12 二次会ゲスト(1)
二次会会場は実行委員会の一部と生徒会役員全員でいつものパターン、カラオケボックス集合と相成った。大部屋押さえておけば多少人数が増えても対応できるしはめもはずせる。一次会は遠慮していた生徒も場合によっては参加可能。これは結構大きい理由のひとつだ。
もっとも今回、実行委員の先輩たちはほとんどが元生徒会役員かつ付属中学時の評議委員会関係者がほとんどだ。外部生にとって居心地はあまりよくないことは予想していた。
「これからこずえも来るって」
清坂が羽飛に話しかけている。
「ほらなんだ、規律の奴らは」
「ほんとは影の功労者なのにね。みんな用事があるから無理なんだって。南雲くんはほら、下宿が厳しいから夜六時まで戻ってごはん食べて、それから勉強しなくちゃいけないんだって。東堂くんも彼女とデートで、立村くんはまたいろいろたいへんだし」
ある程度の事情は把握しているようだった。それにしても今回ほとんど接点のなかった古川を呼び出すとは思わなかったが。
「予餞会と関係ない奴も来るのか、古川みたいに」
「そうね。私、聞いてないけど先輩たちはそれなりに盛り上がりたいから呼ぶかもね。予餞会の打ち上げっていうよりほんとに仲間内のカラオケパーティーって感じ」
「それだと無理強いして他の連中連れて行く必要ないんじゃないか」
さっき羽飛に助言されたことをすぐに実行することにする。
「俺もさっき名倉たちと話をしていたがはっきり言ってあまり乗り気じゃない。阿木や泉州も夜遅いのは抵抗があるようだ。それでも義務なら仕方ないが、別に普通の遊びだったら奴ら帰しても問題ないんじゃないか」
夜といってもまだ五時半を回ったところ。ただ女子の場合はいろいろと面倒だろう。名倉はもとより顔に「しかたなく」と書いてあるような状態で女子二人にしたがっている。泉州も阿木も名倉がいるからこれまた「しかたなく」くっついている状態で、無理して反省二次会で盛り上がりたくはなさそうだ。
「美里、俺も関崎の意見に賛成。お前が生徒会一丸にしたいのはわかるけどよ、そうあせるなよ。これからまた機会いくらでもあるだろ」
すぐに羽飛が仲介に回ってくれる。ありがたい。なんとかして生徒会役員たちを仲良くさせようと話を振る清坂には申し訳ないのだが、疲れもあるし無理してあわせる気力など他の連中にはないだろう。相変わらずマイペースに無視を決め込む難波はともかくとしてもだ。
「そっか。単なる二次会だもんね。しょうがないか。わかった。じゃあ私帰ってもいいって行って来る!」
「ちょい待て、美里」
再度止める羽飛。それなりに「ちゃんと文句」を言っているという証明なのだろう。
「あのな、お前が言ったらまた気遣っていいよいいよの遠慮攻撃になるだろ。ここはお前、先に古川迎えに行ってろ。関崎、悪いが名倉たちに伝えといてもらえるか」
「了解」
清坂がすぐに背を向けて別方向に走っていくのを見送りつつ、乙彦は名倉たちD組三人に近づき伝えた。
「用があるなら帰っていいって会長が言ってたぞ。今夜はどうせ単なる友だち同士で盛り上がるだけだからってな」
即座に安堵感を顔にありありと浮かべる三人、やはり読み通りだった。
「なんか悪いなあって思ってたけど、帰っていいなら、いいよね」
「私もさ、あまり遅いとうちの父ちゃんが起こるからさあ」
「俺もこれから期末テストの勉強がある」
三人三様それぞれ、さっさと背を向けて去って行く。清坂のがんばりを認めないわけではないが、やはり一D生徒会トリオの心を掴むにはまだまだ時間がかかりそうだった。
──俺の仕事もまだ続きそうだな。
今夜は遅くなると家にも伝えてあるし、さほど遠くない場所にあるカラオケボックス。結局集まった面子は十名程度。本当に内輪の集まりで乙彦の居場所そのものが危うい。外部生が乙彦しかいない。名倉を無理にでも残しておけばよかったとちらと思う。
「生徒会、減ったなあ」
