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12 二次会ゲスト(3)

 本条先輩には一度だけ直接挨拶している。当時、単なる渉外活動で生徒会一同、青大附中学校祭に出かけた際のことだった。はかの内川もいたし、副会長としては総田も一緒だった。乙彦ももちろん水鳥中学生徒会副会長としてそれなりに頭を下げたはずなのだが、本条先輩は明らかに覚えていない様子に見えた。

 同期の二年先輩たちから一通り事情を確認し、

「わかった、まずは一曲歌わせろ!」

 意見の前にまずマイクを握って一曲、最近はやりの洋楽を歌い上げた。あまり上手とは思えないがもちろんそんなことは言わないでおく。やいのやいのの拍手だが、続いて歌おうとする奴はいなかった。

「よっしわかった。どうもすまんな。俺の弟分が相変わらず迷惑かけてしまってるようで責任ばりばり感じるぜ」

 ちっとも感じてない軽い調子で本条先輩は清坂に、

「もう一杯、今度はグレープスカッシュ頼む」

 注文を頼んだ。清坂もたいして嫌な顔をせずはいはいと連絡用電話を手にとっている。現れたとたんこの俺様ムード、青大附高に入ってからはあまり感じることのない態度である。

「まあ、ほんさとにも今更ながら声かけるのもどうかと思ったんだがな」

「いや、あいつのことについては俺が全責任取ることになってる。ちょっとしたことでも連絡よこせって前から言ってるだろ。それにこういう機会でもなきゃ、なかなか飲めねえだろ」

「全くだ」

 ほとんど同期会ののりともいえる。乙彦を含む一年メンバーに対しては、

「毎度毎度、あいつちっとも成長してねえってのはなんだろな。まあいい、今度会った時には少し締めておかないとな」

 一応は労ってくれた。すぐ清坂が言い返した。

「本条先輩だめですよ。立村くんはきつく言ったらまたいじけてしまうから、知らん振りしといてください! もう私もこりごりなんですから!」

 これまたどこまでも残酷な言い方をする。難波が続いた。

「俺も正直またか、って感じですがしょうがない。腐れ縁同士これは俺がなんとかします」

「そうだねホームズ、俺も賛成です、そうだよね羽飛?」

「まあそんなこんなで、本条先輩、んでは、率直なご感想をいただけますかね」

 乙彦だけが黙っていた。どうせ向こうから直接詳しい話を聞きたがっているのだから、話しかけられるまでは沈黙が金だろう。他の奴らからしたら本条先輩は完璧なまでのカリスマなのだろうが乙彦からしたら、総田とほぼ同類としか思えない。

「じゃあ俺なりの意見およびベストな方法を一通り言っとくか。ほら羽飛、メモっとけよ。それと、ほらそこにいる水鳥中元副会長くんよ、もっとこっち寄れ」

 乙彦のことは忘れられていなかったらしい。しかたなく羽飛の隣りに座りなおす。後ろで予餞会実行委員長が、

「本条はきつく見えるが悪い奴じゃないから気にするな」

 ささやいてくれた。いや、そんなことでびびっているわけではないのだが。


「話をまず整理させろ。今回は新井林とキリコちゃんの弟と、かの美少女生徒会長との三角関係のもつれかよ。あいつらいったい何やってるんだか」

「本条、お前に言われる筋はない」

 つっこみを入れる先輩たちを蹴るまねしつつ、本条先輩は続ける。

「んであいつが仲裁したと。ところでここにいる君らに質問したいんだが」

 にやりと笑う。

「なんであれだけの可愛い子に俺が一切手出ししなかったか。なんで俺がここまで冷静に様子見してきたか。なにもあの馬鹿野郎のせいではないからな。さあなんでだ」

 ──訳、わからないこと言うなあ。

 黙って聞いていると、更科がおずおずと手を挙げた。

「はい更科言ってみろ」

「これは未確認情報ですけども」

 先輩がたの顔色を伺いつつ、最後に難波と頷きつつ、

「ふたりとも手玉に取られてたって奴ですか。俺とホームズあと天羽含めての共通見解なんですけど。今までこれ、俺たちもほんの一部の奴としか共有してなかったことなんですよ。てか知ってた? みんな?」

「知るわけねえだろ」

 けっと吐き捨てるように難波がつぶやき、

「俺たちはさまざまな観点からこの件について調査してきましたが、他人を巻き込むことと自分たちとは関係ないことからあえて何も言わないできた次第です」

 改めて本条先輩に説明を行った。それを聞いて二年の先輩たちが息を呑む。乙彦もただただ語る本条先輩に見入るのみ。

「更科、難波、お前らふたりの意見はきわめて正しい! で、立村もかなり早い段階でそのあたりの事情を把握していた。これは俺が奴の口から確認している。どっちにせよ、ふたりの後輩たちには悪いがご愁傷様と言うしかねえよ。悪い女に惚れたなあ」

 ──どういうことだ? 

 みな、素直にこっくり頷いている。ある程度理解できるだけの素地は用意されていたということだろう。少なくとも附属生たちは。羽飛も清坂も、それから古川も極端に驚いたそぶりを見せてはいない。二年先輩たちもそれなりにびっくりしてはいるようだがそれ以上の動揺もない。取り残されているのは乙彦だけだ。

「本人確認したわけじゃあねえし、人の色恋沙汰に首突っ込むほど野暮なこともねえ。そんなわけでかんたんに言っちまうと奴らのマドンナは別の学校の奴とこっそりいちゃつきつつあのふたりをどういうわけか翻弄していたというわけだ。キリオくんだったか、キリコちゃんの弟君。奴はどうやらそのあたりの情報を入手して彼女に迫っていたと騒ぎ立てたそうじゃねえか。なあそうだろ?」

「現場で観た奴の話からしたらそうみたいだぞ」

 これは二年の先輩たち複数の意見だ。

「新井林はざけんなよと噛み付いてそれであわや一戦ということだったわけなんだが、まずはこいつが本当かどうか確認する必要があるんじゃねえか? そうすりゃこれから先、お前らが取るべきスタンスも決まるだろ。率直に言っちまうとお前らは、霧島キリオ君と新井林とどちらを取るつもりだ?」

「そんな無茶です」

 清坂があっさり拒否した。

「もしお前らが新井林の肩を持つんだったらこの件はさらりと流して終了させたほうがよさそうだ。どこから見てもこの件は、新井林にとって不利だしな。それともし、キリオを面倒みたいんだったらこれはもう、とことんマドンナの男関係を洗い出して白黒付けさせて決着付けるのがベスト。だってそうだろ? そうしとけばキリオは嘘を言ったわけではない、年上の女子にふらっとしてしまい振られてしまった哀れなこひつじ」

「本条先輩、悪いんですけど俺のプアな脳みそでは理解不能なんですが」

 とぼけた声で羽飛が茶々を入れる。乙彦の叫びたかったことを代わりに言ってくれた。

「羽飛のリクエストに答えるならば、最初にやるべきは結局マドンナの本命が誰だったかをちゃんと確認するのが先決だ。一部の奴らは把握しているかもしれないがここでしっかり決着つけさせるのが新井林にとっても、あのキリオくんにとってもいっちゃんいいことだろ。それに」

 ちらと乙彦を見やり、

「立村の汚名も少しはそそがれるんじゃあねえかとな」

 意味ありげにつぶやいた。


 ──何言いたいんだ、この人は。

 目つきがなんとなく気味悪い。タイミング計って質問してみようと決めた。

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