7 極秘リハーサル(2)
しばらく待っていたが三人以外は誰も生徒会室に来る気配がなかった。
「どうしたんだろ。難波くんたちカメラ持ってくるってたのにね」
「まったくだ。あいつめちゃくちゃ張り切ってたぞ」
「だよねだよね」
清坂と羽飛は顔を見合わせつつも書類を仕上げ、乙彦に、
「これ、誤字脱字ないか見てもらえないかなあ」
ひょいと渡した。ついでに羽飛も便乗して、
「俺の分も、よいしょ」
「お前ら少し自分で」
「見てるよ、けどね、やっぱり見落としあるかもしれないしね」
一応言われた通りに目を通すが特段問題があるとは思えない。そのまま返すと、
「よかった、これで大丈夫だよね。じゃあ午前の仕事はここまでにして、あとみんな揃ったところで片付けようよ。予餞会実行委員会のみんなが来たらまた面倒なやりとりあるだろうしそっちに集中しようね」
さっぱり答えた。生徒会役員として清坂と接する限り、極端に暴走することもないし教師間とのやり取りもうまく行っている。問題があるとすれば同期の女子たちとの関係が少しぎこちない程度だがそれは時間が片付けてくれそうな感じもする。少なくともきらってはいないようだから。無難に生徒会長やっている、といった雰囲気で取り立てて不満もない。もっともそれは羽飛が裏でいろいろと押さえつけてくれているからではないかというのが乙彦の読みではある。
「だがだいぶ時間あるが」
「ないだろ、そろそろだろ、な美里」
羽飛が意味ありげににやりと笑う。乙彦を手招きして、
「どうやら難波ら全員、すでにスタンばってるみたいだから俺たちもそろそろ行こう」
「連絡とってないのか」
わけがわからず問いかけると今度は清坂が首を振った。
「私たちも実は知らないってことになってるからね。偶然を装って陣中見舞いいたしましょ」
机の下から大きな紙袋を取り出した。羽飛も同様にレギュラー珈琲パックの箱を用意している。いつのまに用意していたんだろう。
「いい、関崎くん」
清坂は大きな瞳で乙彦に念を押した。
「これから私たち、『規律委員会』のみんなの陣中見舞いに行くんだからね! いい? これから誰かにすれ違ってもそう言うのよ」
「規律?」
一応、泉州から聞かされてはいた。ということはそこまでは正しいのか。
「そうなの、今ね、規律委員の『有志』のみんなが自主合宿してるの。だからお茶とお菓子の差し入れしましょってことになってるの。私たち生徒会はみんな規律の人知ってるからお疲れさまってことで差し入れに行くだけ、ほんとにそれだけ。難波くんたちもそのつもりで行ってるはずよ」
──ドレスを大量にって話はどうなってるんだ?
目の前のふたりがコートやらジャンバーやらはおり出したので乙彦も続いた。ところで名倉は今日顔を出すつもりあるのかが気にかかる。
二月ともなると大学構内は人気も少なくなり、すれ違う人もさほど見当たらない。それでもやはり中・高校の生徒たちはそれなりにうろうろしていて学食も賑わっている。
「あれ、今日の打ち合わせ昼からだろ?」
「そうなの、でもちょっと用事あるんだ。規律のみんなが合宿してるからね」
乙彦に言い含めたのと同じ理由で清坂は通りすがりの友だち連中に答えている。
「規律ってことは立村もいるのか」
「うん、いるよ。きっと苦労してるね、ね、貴史?」
「同情禁じえないっつうのはこのことだな。美里、奴の手助けについてはどうする」
「大丈夫。それなりに準備してあるから。立村くん指先不器用だからちょっと心配」
──確かに手作業は苦手そうだ。
衣装作りに借り出されているとするならば、どこかのクラスで演劇をやるにあたってのイベント用ドレスだろうか。そういえば結城先輩方がなぜかウェディングドレスをまとった格好で撮影会を行い、その写真が近日「青大附高ファッションブック」で公開されるらしいとの情報をもらっているのだがそれはどうなっているんだろう。
セミナーハウス前に到着した。雪はすっかり止んでいるが足跡がやたらと多い。周りの雪がほとんど手付かずにふんわり粉砂糖のように整えられているのに、この差はなんだ。
清坂の言った通り、難波と更科がふたり大荷物でそれこそスタンバイしていた。
「お前ら遅いぞ」
「遅くないってば。難波くんなんで生徒会室来なかったのよ」
「こんなでかい荷物持って二階まで上がれるか」
みると三脚、巨大なカメラバック、その他リュックとどこか泊り込みするような格好だ。乙彦も昨夜片岡の家に泊まりこんだがさすがにここまで重装備ではない。
「まあそうだなあ、ごくろうさん。んで更科、どんぐらい待った?」
「三十分くらいかな。で、ホームズすっかり臍曲げちゃったよ」
「悪かった、ほら、あとで珈琲あったかいの出すからそれで許してくれよな」
羽飛もその辺心得ていてすぐに難波の機嫌とりに徹する。難波は相変わらず乙彦の顔を一瞥だにしようとしない。露骨に嫌悪を示されるのには慣れているがそれでもあんまりじゃないだろうか。まだ、名倉を初めとするD組連中が到着していないので落ち着かない。
「関崎くん、ちょっと来て」
清坂が男子三人組から乙彦を引き離すようにして腕を引っ張った。
「どうした」
「ここから先のことなんだけどね」
小声でささやきかけた。手袋を脱いでぎゅっと握り締めつつ、
「たぶん関崎くん、驚くと思うけど、予餞会が終わるまで今日ここで見たことは内緒にしてもらえる?」
「ずいぶん隠し事しているが何かまずいことでもあるのか」
「ないよ。それどころか、すっごいことなの」
はにかむように微笑む清坂。心なしか楽しそうだ。
「でも、やっぱり、内緒にしたいことでもあるの。だから、そこのところだけよろしくね」
──セミナーハウス、規律委員会、ドレス、なんなんだそりゃ。
考え込む間にようやく名倉たちD組三人組が到着した。




