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2 新春冬期講習(2)

 しばらく乙彦の持ってきたから揚げをつまみにつつきつつ、三人でなんともなしに立村の話をひっぱっていた。なかなか話す機会がなくてやっと、といったところがなくもない。清坂も羽飛もそれは同じのようで、

「関崎くんでないとなかなかこういう話できないよね」

「全くだ。新年早々運がいいぞ美里。ところで年玉結局どんくらいもらった」

「あんたと同じくらいじゃないの。いくらもらったか教えてよ」

 時折全く意味なしの会話を混ぜつつも結局戻ってきた。

 ──お前らそんなにもらってるのか。いや、そんなリアルに金額伝え合っていいのか。

 究極の幼馴染ここにあり。しばらく当てられていた。


「ところで合宿のことなんだが」

 思い立ち持ち出してみた。昨日雅弘たちと話をした経緯もある。清坂も頷いて乗ってきた。

「結局何をやるんだ? 生徒会だけで合宿なんて想像もつかないんだが。少なくとも俺はやったことがない」

 ──やったら修羅場だ。

 問いかける乙彦に清坂はノートを引っ張り出した。ずいぶん分厚く書き込んでいる。隣りの羽飛も覗き込み、

「お前ずいぶんメモったな」

 感心したかのように指でつつく。

「あのね、私もやっと生徒会長がどんなもんなのかってこと分かってきたの。まだ先輩たちのまねしかできそうにないけど、これから改選までのだいたい十ヶ月くらいの間にやるべきことをまとめたの。いい? 貴史、あんたは後ね」

「はいはいわかったわかった、ってことで関崎先に読め」

 差し出されたノートを受け取った。ぱらりとめくる。丸っこいいかにも女子らしい文字が躍っていた。読みやすい文字ではある。途中イラストも混じっている。

「今読まないとまずいか」

 なんだか重たい。清坂はすぐに首を振った。

「いいよ今すぐじゃあなくって。口で言ったほうが早い?」

「そちらのほうがありがたいな」

 隣りの羽飛に「ほーらな、やっぱ人はハートなんだよ」などわけの分からないことをつっこまれ叩いている清坂だが、乙彦を前にしてふっと姿勢を正した。

「ちょこっとまじめに話すから、聞いててね関崎くん」

 指で「しーっ」とやった後、

「私、立村くんがやろうとしてた『大政奉還』を完結させたいの」

 しっかりと言い切った。

 ──『大政奉還』?

 悪いが歴史的意味合いの暗記文句でしかない。

「立村が『大政奉還』しようとしてたって、なんだそれは」

「知らないのか、あいつしゃべんないのか」

 羽飛に問われてもわからない。すぐ清坂に割って入られた。

「藤沖くんも言ってなかったっけ? そっか、そうだよね」

 答える前に納得してからすぐ説明に入った。


「今思えばかなり早い段階で計画してたんだろうなって思うの。青大附中時代の生徒会っていわゆる先生たちの御用機関とか言われてばかにされててね。自主的に何かをやろうとする気迫がなさ過ぎるって言われてたんだ」

「その話は立村からちょっとだけ聞いた」

「そう。そうなのよ。青大附中の場合評議委員会が実質学校内を仕切ってたようなもの。たかが委員会って思っちゃうけど今思えば結構いろんなことしてたなって。ビデオ演劇を冬休み中撮影してそのまんま全校放送でテレビ放映しちゃうとか。合宿も今とは違って私たちが全部ホテルとか選んで手配したり。普通の学校そんなことさせないよね? だから委員会上がりの人たちってそういう実務的なことみんな得意なのよ」

 聞いた。学校行事はすべて教師に任せることとして生きてきた乙彦には衝撃だったことを覚えている。

「評議委員会だけじゃないのそれ。たとえば保健委員会は定期的にお医者さんたちとのお茶会があって病院の見学会とか、保健所での実地研修会とかあったしね。規律委員会はファッションと手芸好きの集まりだったし、とにかくみな個性があったんだ。委員会が部活動と一体化してたからたぶん、うちの学校部活動が弱いのね」

「新井林哀れだなあ」

 羽飛が意味不明な突っ込みをする。清坂はちらと見て先を急いだ。

「違うってば。つまり、私が言いたいのはそういうエネルギーが今、青大附高にはないの。私ものすごく期待して高校に上がったけれど、委員会は寝ちゃってるし生徒会もいまひとつ盛り上がらないし。ほんとに退屈だった。だよね貴史」

「お前だけな。俺は楽しいぞC組」

「もういい、あんた黙ってて。この一年ずっと考えてきてやっと立村くんが『大政奉還』なんてこと思いついたのかがだんだんわかってきたの」

「悪い、俺には全くわからない」

 すでに清坂の話す言葉自体が宇宙語に聞こえる。何がなんだかといった感じだ。確かに青大附中は自由奔放な空気が流れていたのだろう。高校の雰囲気以上なのだから相当なものだ。居心地のよい環境だったのだろう。だが、外部生の乙彦からすれば今の状況もまんざら悪くはない。多少金がかかりすぎる嫌いはあるにせよ、皆助け合おうとする気持ちのいい奴らばかりだ。それを何を今さら。

「つまりだ、美里の回りくどい言い方を整理するとだな」

 ようやく羽飛が通訳にまわってくれた。ありがたい。ぶんむくれた清坂にわざとらしく舌を出したあと羽飛は続けた。

「立村は評議委員長時代に藤沖生徒会長と一緒に、『大政奉還』をやろうとたくらんでたんだ。今じゃあああいう殺伐とした関係だがな、当時は結構仲良かったんだよあいつら。立村は評議委員会が独占しているイベントや交流行事を生徒会にも融通することによって、一部の奴らだけじゃない全校生徒たちで参加したがっている奴にもチャンスをわけたいと考えてたようなんだ。美里には悪いが俺も結構早い段階でその話聞いてたぞ」

「ちょっと! 何よ貴史! それいつよ!」

「修学旅行終わってからすぐだなあ。お前と立村がぎゃあぎゃあいがみ合ってた頃に重なる」

「なんであんたそれ私に言わなかったわけ? もうあったまくる! 信じられない!」

 また相変わらずのやりあいを受け流しつつも乙彦はさらに羽飛へ尋ねた。

「だからか、一年前やった水鳥と青大附中の交流会も立村が主催したはずだが」

「そうなの。今思えばそれが伏線なの。立村くんは評議委員会が独占していたイベントとか楽しい行事とか、そういうものを全部公開してたくさんの人たちに参加してもらうことが必要だと思ってたみたい。そうすれば生徒会だってもっと自由にいろいろなことが企画できるよね? さらにうちの学校だけじゃない、他の学校の人たちともつながれるしね。このままちっちゃく学校の中、委員会の中、生徒会の中、部活の中、って篭ってたら大切なものを掴み損ねてしまうよね。立村くんがそこまで考えてたかどうかわかんないし結局中途半端なままで終わっちゃったけど、今ここで、高校でもっと開かれた場を作れば少しは立村くんの無念も晴れるんじゃないかなって、そう思ったの」

 清坂はそこまで一気に語った後乙彦に、

「どう思う? 関崎くん?」

 尋ねてきた。


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