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11 副会長密談(1)

 予餞会が思わぬサプライズにより最高潮に盛り上がったその夕方、生徒会役員および予餞会実行委員会一同はそれぞれの場所で打ち上げを行った。さすがに人数が多すぎることもあって、清坂が実行委員長と相談し、生徒会役員たちは別の場所で一次会を行い二次会で合流するてはずに決まったらしい。これもまた、乙彦の預かり知らぬところで決まったことのようだ。

 ──いい加減俺を抜きにして話を進めるのはやめてもらいたいもんだが。

 こればかりは、イベントが落ち着いたところで改めて話し合うべきだと思う。乙彦に限らず、名倉や泉州、阿木も同じ不満を抱いているような気がする。

「あとで、少し時間をとってもらえないか」

 清坂だと妙な誤解がわきそうなのであえて羽飛にもっていった。

「ちょうどよかった。俺も関崎にちょいと相談があってだな」

 あいかわらす健全な学生食堂のど真ん中で乾杯を繰り返しながら羽飛も頷いた。

「急ぎじゃないんだが今後のために」

「じゃあ俺の内容が急ぎかもな」

  一人ごちた羽飛はひょいと親指で外を差した。

「おおい、美里、今から次の会場確認してくるからな。関崎といっしよに」

「わかったー」

 別段乙彦がいなくても困る場面は今のところない。ひとりで取り残されそうな名倉もよくよくみると阿木と泉州にはさまれてまんざらでもなさそうだし、清坂も難波たちといっしよに、別チームの実行委員たちと交流を楽しんでいる。羽飛も本当はそのグループのひとりだったはずだが。いきなりの展開に驚く。

「じゃあ行くか」

 誘われてそのまま外に出た。


「関崎、お前の方から言えよ」

「すぐにすむ。今回の打ち上げもそうだが、予定を立てるときはもう少し俺たちにも一声ほしいんだが」

 単刀直入に言っておく。羽飛が驚いた顔でもって、

「そんなことか」

 あきれたように呟いた。

「お前や清坂たちはあうんの呼吸で話がすむことも多いだろうが、俺はやはり外部の人間だからわけがわからないうちに話が進んでて驚くことが多い」

「悪かった、今回はいきなりきまっちまったからなあ」

「今回に限らず、予餞会の予定やセミナーハウス突撃や、その他いろいろだ。俺としてはあまりいい気持ちではない。もちろんよんどころない事情もあるだろうがせめてなにか一言ほしい」

 腹を立てているわけではなく、ただこれからは自分もしっかり食い込みたい。それだけのことではある。

「わかった、そうだな、とりあえず予餞会が終わるまでは俺たちもなかなかうまく動けないとこが多かったしな。けど、今回の予餞会で持って元生徒会のみなさんは引退してくれるだろ」

「それとこれと関係あるのか」

「大有りだって。まあな、俺たちもこのままじゃまずいよなとは思ってたんだが先輩たちの意向を立てるのもあったんだが、これからはやりかたまるっきりかえるから、少なくとも関崎が蚊帳の外になることはなくなるんじゃねえかな。美里もそれはしねえよ」

「本当、か」

「当たり前だろ。まあ見てろ、これからは俺たちのやりかたでもっていくからな」

 羽飛は胸を叩いて言い切った。


「じゃあ俺の用件な。わりいがこっちはちょい、緊急なんだわ」

羽飛はすぐに話を変えた。ちょいちょいと、行きが溶けたベンチに誘った。

「ち、冷てえ。尻に冷えが凍みるよな」

 同感しつつも確認する。あまりひっぱるわけにはいかないだろう。

「実は、立村のことなんだがな。お前、噂聞いてるか」

「いいや、なんとなく」

 一応、更科から聞かされていると伝えた方がいいのだろうか。嘘を言っているような気がする。

「更科に、話しとけって頼んだんだかなあ」

「その内容でよければ大体は聞いた」

 ずいぶん更科もフレンドリーな奴だと思ったのだが、羽飛の差し金とあってはしょうがない。素直に認めることにする。たぶん難波の目がうるさかったこともあるのだろう。羽飛はすぐに納得して続けた。

