきちんと立村と話さねばならないと考えていた。だから最優先順位で選択することになる。

 ほのかに春の暖かさを足元から感じる。雪は木々の根元に固まっているものがほとんどだった。それでもコートは手放せないらしく、立村はしっかり着込んで外に得た。乙彦は制服のままジャンバーを腕にかけて。


「追試の嵐でなかなか話、できなかったな。ごめん」

「お前いくつ追試食らったんだ」

「数学と理科それぞれ」

 あっさり答えながら立村が連れてきたのはいつもの生徒食堂だった。高校三年がいない、および大学四年も、もちろん中学三年も、今はいない時期だ。それだけでずいぶん席が空くものだ。めったに空かない窓際に席を取った。まだ桜の花は気配もないけれど、それなりに花は木々に咲いているようだ。

「でもなんとか進級できそうでよかった」

「追試乗り切ったというわけか」

「追試一度や二度じゃないからな」

 乙彦と向かい合い、改めてコートを脱いで立村は決まり悪そうに笑った。年度末試験で結果、英語は断然の満点回答かつ文系はなんと学年でトップを奪ったにも関わらず、理数系が全滅しているというメリハリありすぎる成績と聞いている。

「なんとか一段落したところでなんだけど」

 立村は周囲を見渡した。特別、近くに誰かがたむろっているわけではない。

「誰もいないから普通に話していいだろう。別にそう声を潜めなくてもいい」

「いや、あまり人には知られたくないことなんだ」

 乙彦に紙カップで水を勧めた後、立村は、

「少し前のことだけどさ、杉本のこと、いろいろとありがとう」

 いきなりテーブルに額がつくくらい深い礼をした。


 ──やはり、知ってたのか、気づかないわけがないか。

 つい一週間ほど前のこと、杉本梨南がいきなり姿を現し、乙彦に告白めいた言葉を伝えすべてを過去にして去った時のこと。まさか杉本が玄関で待っているとは思わなかったがそれ以上に驚いたのは静内も一緒だったことだった。そっちで意識が持っていかれてしまった。その後もすぐに他の連中……立村はもとよりいきなりピアノ演奏のため飛び込んできた疋田なども含めて……から事情を聞きだしたかったのだがいかんせん、いろいろと忙しい。今回は多少花の香りめいたものも漂っている内容なので、場所を選んで尋ねたいないようではあったけどもだ。

「お前どうしてこなかった?」

「なんで俺が行く必要あるんだ? 杉本は関崎に会いに来たんだから」

「じゃあなんでいきなり、疋田だけひとり送り込んだんだ?」

「ああそっか、それか」

 全く気づいてないとは思えないが、立村はとぼけた表情で、

「杉本と関崎が音楽室に向かったのをたまたま見かけたから、それだったらせっかくだし疋田さんの伴奏で関崎の歌を聴かせたら喜ぶかなと思ったんだ。それだけ、本当にそれだけだよ」

 悪意も策略もなにもない。笑みさえ浮かべつつ立村は答えた。

「俺に歌わせてどうするんだ」

「歌ったんだろ、『モルダウの流れ』」

「一番しか歌わなかったので中途半端だが」

「そうか、それで杉本はどうしてた?」

 急にかちりとまじめな表情で問いかけた。

「わからんが、あまりお気にめさなかったようなんだ。それより俺も聞きたいんだがなんで立村、いきなりあんなわけのわからないことやったんだ? 俺にはそちらのほうが不思議でならない。話したいなら直接音楽室に来てもよかったんじゃないか。お前だって『モルダウの流れ』は伴奏やってたんだからな」



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