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11 副会長密談(2)

 乙彦が黙っているのもあまり気にしないらしく羽飛は詳細を語り続けた。

「立村の性格はだいたい把握してるつもりだし、美里もあのあと古川といろいろ話を煮詰めてたらしい。んで、朝一番にふたりで様子見して、まあ若干は浮上してるみたいだなと判断して戻ってきたんだがな。実はその後だ」

 思わせぶりな口ぶりで、乙彦のほうを見る。

「俺たちがセミナーハウスに顔出ししたのはかなり早い時間だったと思うだがな。俺と美里が学校に行こうとした時に、だれやらひとり呼び止める奴がいる」

「誰だそれは」

「霧島だったんだよ、それがな」

 羽飛はつま先で何度か雪をつつきながら言った。


 ──霧島が、なんでだろう?

 修羅場を引き起こした張本人。立村となんらかの会話があったとは思われるが。

「俺たちも予餞会の準備があったしそんなに時間取ってられなかったけどまあ多少は話、した。霧島も具体的になにしでかしたとかまでは言わなかったし、俺も直接現場見たわけじゃあねえからな。ある程度の確認しかできねかったけど、立村とはそれなりにすったもんだがあったということらしいんだ」

「泣いてたくらいだからな」

「霧島がか?」

「そうだ。たまたま見かけた」

 杉本梨南の背中に黙って従い、背中を震わせていた霧島の姿が忘れ難い。まず青大附高在学中に絶対見ることなどない光景のように思えた。だが確かにその姿は幻ではなかった。

「古川にも話したがかなり驚いてたな」

「そりゃなあ。あのお坊ちゃまが泣きながら帰ってったくらいなんだからなあ。新井林には相当なこと言い返したらしいんだが、立村にきつく御灸を据えられたとは聞いている」

「具体的にはどういうことなんだろう」

「さあな、俺もわからん。ってか、新井林たちのいざこざは正直俺にとっちゃどうでもいいんだよ。焦点は立村な」

 ──羽飛ってのはあまり後輩を面倒見るタイプではないんだな。

 意外な面に少しだけ驚くも、すぐ納得した。たぶん羽飛は同じ立場の相手とため口でしゃべるほうが楽なのだろう。

「話、戻すとだ。どうも霧島の奴、セミナーハウスに立村が縫い縫いのために泊り込んでいることを知っていて、朝一番に捕まえようと待ってたみたいなんだ」

「そりゃ、今日は予餞会だからな。附中でも知ってて不思議はないだろう」

「まあそうだ。んで、立村はずっと徹夜でウェディングドレスにかかってたわけであって霧島のことなどかまう暇などなし。ほんとはそれだけじゃねえんだろうけどな。それで、立村とは結構近い関係の俺に、なんとかとりなしてもらえないかと泣きつかれたというわけなんだ」

「理由を明白にしないでか」

「そうなんだよなあ。筋は確かに通らないわな」


 立村と霧島との間になんらかのトラブルが生じたことは確実だろう。どちらの勝ちなのかはともかくとして、立村は尋常ならざる落ち込み状態、一方の霧島も涙ながらに許しを乞う。間に挟まった羽飛が頭を抱える、といった形か。

「清坂には話したのか」

「一応、待ち時間にちょこっとはな。ただあいつも一応は生徒会長だから弟分の面倒を見るほど暇はない。俺たちも近々古川邸にてたっぷりと緊急尋問する予定ではいるんだが、とりあえず今の段階でお頼みしたいのは、明日以降のあいつのことなんだ」

「立村か」

 一年A組英語科で自然に接することが出来るのはたぶん自分だけだろう。羽飛は頭をゆっくり振った。

「も、あるんだが、もひとり、霧島だ」

「俺と霧島とはそれほどつながりがあるわけではないんだが」

「わかってる。だからなんだよ。お前さん、ありがたいことに外部生だ。だから頼みたいんだよ。あ、それと生徒会のことにもこの話はつながってくわけでな」

 乙彦のほうに改めて身体を斜に向けた。

「もちろん立村のほうは俺たちも様子伺ってくつもりだし、またなにか馬鹿なことやらかしそうになったら全力で止めるつもりでいるんだ。事情ももう少し詳しいこと確認したうえでどうするか決める。ただな、なんとなく噂を集めて見る限りだと、立村がちょっとやそっとで機嫌直すような内容には思えねえんだわな」

「まて、羽飛、それどういうことなんだ。立村が心底激怒した内容ってことか」

「まあ、そういうことになるかなあ」

 素直に羽飛は認めた。

「立村は一度ぶち切れたらどんなに説得されても絶対に許さないんだよ。ほんとあのがんこさには俺も中学時代どれだけ手を焼かされたか、お前さんには一度思い切り話したいくらいなんだよな。あいつなりに理由がある以上ひっくりかえすのもなかなか難しい。今までその嫌っちまう相手は先生ばっかだったからまだなんとかなったけどな」

 ため息をつく。

「今回は、あれだけ可愛がってきた弟分だろ。俺が知ってる限り、立村があれだけ面倒見てた後輩ってのはあの、札付きの女子くらいでさ。男子では聞いたことねえ。あいつが心底弟タイプだから自分が弟分作るって感覚ねえんだろうな」

 ──それ、お前も同じじゃないのか。

 つっこみたいが飲み込んだ。確かに立村は下級生と親しくしたがる性格ではなさそうだ。霧島だけが例外というのも頷ける。

「霧島も、俺としては友だちにあんまし欲しいタイプじゃあねえけど、悪い奴じゃねえんだろうなとは思う。あの、こういっちゃあなんだが中学時代見下されていた立村に天下のの秀才くんがあれだけ懐くんだからな。噂によるとクラスでも自主的に孤立していて友だちもそんないないらしいし、ほんと、下手したらばかいえるのが立村だけだったかもしれないんだわな」

 ──いや、友だちなんていらなさそうにみえるぞ、霧島は。

「どういう事情かわからんし、あんまり世話焼くのもどうかと思うんだが、どっちにせよこの状態だと霧島がやせ細ってまじでお稲荷さんになっちまいそうでさすがにそりゃまずい、と思ったわけなんだ」

「霧島には、羽飛、なんて伝えたんだ」

「一応、話はして見るが期待するな。反省しろ、以上、これしか言えねえだろ今は」

 羽飛の判断は正しい。それしかない。


 

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