11 副会長密談(3)
暗さも増してきた中、尻もだんだん冷えてくる。
「そろそろもどらねえとまずいんで俺からの頼みをさっさとまとめるとだ」
「結論から言ってもらえると助かる」
たいして気を悪くしたでもなく羽飛は笑いながら言った。
「頼みたいのは二点なんだ。まずは立村のことだけども、ま、その辺はだいたい把握してるよな。なんとなく気にかけてやってくれ。またなんかとんでもないことやらかしそうになったら俺に一声かけるとかその程度でいい」
意外とあっさりしている。
「様子は見るつもりでいるが、あまりしつこくされると立村のほうがむかつくんでないか」
「まあそうだ。だからやんわりとな。それともひとつが本題でな」
立ち上がり、羽飛は周囲を見渡した後さらりと、
「霧島のことなんだがな、たぶん近いうちに関崎にも接触してくるだろうと思うんだ。そんなことがあったらさりげなくこっちも面倒見てやってもらえないかということなんだ」
──どうやって霧島の面倒見れというんだ?
乙彦も腰を上げて羽飛に向き直る。暗闇の中、まさか霧島が近づいてきているとは思えないのだが、念のため姿のありなしを確認する。
「面倒見るほど付き合いないんだが」
「まあそうだ。けどな、霧島のやつれた姿見てるとな、やっぱしこれは無視するわけいかねえだろうというのもあってな」
「それはそうだが、立村なりに激怒する理由があるのだったらそれは待つしかないんじゃないか。無理に顔合わせの席を設けるようなことじゃないだろう」
「俺も、最初誰かが間に入って話し合いさせようかとも思ったんだが、やっぱ無理だとあきらめたんだ。あの立村がぶちぎれたくらいなんだから相当なことをしでかしたんだろうし、昨日の今日だ、そうそうかんたんに立村が機嫌直すとも思えねえよ。論より証拠、今日あいつ、打ち上げ出ないでさっさと帰っちまったろ」
「確かにそういえば」
先生たちの衣装を回収した後、規律委員たちも本当であれば二次会に合流するはずだった。しかし立村はするべきことだけ片付けて、あいさつもなく帰ってしまった。
「普段なら無理にでも連れ出すとこなんだが、そういう事情もあるしな。少し時間を追いたほうがどっちにせよいいだろうな。それともうひとつ忘れてた」
ゆっくり学食に向かって歩き出す羽飛。結局二次会会場の下見はする気なさそうだった。もともと乙彦もあまり拘りなどない。
「お前さんの立場ってのは立村と霧島両方に顔がきくから結構情報が集まりやすいと思うんだ。それに、外部生としてもすげえお前、評判いいだろ。先輩たちにもそうだし、後輩たちにも」
「後輩は、あまりこの学校にいないが。まだ一年だ」
生真面目に答える。羽飛は声を挙げてわらった。
「まあそりゃそうだ。俺が言いたかったのは、外部生と内部生の間に立って、お前が一番よく話を聞いてるってとこ。いろいろ阿木やら泉州がしゃべってくれるが、関崎がいるからなんとか現生徒会はうまくいってるようなもんで、このままだと空中崩壊しちまうとかなんとかな」
軽く、重たい内容は羽飛は語った。
──空中崩壊? 生徒会が? あのふたりが?
「今まで先生たちの劇とか、先輩たちの活躍とかいろいろあったから見えないままだったけどな、この前の生徒会合宿の状況からしてもやっぱしまずいだろ、このままだと」
「確かにな」
決してまとまりがあるとは思えない青大附高生徒会。清坂と羽飛との絆が確固たるものとは感じているが、それ以外はばらばらに思えるのも事実だ。現に名倉は、D組女子たちにちやほやされているくせにいまだ乙彦以外のメンバーには心開いていない。更科とは少し話をするようにはなったけれども、あくまでも表向きに近い。難波とまともに対話できるようになるのはいつの日だろう。
「仲良しクラブにするつもりはない」
元険悪な中学生徒会役員経験者の乙彦なりに答えた。
「だが、このままではまずいということは感じている」
「だろう? 難波の件については関崎が譲ってくれたおかげでほんとに感謝してるってのが俺の本音なんだ。たぶん、春休みには片がつく。けどその前になんとかして、内部生と外部生の間に流れている剣呑ムードを俺としたら拭い去りたいってとこなんだ。これ、美里もおんなじで、泉州たちにこまめに声かけてるんだが、いまいちなんだ」
「清坂ももっと腰低くあのふたりに接すればまた態度も変わるだろうが」
正直なところを言っておく。
「俺もそれ毎回あいつに文句言ってるから安心しろ。んで、俺が頼みたい一番のものってのはな、泉州や阿木、あと名倉、生徒会D組トリオの仲介をしばらく関崎にとってもらいたいってことなんだ」
──結論、これが一番大切なことじゃないか。
大声で叫びたかった。目の前が学生食堂だからそれ以上何も言えなかったけども。
羽飛は立ち止まり、きょろきょろしながら、
「美里や俺、あと難波が言いたいことを伝えても、あの三人には正確に意図したことが伝わらねえと思うんだ。俺たちもこのままだとまずいと思ってできるだけ機会を作ってくけどな、結局同じことでも関崎が伝えるだけでみな、聞く耳持ってくれるってのも事実なんだよ。無理に一丸になるのが難しいんだったら、せめて、目的だけは共有したいだろ。そのためにこれから俺も、こまめに関崎へ最新の状況報告とか、今みたいな立村と霧島のこととか、そういう情報をできるだけ持ってくつもりなんだ。できればそういう話をお前さんの判断で、あの三人にも伝えてもらいたいんだよな」
「今までは俺に全然相談しなかったってのに、ずいぶん都合のいい話だな」
嫌味ではなく本音を口にする。羽飛が頭を下げてかいた。
「まったくだ。今更気づいたってのもなんだがな。ただ、やっぱりこれから先、交流会やらなんやらいろいろ進めていくにしたがって、生徒会メンバーの目的がずれちまうことだけはなんとしてもさけてえんだよなあ。別に嘘吹き込めってわけじゃねえ。伝えてほしいってことだけなんだ」
軽く咳き込みながら、羽飛はにやりと笑いかけた。そのまますぐに学食へ戻っていった。
微妙にずれているような気がするが、一歩前進したと判断していいのだろう。
──なんとか俺も、羽飛には平等な生徒会副会長として認められたってことか?




