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9 予餞会前日(1)

 入学試験に比べて合格発表はあっけなかった。

「関崎、一緒に見に行こうよ」

 二時間目終わりに片岡に肩を叩かれた。

「十時に発表で、生徒玄関前と、あと中にも張り出されてるよきっと」

「なんでそんなこと知ってる?」

「中学でもそうだったから」

 附属生の言葉に間違いはないだろう。乙彦も片岡に負けず劣らず気になること。けげんな顔をする藤沖を無視して大急ぎで乙彦は廊下を駆け出した。一年A組は生徒玄関から一番近い教室だからすぐに結果を確認できるというわけだ。

「あるか」

「わからない」

 片岡のかすれた声を聞くまでもなく乙彦の目はすでに結果を確認していた。

 受験番号も、名前もない。

 そもそも合格者が三十人しかいない。

 英語科もみたらたったの三人しかいない。

 ──やっぱりな。

 隣りの片岡を見下ろした。うつむいて片手で目頭をこすっている。人群れからひきずり出し、教室前まで連れてきた。


 外のざわめきは柱前と違い、はるかにけたたましい声が飛び交っていた。受験生たち、およびその親たちがみな集まって喜びを分かち合っているかもしくは一緒に泣いているかだろう。

「泣くな」

「だって、内川くんが」

「あいつも馬鹿じゃない。自分のレベルがどのくらいかは理解しているはずだ」

 片岡と二人三脚で進んできた道だけども、現実的な問題を考えるとあいつが受かるわけがない。ひたすら熱心に面倒を見てきた片岡と違うのは、内川が結局水鳥中学で五十位以内に入ることすらまれである事実を知っていることだった。学年トップを保ってきた乙彦ですら合格ラインすれすれだった。そう考えると合格すること自体が奇跡なのだ。運を頼りに出来るだけの実力が、悲しいがない。

「けどさ、あんなに一生懸命がんばってきたんだよ!」

 片岡はなおも食い下がる。

「ほんとにだよ。関崎がうちに泊まりに来てくれた時だって、うちの学校の過去問題しっかり解いて完璧に出来るようになってて、すごい、絶対大丈夫ってそう思ってて」

「片岡、過去問イコール当日出る問題じゃない。それに問題作るのは先生がただ。同じ先生が担当するわけじゃないだろ」

「そりゃそうだけど、けどさ」

 いつのまにかすすりあげている片岡に、乙彦はポケットティッシュを丸ごと渡した。

「ほんとにお前、俺の後輩のために全力尽くしてくれて、感謝してもしきれない。ありがとう。けどな、出来ることとできないことがある以上、これから切り替えて、公立高校にダッシュしないとまずいだろ」

 そうなのだ。乙彦からしたら内川の本命高校は公立にある。

 現在の成績からしたらかなりの安全圏だが、なにせ私立高校を青大附高にしてしまったという滑り止めなし状態での受験、これはかなりのプレッシャーのはずだ。普段しくじらないへまをやらかして下手したら中学浪人か二次募集頼みなんてことは考えたくないはずだ。

 三時間目の始まりを告げる鐘が鳴った。乙彦はすすり上げている片岡の背中を押して教室に入った。入り口側に座っている立村が、顔を挙げて片岡のほうを様子見していた。

 ──そういえば昨日、片岡と内川の奴、一緒に飯食ったんだよな。

 結局乙彦は生徒会役員たちと打ち合わせが長引き、戦い終えた内川を迎えに行くことができなかった。最初からそのつもりだったが、今思えば絶妙なタイミングともいえるだろう。合否が決まった段階でぱくぱく焼肉にかぶりつけるわけがまずないだろう。

 ──あとで俺もあいつになんか、食い物おごってやるか。

 バイト料が入ったら、コロッケ一袋持っていってやろう。


 予餞会は明日に迫っている。生徒会役員たちはほとんどお飾りに近い状態で、現二年を中心とする予餞会実行委員たちが全力で飾りつけやら準備やらに駆けずり回っている。

「あっそうだ、清坂さん。さっき美化委員会の人たちが来てなかった?」

 更科がひょいと顔を出すや否や問いかけた。

「私が来た時はいなかったけどどうしたの?」

「明日の予餞会で、美化委員提供花束を全員に渡すつもりなんだけど、全然その話来てないかなあ。明日が本番だってのに、変だなあ」

 首をひねる更科に、難波が面倒くさそうにつぶやく。

「花なんてすぐに枯れるだろ、んなもんもらってどうする」

「実行委員会の先輩たちに言われてて、俺も早いうちに頼んだんだけど経費としてまだあげてないのかなあ」

 いろいろ裏で動きがあるようだが、生徒会役員がすべて把握しているわけでもない。

「なんだか今回の予餞会は俺たち生徒会役員にまとまった情報が来ないのはなんでなんだ」

 名倉に話しかけてみる。聞き流しているのか名倉は予餞会用の帳簿とにらめっこしている。

「今回は特別よ。本当だったら二年の先輩たちが生徒会で仕切るはずだったのにいつのまにか予餞会実行委員に回っちゃったんだから。今年は私たちもこのまま様子を見ていたほうがいいよ。むしろ、先生たちの例のあれのことだけど、なんとかあすまでばれないようにしないとね。一応そっちのタイムテーブルは貴史、どうなってたっけ」

「さっき職員室でもらってきたんだけどな」

 羽飛がプリントを開いて読み上げた。

「午前中は美里の挨拶とかなんとかやって、吹奏楽バックに校歌斉唱、寸劇、あとクイズ大会。結構時間が詰まってる。その後適当に食ってから午後はずっと例のローエングリンとくる」

「ローエングリン、な」

 いまだに先生たちの上演する「ローエングリン」なる劇……オペラなのかミュージカルなのかいまだに謎……については最小限の情報しか上がってこない。規律委員内一部の有志たち、および一部の実行委員のみが手伝いのためセミナーハウスに詰めていて今夜は泊り込みと聞いている。

「そうそう、結局立村くんも今夜セミナーハウスに泊り込みなんだよね」

「んなこと言ってたな。今朝会ったけど、徹夜を覚悟してるみたいだぞ。衣装もあれだが、合格発表終わってわたわたやってて、その後先生たちも夜を徹してのリハーサルらしいんだ。大変だぞこりゃ」

「衣装間に合えばいいんだけど。先生たちが集合するのって七時か八時くらいって話だからそれまでまだ時間あるよね。手伝いに行ってこようかな」

「そりゃまずいぞ、俺たちだって仕事ある」

 口を出すのも無粋だが注意した。一応は生徒会役員。徹夜とまではいかなくともそれなりに遅くまで残る必要がある。

「そうね。確かに」

 あっさり清坂は答え、思い出したかのように、

「ねえ関崎くん、今日立村くん霧島くんに連絡つけたとかなんとか言ってなかった?」

「いやほとんどあいつとは今日口利いていない」

 内川の件でずっと片岡とべったりするはめとなったからだ。無視ではない。

「そっか。伝言つたわってればいいんだけどな。立村くん昨日今日とめちゃくちゃ忙しいはずだから霧島くんのことかまってる暇ないかもしれないけど」

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