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7 極秘リハーサル(4)

 生徒もそうだが先生たちもみなどのように対応してよいかがわからないようだった。すぐに状況を把握して動き出したのはさすが元評議の難波と更科で、

「事情は規律委員会の様子を見ていてだいたい把握してます。これから生徒会誌を作成するにあたって、写真を撮らせていただいてよろしいですか」

 最初に難波が冷静に伝えた。いつものぶっきらぼうな口調とは違い、余所行きのいかにもインテリ風の態度で。更科も続いた。

「いきなりで申し訳ありません。昨日から規律委員の有志たちが泊り込みで準備していると聞いたので、陣中見舞いを差し入れようと思ってきたんですが、まさか先生たちがいらしているとは思わなくて、いや失礼しました!」

「更科、お前知ってただろ?」

 一年C組の担任……これまた真っ赤なネグリジェ姿の怪しい男性教師……がため息交じりにつぶやく。

「いえ、僕たちはあまり把握していません。もともと規律委員の連中が衣装担当というのは聞いていましたから手伝ってもいいかなくらいは考えていましたが」

「生徒会の面子が揃っているようなんだが、清坂と羽飛は?」

 生徒会顧問の鴨河先生も……ケープを羽織りいかにも上流階級の奥様風……尋ねてくる。乙彦も答えた。

「先に、規律委員の部屋に挨拶に行くと話していました。そろそろ来ると思います」


 動揺が互いに鎮まってくると会話も和やか。乙彦を呼び寄せ、麻生先生は……タンクトップに白いロングスカート……ささやいた。

「規律だと、立村も参加しているようなんだがあいつから聞いたのか」

「いえ、僕は一切聞いてません。今の今まで全くです」

「ということは、他の奴らには一切話していないということだな」

「はい。実は昨日、片岡の家に泊まってそこからまっすぐ来たのでクラスの連中とは一言も話をしていません」

「でかした!」

 麻生先生はガッツポーズで満足げに頷いた。肩に手を回し、

「なんというニアミスかってことなんだが、生徒会役員ということならしょうがない、事情を一通り話すとしよう。だがな、ここから先のことについては、絶対に予餞会当日まで内緒にするんだぞ」

「予餞会、ですか」

 予想はしていたがやはりとも言うべきか。麻生先生は頷いた。

「そうだ、ということで先生方、ばれてしまったのはしょうがないってことで、生徒会連中にはとりあえず話しておきましょうや。どうせ本リハーサルの時にはおおっぴらになるんですしねえ」

 なんとなくそうせざるをえない雰囲気が漂い始め、女装した先生たち一同はみな、その麗しき姿のままじゅうたんに胡坐をかいて座った。その中に入るのがどうも乙彦には抵抗があり、あえて後ろに引っ込んだ。名倉の隣り。その真正面にカメラが設置されている。カメラ小僧本領発揮で難波はずっと三脚にかじりついたままだった。

「実は、今年の予餞会から趣向を変えて、本当の意味での先生たちの生徒たちに対する餞別をと考えて、それで思いついたのがこれなんだ」

 麻生先生がスカートをひらりと持ち上げた。

「ここにいる生徒会メンバーは全員一年生だから知らなかっただろうが、毎年青大附高では卒業生を送る会の一環として『予餞会』を企画していたんだ。主に今までは生徒主催で動いていてそれはそれでまあ面白いものもあったのだが、近年少しだれ気味だったのも確かなんだ」

 一方的に語り続ける麻生先生。額に汗が浮かんでいる。

「そんなわけで今年の予餞会は、実行委員たちの汗水たらした努力もさることながら要素の半分以上は教師たちの手で構成したいという意見が増えていた。もちろん生徒たちからは反対意見も湧き出た。やはり下級生が上級生を送り出したいという気持ちはわかる。だが、あまりにも単調なコントや寸劇、合唱だけでは何か違う、自己満足でしかないのではと感じる意見が圧倒的だった」

「先生、それは先生たちの中の意見が、ですか?」

 泉州が鋭く一矢を放った。

「そうだよ、だから今年は生徒たちの発表部分がかなり減っているだろ? 実行委員会のみなからも聞いているだろ?」

「確かに聞いてます」

 カメラのファインダーを覗き込んだまま、難波が答えまたぱちりと撮った。

「せっかく時間三分の二を教師陣が奪い取った以上中途半端なものはできない。またそれなりに素晴らしいものをこしらえたい。可愛い生徒たちに接してきた教師だからこそ、また大人だからこそ出来るものをしっかり表現したい。ということでいろいろ影で議論した結果」

 ──まさか、それがこの。

 ドレス姿のまま太ももや足の裏をかいたりしている怪しい集団が。

「青大附高教師たちの一夜だけの劇団をこしらえて思い切りロマンチックなラブストーリーを二幕で演じようと、そういうわけだ」

「その題名はなんですか?」

 阿木が恐る恐る尋ねた。とたん、何を考えたか鴨河先生がすっくと立ち上がり、

「『我が名は白鳥の騎士、ローエングリン!』」

 胸元に手を当て高らかに声を挙げた。


 ──ローエングリン? なんだそれ。

 他の附属上がり連中がうんうん頷いているのだけが謎だ。何か有名な物語なのだろうか。名倉に小声で尋ねても首を振るだけ。あとで泉州あたりに聞いてみよう。更科が感心しきりというようにしみじみと、

「かっこいいですね! そうですか、オペラやるんですね!」

「いや、まさかワーグナーのオペラを全部やるなんてことは無理だし、そもそも面白くないだろ。だから野々村先生にもご協力いただいてオリジナル脚本をこしらえてもらい、そこで思い切り演じてやろうと、そういうわけなんだ。証明や大道具なども全部先生たちが引き受けるので生徒のみなさんはなんもしなくていい。まあ多少の力仕事は実行委員の何名か頼むかもしれないが、今回のイベントは教師たちが力を合わせて作り出す舞台というのが最大のテーマだからね」

 麻生先生が一段落したところで先生たち一同から拍手が沸いた。しかし不思議なのはここに集まっている先生たちがすべて男性ということだ。女性教師だってそれなりにいるというのになぜだろう。

「今日は生徒がいない間にとことん練習しようということで早朝から集まり、規律の連中が縫ってくれた衣装を合わせようということだったんだが、まさかなあ、生徒会の奴らに発見されるとはいや、一本取られた。なあ難波、この写真まだ現像するなよ。なんとしても驚かせたいからな」

「わかっています。そのくらい俺は青大附中津評議委員会で学んでいます」

 どこまでも冷静に難波も答えた。


 それから先生たちの練習が始まり、カメラ係の難波と助手の更科を除いて残りの生徒会連中は部屋を出た。結局来なかった清坂と羽飛のいそうな場所をとりあえず探し、事のなりゆきについて報告しなくてはならない。



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