12 二次会ゲスト(2)
清坂と古川がにぎやかに入ってきたので、次のゲストである本条先輩に礼を逸することはなかった。ふたりも顔を見合わせて、
「うわあ、本条先輩来るんだね」
「立村やっぱ、無理にでもひっぱってくるべきだったんじゃあないの?」
それぞれ言いたいことをしゃべっている。古川はすぐに乙彦に手を振り、
「あんたたちも大変だったねえ。けど最高だったじゃん!」
意味ありげに労った。クラスの連中が何をしていたかは実をいうとほとんどわからず、おそらく担任・麻生先生の美しい姿にみな悩殺されていたと思われる。
「隠すだけ隠してきたかいがあったが、クラスでは受けてたか」
「もう最高! 笑うだけ笑ったし泣くだけ泣いちゃったよ!」
そこまで言って古川は予餞会実行委員長および評議委員の先輩たちに声をかけた。
「見事なサプライズでしたよあれって! 中学でもそりゃ卒業生を送る会くらいは経験ありますけど、まさかね、先生たちがそこまでやってくれて盛り上がってくれるなんて誰も思ってなかったしね。南雲の手配でしょ。さすが感動のつぼ、押さえてますよねえ。それにさ、エルザ姫とローエングリンのキャストがもろパーフェクト! よくやりましたよねえ。来年私たちの代であれ以上のもの企画しろったらすっごいプレッシャーですよ」
褒めるだけ褒める。絶賛しまくる。
「古川にここまで褒められるとはうれしい通り越してちょい恥ずかしいな」
「全くだが、まあ俺たちの青大附高でするべき仕事は一段落したと考えていいんではないか。あとは俺たちのやりたいことをやるっきゃない! 先生がたが身を持って示してくれたし文句いうなよコラ、で以上」
アルコール一滴も入っていないにも関わらず異常にテンションが高い。一方清坂も会長としてよりも、元青大附中評議委員の後輩として控えめに振舞っている様子だった。こまめに注文したものを取り分けたり、別の先輩たちに寄り添ってアドバイス受けたりといろいろだ。
──清坂は上級生にものすごく受けがいいな。
同級生たちには今ひとつ、男女ともに扱いを迷われているところがある清坂だ。生徒会長に一年ながら就任して問題が特におきているわけでもないのは、上級生たちのバックアップがしっかりしているからだろう。静内や東堂から聞く限りだと、もう生徒会長ともなってしまえば別世界の人間なので割り切って付き合えるし、かえって関係もよくなったと聞く。
──今はまだ二年の先輩たちが支えてくれているからなんとかなっているが、問題は四月以降だ。
羽飛もそのあたりどう考えているのだろう。これこそしっかり話し合う課題だと思う。
「さてと、じゃあ関崎、あんたさちょっと来な」
しばらく先輩たちと予餞会のハプニングなど聞かせてもらっているところに古川がひょっこり割り込んできた。腕をひっぱりふたり島を作らされる。
「何かあったのか」
「あったに決まってるじゃんよ。あんただって羽飛たちから聞いてるでしょうが」
「立村のことだろう。一通りは聞いた」
「じゃあ、明日からのことなんだけどさ。かんたんに今から打ち合わせておきたいんだけどね。本条先輩が来る前にね」
他の先輩たちにはいつのまにか難波や更科が張り付いているのでふたりきりで話しても特に聞かれることはなさそうだった。
「一通り、確認すべきことは確認したんだが、俺たちが何かできることってあるか? 俺にはないとしか言いようないんだが」
たぶん情報量は古川のほうが圧倒的に多いだろう。同じ説明を繰り返すのもどうかと思うのであえて最初に尋ねた。古川は冷えたピザをナフキンで包んでかじりつきつつ、
「立村のご機嫌取りくらいだろうねえ。けど、今回はゆいちゃんの弟やら新井林やら元生徒会長やらいろいろ絡んでるからちょいと面倒なことになりそうよねえ。普段だったらこんな下級生のちちくりまんぼな話に首突っ込んでてもいいおかずにになんかならないんだけど、しょうがないかってことで緊急の本条先輩にご足労いただくことになっちゃったわけ」
「そんなに大事なのか」