「俺も今日は全部幕の裏にいたからわからねえけど、あいつ、いただろ、ずっとお前らと一緒に。どうだった」

「魂の抜け殻みたく倒れこんでたな。なに、根詰めて縫い物やってたのかと思ったんだが」

 正直な感想を伝えた。更科が話してくれたことが紛れもない事実だとすると、立村は尋常ならざる衝撃を受けてグロッキー状態なのだろう。弟分……ともう認めていいだろう……の霧島と、いろいろと因縁のあるらしい新井林とそれぞれの面倒なつながりで神経すり減らしていたともきく。しかも今回はひとりの女子の奪い合いで決闘ときた。理性で押し留められる問題じゃない。

「俺もよくわからないんだがな。詳しい事情は新井林捕まえて聞き出すしかねえし。人の色恋沙汰に口出すのはどうかと思うぞ。けどな、まあ立村があれだけめげちまったら、周囲に及ぼす問題も溢れんばかりと思うんだ。過去の例を考えた上でそう俺は読んでいる」

「よくわからないのは俺のほうだ。申し訳ないんだが、分かる範囲で昨日の修羅場について教えてもらいたいんだ。一応は更科も教えてくれたがさすがにあの場で根掘り葉掘り聞くのはしんどい」

 せっかく羽飛が切り出してくれたのだ。この貴重な機会を生かさずになんとする。

「そうさな。よっく考えればA組であいつの面倒を見られるのは俺じゃなくてお前くらいだもんな」 

 ──いい年して「面倒見られる」奴ってのも情けないと思うがな。

 羽飛はいきなり話をすっ飛ばして、昨夜のことから始めた。


「昨日の夜な、だいたい十時ちょい前か。俺が風呂から上がったところでいきなり天羽から電話が来たんだ」

「天羽からか」

「そうだ、更科からも聞いただろ? 立村が先生たちのリハーサルに付き合ってその後風呂で茹で上がるほど浸かっててどん底に落ち込んでたって」

「想像絶する号泣だと聞いた」

 膝を叩いて羽飛は笑った。

「そうなんだよな。なんせ先輩方がびびるくらいだから相当だったんだろ。あいつからしたら誰もいないと思ってたんだろうが。けどうちの学校の先輩方はそのあたりだいたい把握してっから、とりあえず南雲捕まえて相談したらしい。そいで南雲が最初天羽に電話して、天羽が俺に、俺が美里に」

「すごいつながりだな」

 素直に感嘆すると、羽飛は当然とばかりににやりと笑った。

「俺たちの代はなんだかんだ言って連絡網的なつながりが結構あるからなあ。ちなみにあの後先輩たちは相談して本条先輩に連絡したらしい」

「本条先輩?」

「立村をめちゃ可愛がってる先輩でうちの学校にはいない人。同じ学校だったらあの人が面倒見てただろうけどしょうがねえよな。美里か俺がいたらなんとかバトンタッチして様子伺いしたんだがな。しゃあねえ。んで話によるとすっきりしたのか立村がつらっとした顔で戻ってきた時に、南雲は黙ってあいつにウェデングドレスの飾りつけを全部任せたんだそうだ。野々村先生は注文の多い人だったからなあ。まさに徹夜して縫い物に専念してたらしいぞ。今日の衣装みただろ? ありゃあ豪華だ」

 ──まさに汗と涙の結晶か。


 それにしてもと思う。

 ──立村の精神状態がちょっとだけ不安定になったくらいでなんでこいつら、大騒ぎするんだろう? 何も夜の十時ごろに連絡網つかって回るようなことか?

 人間いろいろある。泣きたい時だってあるだろうに。附属生ネットワークの絆が確固たるものなのは素晴らしいと思う。だが、その中にいつのまにか組み込まれているとしたら、とってもだが耐え難いと思う。こんな赤ん坊みたいに高校生男子が見守られたいとは普通、とてもだが思えない。

 

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