7 極秘リハーサル(3)
名倉は一抱えほどのダンボールをスノーボードで運んできていた。やっぱり阿木がべったり張り付いてあれやこれや話しかけている。その後ろでのんびり歩いてきた泉州は乙彦を見つけるなり、指差しして、
「あーっ!」
まずは一声。
「連絡助かった。早めに来ることができた」
「やっぱり関崎は来るよねえ。さ、それで会長、これからどうするの」
D組女子のテンションが高い中、清坂も楽しげに答える。
「全員揃ったことだしね。そろそろいい頃合かも」
「確かに。でも私たちが来ること知らないんでしょう? びびるんじゃない?」
意味ありげに顔をゆるめる泉州に乙彦も近づいて尋ねた。ついでに名倉の運んできた小ぶりのダンボールを抱えた。
「規律の奴らを驚かせたいのか?」
「それも一理。でもねえ、さらにいろいろいるんだよね、そうだよね阿木ちゃん」
「そうよ。名倉くん、一緒に早くいこ!」
追っ払うでもなく、ただ面倒くさそうに名倉は空になったスノーボードを小脇に抱えた。更科が面白そうにスノーボードをいじくり、
「これさ、雪山で滑ったら面白いだろうね」
しみじみつぶやいている。確かに面白い。思わず力強く頷いてしまった。
「じゃあみんな、とりあえずこれからの予定なんだけどね」
手招きした清坂は羽飛と顔を見合わせつつ全員を円にした。
「私たち、これから規律委員会の有志のみなさんにご苦労様ってことで差し入れに来たことになってるの! おかしくないよね。私たち生徒会だし、予餞会でがんばってるみんな応援するのは自然だよね。それで手分けしてお部屋訪問しましょ」
「清坂、このこと知ってるのか? 規律の奴らは」
難波がにこりともせずに問う。清坂は首を振る。
「知らないよ。たまたま阿木さんたちが規律の人たち見かけただけってことだし」
「立村もいるだろ」
「いるって。だからよ、いきなり行って驚かせたい、疲れてるでしょ、珈琲飲みなよって注いであげる、お菓子持ってきたから食べようよ、それくらいよ」
「だがなんだこの巨大なダンボールは」
いい加減中に入っておきたいのだが、タイミング悪く抱えっぱなしのままだ。
「ペットボトルに入っているジュース。たぶん人数分間に合うと思うな。とりあえずなんだけど私たちがさっさと入ってって規律のみなさんに挨拶してくるから、残りのみんなは全員即座に集会室に向かってね。大広間よ。更科くんそのあたりよろしくね」
「大丈夫、じゃあ羽飛と清坂さんにあとは任せてみんなさっさと行こうよ!」
名倉と乙彦を除いた奴らが「おー!」と雄たけびを上げさっさと中に入り始めた。足を動かそうとしない名倉に阿木が、
「ねえ、名倉くんいこ!」
誘うが無視している。幸い泉州が阿木を回収してくれた。
外部ふたり、自然と組む。
「いったいなんだあれ」
「たぶん行けばわかる」
口の重たい名倉も、乙彦の歩調にはあわせている。玄関脇にスノーボードを置いた。
「俺もたまたま泉州から電話をもらって早めに来たんだがお前知ってたのか、今日何するのか」
「一応聞かされた」
面白くもなさそうに答える。
「規律委員会の連中が泊り込みしているだけでそんなに差し入れ必要なもんなのか?」
「とは思わないが、みな必要だとは言っている」
「なんでだろう。お前、知ってるか」
「聞かされたが、あまり考えたくない」
どういう展開が待っているのかわからないが、とりあえず一緒に行くことにした。目の前を清坂と羽飛が紙袋をぶら下げて、
「おはよございまーす! 生徒会一同陣中見舞いでーす!」
誰もいないロビーに声をかけた。誰一人出てくる気配がない。
「じゃあ男子たちが寝てそうな部屋、行ってみるね。あ、関崎くんと名倉くんも早く集会室行ったほういいよ。面白いよ!」
「清坂、いったい何があるんだ?」
待ち受けているものを乙彦以外のみなが知っているようなのだが誰も教えてくれない。隣にいる名倉ですら。これは差別だと思うが、清坂たちがたったか先に行ってしまうので聞きそびれてしまう。
更科が手招きしながら慣れたように廊下を突き進んでいく。
「ほら、早く早く」
「そんなに急ぐもんでもないだろう」
乙彦の返事にきっと難波がにらみ返す。言葉を投げつけるでもなく、カメラケースをがさごそやりだした。
「ホームズ、まだ三脚出したらだめだよ。やはり許可もらわないとさ」
「だが清坂は南雲と話、つけてるんだろ」
「らしいけどさ。他の先生には話してないし」
集会室に近づくにつれ、男性の発声練習が響き渡るのが聞こえてくる。青大附高には確か演劇部はなかったはずだが。もしかして、
「おい、予餞会の演劇練習してるとかじゃないのか。どこかのクラスか委員会か」
「いい線行ってるね、勘鋭いよ関崎」
泉州がにやにやしたまま見下ろす。
「まあ、見てなさいよ。私たちも実はさ、初めてお目にかかるものなんだけどさ。生徒会役員の特権で覗き見させてもらっちゃうよ」
「本当にいったいなんなんだ?」
集会室の扉を更科がノックした。同時に難波が三脚を手早く取り出し小脇に抱えた。
「先生、失礼しまーす!」
扉を開いた瞬間の、それぞれの表情を乙彦は一生忘れないと思う。
「君たち、生徒会?」
おろおろしながらも、必死に声を抑えようとする男性教師たち。その中には麻生先生も混じっていた。乙彦を見つけるなり、
「いや、関崎、今日はなんか用があったのか?」
「予餞会の準備です」
機械的に答えた後、目の前でずらりと並んでいる先生たちの服装を改めて見つめ返した。何度見ても慣れることがない光景だった。隣りの名倉が口をぽかんと開けて固まっている間にも、冷静に難波は三脚にカメラをセットし続けていた。
そこにいる男性教師は全員裾の長いひらひらしたスカートをはいたまま、すっくと仁王立ちしていた。