「しょうがないっすよ。女子は夜遅いといろいろ面倒だし、関崎とも相談して門限ある奴はさっさと帰しました」
「なるほどな。しかしそうなると女子、清坂ちゃんだけかよ。け、さみしいのう」
予餞会実行委員長かつ元生徒会長がため息をつく。すぐにフォローに入るのは更科だ。
「大丈夫ですよ先輩。清坂さんがこれから古川さんを呼んでくるって言ってましたよ。なあ、羽飛?」
「おお、そうか! 青大附高一の下ネタ女王か!」
「もりあがりますよ絶対」
完全に附属生同士の世界で盛り上がることだろう。やはり名倉たちと一緒にとんずらしたいところだったが、生徒会副会長の自分がそんなことできはしない。
──まあいい、こうやって先輩たちと腹割って話す機会もこれからはなくなるだろう。貴重な機会だゆっくりしよう。
気持ちを切り替え、カラオケボックスの大広間を楽しみにすることにした。退屈だったらマイク奪って歌い続けていればいい。外部生なりにそのくらいの楽しみはもらっていい。
羽飛と更科が、一年生なりの気遣いでピザと飲み物を注文しカラオケボックス内のテーブルに並べた。薄暗い部屋の中、相変わらずミラーボールがぐるぐる回っている。いつも乙彦が仲間たちと行く、へたしたら酸欠になりそうな部屋ではなくゆったりソファーでくつろげる広間だった。靴を脱いで足を崩したまま座った。まだ清坂たちは到着していない。むさい野郎ばかりだが、とりあえず先輩たちに飲み物を回すことくらいは乙彦も心得ていた。
「関崎も今回、どうだった、予餞会の初体験。まじで来ただろ?」
「すごかったです。心底感動しました」
届いたピザを切り分けつつ乙彦も答えた。嘘ではない。
「今回の予餞会は先生がたがどうしても仕切りたがってたからなあ、それを逆手にとって、じゃあ何かいいイベントよろしくって頼んだらあれだよ」
「規律委員の南雲の提案と聞きましたが」
実行委員長もとい元生徒会長と隣り合う。いつも生徒会室で顔をあわせている人でもあるのでまだ気が楽だ。
「今まで隠してて悪かったんだけどよ、まあ、早い話、南雲が何かやりたくてうずうずしてたみてえだし、じゃあお前、先生たちになんかプレゼンしてこいってつっついたら、ありゃりゃんあっという間に話まとめてきやがった。すげえ営業能力だわな」
隣りで聞いていた他の先輩たちもみな、口をそろえて、
「全くだ。南雲が女子をとりこにするテクニシャンってのは前々から聞いてたが、先生がたをも手玉に取るとはなあ。まさか女装やら歌やらなんやら用意してくるとは俺も思わなかったぞ」
「そうだな、さすが南雲、本条の幼馴染だけあっていいとこしっかり受け継いでるよなあ」
ここでふと、実行委員のひとりが口をつぼめた。
「清坂ちゃん遅いなあ。どっちが早く来るかねえ」
「誰か来るんですか」
聞いて見ると予餞会実行委員長はピザをほおばりながら、
「関崎も伝説は聞いてるだろ。今言った本条。俺たちの代のナンバーワンで南雲以上のスケコマシ。伝説たっぷり残してさっさと青潟東に行きやがったんだが、こういう場には欠かせない奴なんでね。昨日のうちに電話しといて参加決定済み」
「知ってます。よく立村から本条先輩の素晴らしさについてうんざりするほど聞かされてます」
初対面ではない。遠くから眺めたこと程度はある。いや、向こうが認識しているかはわからないが一度挨拶もしたことがある。立村が心底尊敬している人だとも。
──まずい、ここで立村の話題は禁物か。
なんとも言えない気まずい雰囲気が漂った。そうだった。先輩がその本条先輩に連絡したのは、尋常ならざる立村の状態に仰天してという経緯があったはずだ。立村の兄貴分にあたる人がこれからこの場に現れるということは、たぶんそれなりの話になるということだろう。
「本条もな、どうせ弟分にするんだったらガキの頃から可愛がってる南雲にしときゃよかったのにって思うぞ。今日のあの舞台観てたらな」
吐き出すように実行委員長がつぶやくのを聞いた。




