5 三学期始業式(1)
静内と会うのは一ヶ月ぶりだった。
「関崎、お久しぶり!」
「一応あけましておめでとうだな」
玄関でさっそく声をかけられた。相変わらず見た目はまじめなお嬢さん風だがしゃべり口調は変わっていない。すぐ乙彦はすのこで新しい上履きにはきかえて、
「冬休みどうしてた」
尋ねた。プライバシーを詮索されるのは好きでない静内であっても一応は社交辞令で言っておく。
「家族旅行って奴よ。あーあめんどかった」
「どこ行ったんだ?」
「ちょっとね、いろいろとあるのよ。妹のとこ」
「お前きょうだいいたのか?」
「言ってなかったっけ。いるよ一応。今は別のうちにいるけど」
──別の家?
ここはつっこんで聞き出したいところだが、静内の性格上それは無理だろう。あっさりあきらめてD組のすのこを眺めるとすぐに現れた。名倉が鼻を啜りながら乙彦たちをすぐに見つけて急いで靴を取り替えた。靴箱を覗き込みあわてている。
「名倉、上履き持ってきてるのか」
「当たり前だ。馬鹿にするな」
青大附高では長期休暇時にかならず上履きを持ち帰ることになっている。冬期講習もあるのだから置きっぱなしでもいいじゃないかと思うのだがそれも許されず、結局三学期始業式に改めて持ってくるはめとなる。
「お前とはいやというほどこの一ヶ月顔をあわせたというわけだ」
「いや、か、ひどい話だ」
笑い合う。名倉とは生徒会冬合宿のお神酒徳利状態だったわけで、さほど懐かしい気持ちはない。しかし静内が入ると一気に雰囲気が変わる。
「そうか、あんたたち生徒会の合宿があったんだよね」
「まあいろいろあった」
「関崎の現在過去未来を確認しといた」
「なんだその現在過去未来ってのは」
「へえ、あとで聞かせてよ。面白そう」
三人肩を並べてロビーに向かう。もう乙彦の早朝バイトも再開されていて、仕事はじめの朝にはお年玉までもらってしまった。今年も張り切って仕事に精を出そうと決意したところだった。しっかり棚の乾拭き掃除もしたし身体は完全に目覚めている。
「ところで関崎、宿題一通りやってきた?」
「やらないとまずいだろう」
名倉も頷く。
「合宿で無理やり片付けさせられたともいう」
事実ではあるがここで例の合宿についてしゃべりたくはない。正直、乙彦の中ではまだ後遺症が残っている。さらに静内の前でこの体たらくを白状するのは非常にしんどい。名倉にはその辺を汲み取ってほしいのだがたぶん無駄だろう。どんどんしゃべるに違いない。
「私ね、一応自分なりに前回の続編こしらえてみたんだ」
「前回、って自由研究のか」
「そう。この前は地図と石だけだったけど今回は、論文ぽくまとめてみたんだ。本当はあんたたちと一緒にまたフィールドワークできるかなとか思ったんだけどそうもいかなかったしね。自分なりの分析よ」
「あとで読ませろよ」
静内は笑顔満面で頷き、ガッツポーズを見せた。
「もちろん!」
生徒たちも次から次へと教室に吸い込まれていく。あまり長話もできそうにないのでとりあえずは放課後の約束だけしてそれぞれの教室へ向かうことにした。
「今日は生徒会の仕事ないの」
「あっても急ぎの仕事はない」
きっぱり答える乙彦に、名倉も付け加える。
「少なくとも関崎には急ぎの仕事はないだろう」
「なに、その関崎にって限定条件」
「あとで話す」
「いや話すなよ」
名倉に口止めしても無駄だろう。どうせばれるのは時間の問題だし別に隠すことでもない。ただ静内にどう説明すべきかが自分でもうまく把握できていない。
「なんでそうあせる」
名倉が不思議そうに問いかける。
「相手が女子高だからか」
「いや、そういうわけじゃない!」
静内も興味深そうに乙彦を覗き込む。いたずらっぽい眼差しだ。
「へえ、女子高、どうしたんだろうなあ、ちょっと気になるな」
「静内はちょっと気になるどころじゃないだろ」
「まあね」
これで放課後の議題は決定だ。たまったもんじゃない。
「変なことじゃないからな、誤解するなよ」
また妙なかんぐりをされないうちに乙彦は、一番生徒玄関から近い一年A組の教室に飛び込んだ。
「おはよう、関崎」
待っていたのはいつのの面子で、藤沖、片岡、そして立村だった。それぞれに挨拶をした後、すぐ片岡の側に向かう。小声で尋ねる。
「冬休みのあいつのことなんだが」
「うん、みっちりがんばったよ!」
明るい声で片岡が答える。できれば藤沖に聞こえないようにしてほしいのでそれ以上は問わないことにした。内川の面倒はしっかり見ているということなのだろう。
「あとで詳しい事情教えてくれ」
「おいなんだその事情とは」
まずい、やはり聞きつけてきた藤沖が興味津々顔で近づいてくる。
「宿題のことに決まってるだろ」
片岡もすぐにごまかした。さすがである。
──立村は、どこまで生徒会事情について耳にしているんだろうな。
改めて捕まえて聞いてみたかった。冬休みとうとう立村とさしで話す機会はなかった。おそらく難波たちとの間に入るのが立村ならば、乙彦としてももう少し詳しい事情を確認したいし何よりも、あいつがどういう正月を過ごしたのか非常に興味がある。
「立村、すっかり遅くなったがあけましておめでとう」
「こちらこそ年賀状ありがとう」
簡単ながら新年のやり取りのみ交わした。立村が元旦によこした年賀状は噂にたがわぬ達筆ぶりで、家族の誰もが、
「おとひっちゃん誰だよこの偉そうな年賀状、すっげえ偉い人からじゃねえの?」
誰一人同級生からのものと信じなかったこともあとで伝えておきたい。




