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4 生徒会冬合宿(19)

 ──全く、俺は何をやってるんだ、肝心要のところでしくじりやがって……!

 ほとんど眠れぬ夜を過ごした乙彦に、翌朝から午前中までの記憶はほとんどなかった。


 スピード対決のみっともない敗北でひたすら布団にもぐっている中、テンション高くしゃべり続ける難波と太鼓持ちよろしく持ち上げる更科、適当なところで突っ込みを入れる羽飛。それぞれの会話が自然と耳に入ってくる。結局ラジオのチャンネルをいじり続け、最後は中波の深夜放送に聞き入っているうちにほんの少しだけうたたねした。

 ──あのジョーカーさえ、あれさえなければ。

 

「とりあえず俺の考えとしては、三学期が始まった段階で鴨河先生と相談し一度可南女子高を訪問するってのはどうか、というとこなんだが」

 こいつも結局は一晩しゃべり続けていたようだし乙彦とほぼ変わらない睡眠時間のはずだ。なのにこのパワーたるやなんだろうか。他の生徒会役員たちがあきれ果てている中、延々とまくしたてている。相手をしているのは清坂と羽飛、および鴨河先生のみ。残りはみなしらっとした表情のままだ。

「さすがに相手は女子高だしなあ。邪まな企てなんて思われちまったらなあ」

「そうだ。本来ならこういう企画は学校祭前に仕込んでおいて、それぞれ生徒会の交流として挨拶できれば一番よかった。俺たちが評議だった時もそうだった」

「あ、そうだったんか?」

 羽飛は難波ではなく清坂に問いかけた。大きく頷く清坂。今日はおかっぱ髪を結ばずさらりと流している。

「うん、そうよ。けどほとんど立村くんが打ち合わせてただけだけどね。そうだったよね、関崎くん?」

 いきなり話が乙彦に振られた。隣りの名倉につつかれて目覚めた。まずい、居眠りしていたかもしれない。話は聞いていたつもりなのだが。

「かも、しれない、そうだった」

 あいまいに答える。厳密に言うと水鳥中学生徒会一同が当時生徒会顧問だった萩野先生に連れられて青大附高の生徒会室に向かい、そこでなぜか評議委員長たちを紹介される流れだった。その後青大附中生徒会との交流は次の年まで待たざるを得なかったが、評議委員会とのつながりは立村を通じて少しずつ広がった。単純に立村と気が合っただけかもしれないが。

「確か、関崎くん、立村くんと連絡先交換してやりとりしてたんだよね?」

 清坂が笑顔で畳み掛ける。記憶をぽんぽん叩くように。

「そうだった。立村とは単純に友だちだったんだが、いつのまにか交流会の話につながってたな」

 思い出しつぶやくと、羽飛も乗ってくる。

「そうだったよなあ。それで冬休みあたりから打ち合わせて、ってことか。顧問はその間ほとんどはさんでねえよなあ」

「ない。あくまでうちの生徒会と、評議委員会とのやりとりで終わっていたはずだった」

「じゃあ、友だち同士のつながりで少しずつって感じだったんだね。立村くんあまり詳しいこと話してなかったけど、そういう風にして土台作ってったの」

 羽飛と清坂が思い出話に花を咲かせているのを邪魔するかのように難波が机を強く叩いた。

「悪いが俺もまだしゃべりたいことがある」

「はいはいわかりました、続けてちょうだい」

 難波は乙彦へ一瞥もせずに、一晩かけて練り上げたらしい案を一くさり語り出した。眠れぬ夜にひとりしゃべり続けていた内容とほぼ一緒で、乙彦はまた眠くなった。


「清坂も言ってたことだが、この二年くらいの間に青大附高の雰囲気がどんどんこじんまりとまとまってきすぎているのは俺も感じている。中学時代のように普通考えないであろうと思われることを試そうとしないというか、きわめてオーソドックスなことをやる奴らばかりを高く評価し、変わったことを試そうとする奴を低い評価で持って貶める。何がってわけじゃあないが、いろいろな面でよく見られるようになったな」

「なんとなくわかる、そうだね」

「それでも少しずつ、去年の学校祭をはじめとして打破する動きは出てきているがまだまだだ。結局先輩方は学校内の鬱屈した状況に愛想を尽かし、外へ向かって別行動を始めている。留学なり、地元のボランティア活動なり、社会活動なり、はたまた公認のバイトなりといろいろだ」

 みな頷く。間違ってはいない。

「だが俺が考えるに、学校の中だからこそ発信できる方法があるんじゃないかとな」

 難波は片手を腰に当て、めがねを指先で持ち上げた。

「誤解を恐れずに言えば俺たち青大附高生はある意味非常に恵まれた場所で過ごしている。多少アホもいることはいるがそれなりに勉強もしている、こうやって男女差別のない環境で忌憚ない本音をぶつけ合うこともできる。学校祭ではだいぶグレードダウンしたとはいえやりたい放題のことをやらせてもらっている方に入る」

 難波はここでちらりと乙彦を見やった。すぐにそらした。

「だが、実際他の学校、まあ公立中心の状況を知る限りそういった恵まれた環境で高校生活を過ごしている奴はそういない。学校のカリキュラムも関係しているかもしれないが俺の知り合いから聞くと実につまらん授業の嵐で皆寝ているとも聞く」

「うちの学校だって寝てる奴いるじゃん」

 つぶやくのは泉州だがみな知らん振りを決め込む。

「どういう経緯にしろ俺たちが青大附高に集い、こうやって最高執行機関たる生徒会にもぐりこんだ以上、この学校で得た知識と経験をもっと学校内に、いやそれを知らない学外の連中にも伝えるべきじゃないかと俺は考える。学校内については生徒会じゃなくても委員会レベルでなんとかなるところもあるだろう。生徒会はもっと学外に自分たちの持てる学校文化を伝え、可南女子高校のような生徒が自信を失っているような場所へも打ってでて、いわゆる誇りを訴えるべきじゃないかと思う。最初は一校だけかもしれないが、最終的には青潟市内のすべての学校に伝えてしかるべきだと思う。俺たちはそれだけの誇りを持って学校生活を過ごしているはずだ!」


 ──こいつ、何考えてるんだ?

 一瞬乙彦の頭に何か白いものが走った。

 ──何様のつもりなんだ? 自分の学校の誇り? 学校文化? 最高執行機関たる生徒会?

 難波の昂揚した口調が耳にじわじわしみこんで気持ち悪い。何かが乙彦の中を侵食していくようだ。

 ──この学校で得た知識と経験を、「生徒が自信を失っているような学校」に打ち出す? 誇りを訴える? 要は自慢するってわけか!

 眠気が一瞬にして覚めた。今乙彦の腹の底にじりじりと居座っているのは、明らかに火種だ。じんわり熱く、燃え出しそうなほど赤く。じっと目に力を込めて難波を射た。

 ──こんな勘違いした優越心丸出し野郎に、水野さんをぶつけてはならない!

 ──雅弘のためにも。


「異議あり!」

 思い切りテーブルをたたきつけた。隣の名倉も、その向こうにいる泉州と阿木も、いい気分で演説しまくっていた難波とにやついていた更科も、目をまんまるくしてこちらを見ている羽飛もみな時間が止まったように凍り付いていた。

 その中でひとりだけ、清坂がやわらかな声で乙彦を促した。

「関崎くん、いいよ。話して」

 

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