10 予餞会当日(1)
生徒会役員は朝八時に会室集合の約束だった。全員午前中は予餞会実行委員会の配下としてこき使われる予定だ。なにせ元生徒会長をはじめとする先輩たちがすべて取り仕切っていて現生徒会の出る幕はほとんどない。
──ほんとにいいのか。
疑問を覚えたとてもう予餞会当日をむかえてしまったのだからしょうがないことでもある。すっかり冷え込み氷柱も重たそうな朝、乙彦は握り飯を多めにこしらえてまっすぐ会室へと急いだ。
本当は教室に立ち寄りたかったのだが、なにせ時間がない。すでに体育着姿で走り回っている予餞会当日委員たちにも挨拶しつつ扉に手をかけた。今日も一番乗りか。誰もいない。
──だが、悪くない。
開始は十時から。ほとんど会場の飾り付けも終わっている。あとは当日でないと確認のとれない機材の準備とかそのくらいだ。
「おっはよー、関崎、今日もしっかりおったってきたよね!」
誰かすぐわかる。
「古川も早いな」
「全然早くなんてないよ。いつもこんくらいじゃん!」
古川こずえがほかほかしたコートにマフラーを巻いたまま勝手に座り込んだ。しばらく忙しくて古川とはあまり話すこともなくなっていた。藤沖の尻をひっぱたいて相変わらずクラスをまとめているようだが、今回の予餞会にはあまり積極的に参加するつもりがなさそうにみえた。
「清坂待ってるのか」
「ご名答。遅いなあ会長さん、羽飛もいやしない」
「本当は八時集合なんだが今日は早めにバイトを抜けてきた」
「気合い入ってるねえ、どいつもこいつも。野郎はだから血の気多すぎはやく彼女作って発散しなさいって」
相変わらず的はずれなことをいう古川。三角の牛乳パックを取り出してストロー突っ込んで飲み始めた。
──古川あたりなら情報持ってるか。
まだ誰も集まらない。一般生徒の集合時刻は九時半なのだが生徒会関係者だけがこの体たらくというのは情けない。こんなに寝坊してどうしろというのだ。
「まあまあ、関崎かっかしなさんな」
乙彦の憶測を古川は笑い飛ばした。
「昨日の夜ね、美里に電話したらもうやること全部決めてるって気合い十分だったよ」
「お前ら毎日会ってるのになんでまた電話するんだ。女子は電話好きだな」
「そういうわけじゃないよ。まあちょっと緊急通達ってのがあってね」
「なんだそれ」
「あんた噂聞いてない?」
一か八か、ぶつけてみた。
「霧島と新井林のことか」
「あんた誰から聞いたの、まさか立村から相談された? 知恵つけた?」
いきなり古川の口調が変わった。びんびん響きそうなほどに。詰め寄られそうで思わず椅子を後ろにずらした。とりあえずあり得ない疑いはといておくに限る。
「昨日は立村と話す暇なんかない。当たり前だろ、準備で忙しいしあいつも規律で仕事あるらしいしな」
「そうだったね、セミナーハウスに泊まり込みだったっけ」
「そう聞いてるが。だがどちらにしても、新井林と霧島とのバトルには関係ないだろ。俺がなんで立村に知恵つける必要あるんだ」
しばらく古川は三角パックの牛乳をペコペコ鳴らしながらストローで吸っていた。ちらちら戸口をみながら言葉を探しているかのようだ。
──やはり知っているんだな。
あてずっぽとはいえたぶん古川の地獄耳のことを考えるとそれなりのことは把握しているのだろう。だいたい評議委員の古川が用もないのに生徒会役員たちよりも早くから詰めていること事態が謎だ。
「実は、俺も霧島のことが気になっていたんだがな」
仕方ないので乙彦の方から手札を見せた。
「昨日の六時頃、霧島が帰るのを見たんだが様子が変だった」
「どんな風に」
じっとにらみ据える古川に心中たじろぎつつも答える。
「まず、いつものあいつのようにふんぞり返ってなかった。さらにいうと、あいつはなぜか、あの、例の女子と」
「佐賀さん? まさかよね。あの騒ぎの直後じゃ」
ぼそりと呟く古川にすぐ確認したかったがあえてそのまま続けた。
「あの、立村の、妹分みたいな」
──葉牡丹の。
「ちょっと待って、あんた今なんて言った? 立村の妹、ったらひとりしかいないじゃん!」
「だから俺も驚いた。だから確認したかったんだ」
目をみひらいたまま古川は立ち上がった。なにかをぶつぶつ呟きながら、
「あの馬鹿弟たちなに考えてるんだか」
ゆっくり乙彦に振り返り、
「霧島のようすを教えてよ」
つっとんげんに尋ねた。端的に答えた。
「泣いてたな」
「関崎くん遅くなってごめん! あっ、こずえ!」
ここまで話したところで清坂だけが生徒会室に飛び込み立ち竦んだ。ふるかわも清坂に近づき、
「セミナーハウスに行ってきたんだよね 。羽飛たちあっちにいるの」
極めて自然な口調で確認した。清坂は頷き、きっぱりと、
「やっぱり、顔に出てた。絶対、なんかあったよね。聞かなかったけど」
厳しい表情でふたりに答えた。