「それ自体はたいしたことないよ。しょせん誰かが好きとか嫌いとかその程度。けど、立村がいったん切れた時になにしでかすかわからないってのがあるからね。本条先輩も卒業の時いろんな面子に言ってたんだよね。立村がまた何かやらかしたらすぐに連絡よこせって。今回はやらかしたのが霧島だからどうよってとこもあるけど、まあね」
「悲しいくらい、みそっかす扱いされてるってことか」
思わずつぶやいた。これが元青大附中評議委員長の実像か。
「そうよ。立村もあまり面白くないだろうけどそれが現実だからしゃあないよね。とにかくこれから本条先輩が現れてそれぞれに事情聴取が行われるわけだけど、あんた、本条先輩と挨拶したことある?」
「中学時代に一度だけあるがたぶん向こうは顔を覚えていないと思う」
「それならあんた、聞かれたことだけ普通に話せばいいよ。たぶん本条先輩のことだからまだ童貞かとかそういうこと聞いてくるだろうけど目的はどっちにしても立村のことだから、あんまり過剰な対応しなさんな」
「別に俺も先輩に対して礼儀は尽くすつもりだが」
古川は乙彦が本条先輩を怒らせるのではと心配しているようだ。かなり誤解されている。別に乙彦は男子の常識を無視しているわけではない。それなりにそれなりの知識はある。
「それとさ、たぶん本条先輩としてはあんたに最近のあいつの動きとか根掘り葉掘り問い質すと思うけどこれも素直に、ありのまま話すんだよ。隠したってあの人無駄だから」
「もちろん正直に話すつもりだが俺はさほど知っているわけじゃない。むしろ聞きたいくらいなんだ」
いったん呼吸を整えるためコーラを飲み、乙彦は古川に問い返した。
「そんな、他の高校に行った先輩を呼び出して頭突合せて相談しなくてはならないほど今回の件は大事なのか?」
古川もちらと清坂を始めとする面子を眺めてから、
「そうだよ。立村のことだけじゃないからね、今回の話はさ。生徒会のこととか、評議委員会とか、その他うちの学校の今後とか、いろいろあるからさ。内々で煮詰まっててもしょうがないってことでうちの先輩たちも含めて話し合いをしたいってことでよ。ほんとは泉州さんや阿木ちゃんにも来てほしかったけどまあこの面子なら話、成り立つよね」
まったく持ってわからない。とにかくはっきりしたのはこの場でマイク持って歌いまくるというのは無理だということだった。仕方ない、期末試験が終わったら名倉、静内と三人で思う存分歌い上げるとしよう。
「お連れさまでーす!」
案内されると同時に扉が開いた。銀縁めがねで髪の毛をきらきら光らせている、どことなく派手目な男子がひとり手を挙げて現れた。みな拍手で出迎え、
「本条、おせえぞ、どこで一発抜いてきた」
「ったく、延長分はお前払えよ。どうせバイトで稼いでるんだろ」
予餞会実行委員長および他の先輩たちに背中をばしばし叩かれながら迎え入れられた。清坂をはじめ附属中学出身者が立ち上がり、
「本条先輩お久しぶりです!」
「先輩どうもっす」
などなどそれぞれに礼儀正しく挨拶をした。
「悪いな、ちょいとバイトで手間がかかってな。清坂ちゃんも、おお、古川女史もいるんじゃねえか! すげえ面子だな。んじゃあ俺もまずはジンフィーズで乾杯だ!」
いかにもその辺の軽い兄ちゃん風に本条先輩が答えるのを、乙彦はひとり静かに様子を伺っていた。何度見ても思うのだが、この人を絶対的ヒーローとして崇める立村の気持ちが全く理解できない。
──立村は本条先輩絶対主義だから、絶対に逆らうんじゃないよ。
古川によく注意された言葉を思い出しつつ、乙彦はそっと近づいていった。
「改めてご挨拶します。一年A組の関崎です。立村からかねがねお噂は伺ってます」
あと結城先輩にも、と付け加えようとしたところで本条先輩はじろりと乙彦に目線を送った。
「ありがとよ。俺の弟分が相当迷惑かけてるみたいだな、結城先輩はじめここにいる全員から聞いてるよ。今夜はぜひ、お前さんに詳しい事情を聞こうと思ってたんで、覚悟しろよな」
背中がぞくりとした。
──まじで、嘘、言ったら殺されるかもな。
どうか隠し事しなくてすむ内容でありますように。




