4 生徒会冬合宿(21)
納得できる答えをもらえぬまま一泊二日の生徒会冬合宿は幕を閉じた。本当だったら乙彦も清坂会長を首根っこ捕まえて理由を問いたい気持ちで一杯だったのだが、脇でしっかり騎士の役割を果たしている羽飛の前ではこれ以上何も言えない。しかも、鴨河先生がやたらと清坂に話しかけているし他の女子連中は省かれてしまう始末だしで、結局まとまりも何も得られないまま終わってしまったような気がする。
「取り合えず、三学期な」
「学校でまた会おう」
名倉とのみ挨拶を交わし、乙彦はまっすぐ夕暮れの中我が家へと戻った。
寄り道なんぞしない。他の連中……いわゆる「元青大附中評議委員会」関係者は学食で夕飯がてらのミーティングを行うらしいが、そんなことかまっている暇などない。
──雅弘経由で、今の状況を連絡しなければならない。一刻も早く。
幸い乙彦が一歩先んじている部分があるのだから、そこで勝負をかけねばならない。
──おとひっちゃん、合宿だったんだって?
雅弘の声がやんわり聞こえてくる。受話器の向こうから、聞きなれた幼い声。
「そうだ。なんとか終わった」
──面白かった?
「とんでもないことになった」
声を低めて乙彦は伝えた。両親は電話から離れた場所にいるので聞かれる心配はないおだがやはり用心する。
──なんかあったの?
「別の奴があの学校に申し入れることになってしまったんだ」
──あの学校って、もしかして、さっきたんのこと?
勘のいい雅弘はすぐに反応してきた。
「そうだ。いい機会だと思って提案をいろいろしてみて、とりあえずは話が進みそうなところにきたんだ」
──そうなんだ! さっすがおとひっちゃん!
勘違いしてくれるのは雅弘の純朴さゆえか、ここから先の事実を伝えるのが辛い。乙彦は三回深呼吸した後、
「実は、そのプロジェクトに外された」
──プロジェクト?
雅弘の怪訝そうな声が耳に痛い。
要は本来提案者である乙彦が伝えるべき可南女子高校への交流会提案を、
「いろいろあって結局俺よりも別の奴が適任だという判断をされてしまったってわけなんだ、すまない」
──え、おとひっちゃん、なんで謝るの?
電話の向こうの雅弘が本気で不思議がっている。
「実は、冬期合宿の段階で会長たちに話は通していた。学校内でも他校との交流を深めたいという意思はあって、それなりにやっていこうという話で合宿の際、俺が提案したんだ。一応うちの生徒会には渉外担当がいるんで、そいつが最初に顧問と挨拶に行くのが常識だろうという流れになってしまったが、それでも俺は止めようとしたんだ!」
雅弘は聞き入っている様子で何も言わない。とことん語ることにする。
「当たり前だろ。こういう話は最初、なんでもないところから入らないと話がこじれる。中学の時だって俺がそれなりに話をまとめておいたから、青大附中で交流会がうまく成立したんだ。いきなり大掛かりな話を持っていってもかえって迷惑がられるだけなんだ。いわゆる草の根交流のようなところから始めないとならない。それは俺が経験者だからなおのことなんだ」
──けど、どうしてそうなったのかなあ。
雅弘がおずおず問いかけてくる。
「青大附高は俺の常識をはるかに超えていたんだ。何が妙といってこういう重要な判断を何で決めたと思う?」
──くじ引き?
「で、決めた奴もいる。生徒会役員立候補をそれで決めて奴らもいる。だが今回はなんと、トランプのスピード勝負で決めろって言い出したんだぞ! 五回勝負で。信じられるか、話し合いじゃあないんだぞ! スピードだぞ!」
──すごい世界だね。
雅弘の唖然とした顔が思い浮かぶようだ。もう止まらない押さえられないまくし立てるのみ。
「俺なりにベストは尽くしたが、奴も半端じゃない。事情はもちろん理解できないわけじゃない。渉外のあいつにはどうしても可南女子高に食い込まなければならない切実な事情があるってことは俺もいろんな奴から聞いて知ったし共感できないとは言えない。だがそれとこれとは話が別だ。本来やるべきことは、俺がしっかりと可南女子の生徒会の人たちと信頼関係を作ったうえで初めて何かかしらのことが出来るはずだ。それに生徒会長があの」
──さっきたんだよね?
「そういうことになると、中途半端な目的で話を進めようとする奴に仕事を任せられると思うか? 俺は思えない。俺は感情でものを言っているんじゃないんだ」
──あのさ、おとひっちゃん。
受話器の向こうで雅弘がそっと問いかける。
──その渉外やってる奴、なんで可南女子高に拘るのかな。彼女つくりたいとかそういう目的なのかなあ。
「そういう下劣な目的じゃないらしい。あくまでも噂だが、青大附中の同期生が現在可南女子高に行ってていろいろあったらしいんだ。友人として心配してるのかもしれないが、生徒会役員という立場を利用してもぐりこむべきではない。正々堂々とその相手と話し合うべきであって生徒会役員でもない人目的で進むべきじゃない!」
雅弘が黙った。一拍置いて乙彦も少しずつ頭が冷えてきている。感情の赴くまましゃべり倒したが、なんだか難波を責める権利が自分になさそうな気もする。
──水野さんは生徒会長だから、俺はあくまでも「生徒会の中」にいる水野さんを手助けしたいだけであって、難波のように全く関係ない女子をどうのこうのってわけじゃない。俺はまだ、生徒会役員の枠の中で行動しているはず、だよな?
──おとひっちゃん、わかった。さっきたんに伝えとくよ。さっきたんもおとひっちゃんが一生懸命助けようとしてくれてるってことはわかってるから、きっとよろこんでくれると思うんだ。大丈夫だよ。その渉外の奴も、そういう目的があるんだったらさっきたんをむやみやたらに傷つけるようなことはしないだろうし俺も心配してないよ。
「いや、何が起こるかわからないんだ」
難波のあの上から見下ろす思想が爆発しないか、それだけが心配でならない。言おうとしたが、
──一応、そいつの名前だけ教えてもらえるかな。それと、青大附中から可南に行った人って前さっきたんから話、聞いたことあるなあ。おとひっちゃん経由とは言わないでさりげなく聞いてみるよ。もしその人が生徒会関係者だったらまた話も違ってくるしさ。大丈夫、おとひっちゃんががんばってること俺、わかってるし、さっきたんだって。
「申し訳ない」
──じゃあ、これからさっきたんに連絡入れとくね。じゃ、また電話するね!
受話器を置いた。雅弘は乙彦のことを、幼稚園の頃から純粋に味方してくれるたったひとりの友人だ。いっつも突っ走りすぎてずっこけてしまい顰蹙買う乙彦をひたむきに支えてくれたし、全身全霊で信じてくれている。見た目はがきっぽくても、しっかりした芯のあるかけがえのない親友だ。
──雅弘、頼んだ。
こいつしか水野さんを大切に思える奴はいない。絶対に。




