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4 生徒会冬合宿(14)

 教師の存在はありがたい。この時だけはつくづく思った。

 中途半端にせよ和やかに場はまとまり、みな適当に「気の合う奴ら」とだけつるんだ後、

「それじゃ、これから先はそれぞれ男女別でいろいろしゃべろうね」

 清坂会長のお言葉により夜九時前にお開きとなった。

 ──しゃべれるのか、おい。

 こんな小さなグループでさらに細分化するというのもどうも居心地が悪い。修学旅行や宿泊研修であればそれでも、まだ派閥の人数もそれなりにいるだろうが。

 ──これから難波とどう対処すればいいんだ。

 相変わらず乙彦を一方的にねめつけている難波を、乙彦は名倉とともにため息で見返した。


「名倉くん、よかったら女子部屋来ない?」

 廊下に出て、先生の目が届かないところですぐ阿木が近づいてきた。セットで泉州もくっついてきているが、さほど興味もなさそうだ。

「何か用でもあるのか。あるなら今ここで聞く」

 ぶっきらぼうに名倉がつき返す。ずいぶんときつい態度だが阿木は全くめげずに、

「そうだよね、いろいろ誤解されるし会長もいるからまずいよね」

 泉州の顔を交互に見つつ、

「さっき話したことなんだけど、ちょっと続きがあるから話したいなって思ったんだけどな」

 思わせぶりな口調で誘う。

「これから俺たちは風呂なんだが」

 見かねて乙彦も口を挟むが、阿木は動じない。

「もちろんそれはわかってる。私たちもそうだし。ただね、今の展開だといろいろ誤解招いてるんじゃないかなって思っただけなんだ」

 このあたりで泉州が得心顔で頷いた。相変わらず香水がきつい。風呂で落としてこいと言いたい。

「いろいろ面倒なことあるもんねえ。ま、阿木ちゃんも生徒会のこといろいろ心配してるだけなんだし、別に獲って食ったりしないって。ああ、せっかくだし関崎も一緒に来ればいいじゃんねえ」

 阿木がはたと乙彦の顔を見上げた。この瞬間まで絶対こいつは乙彦の存在を忘れて板に違いない。あっと口を押さえている。泉州はかまわず続けた。

「さっきの学校交流会のことだよね? なんだかめんどくさそうなことになってるけど、あれは会長たちにも考えがあるんだって阿木ちゃん言ってたしね」

「そうなの。でも、さすがにあの場では言えないし」

 口ごもる阿木。さっきの、という表現からすると自由時間中に名倉を捕まえて話をしていたのはきっとそのあたりの事情ではないかと目星を付けた。

「それにあのことなら名倉よりも関崎の方が影響でかいじゃん。だったらさ四人でしゃべったほうがいいよ絶対」

「まあ、そうだけど」

 なんだか歓迎しないムードのようだ。やはり乙彦が引くべきか。

「興味はあるんだが、今からは無理だろう。それこそ俺たち男子連中が女子を獲って食っていると勘違いされないとも限らない」 

 うひゃひゃ、と泉州が乙彦の背中を叩いた。このアクション、どっかの下ネタ女王にそっくりだ。

「だったら、お風呂上がってからロビーに集合しよっか? ねえ阿木ちゃん、それが一番よくない? 会長だってまだ、集会室で羽飛と先生とでしゃべってるし、私たちも十時くらいまでは自由時間ってことにしてもいいんじゃない? それに会長とも私たちしゃべんなくちゃいけないしさ。そうしようよ」

 名案だ。泉州のどこぞの洋風美女コンテスト出場者的振る舞いでもって仕切られると阿木も納得せざるを得ないようだ。肩をすくめるようにして、

「うん、わかった。じゃあロビーでね」

 スリッパを鳴らしながら駆け足で女子部屋へと戻っていった。泉州も向かいつつ振り返り、

「けどあんたたちも、もうちっとうまくやんなさいよ」

 激を飛ばしてきた。余計なお世話である。


「なんだあれは」

 あきれた顔をしているのは名倉だった。あまりいい気分でないことは見て取ってわかる。かなり阿木のアピールに辟易しているのが伺える。

「お前ももっとはっきり断れ」

「いや、俺は泉州の言い分が正しいと思う。話を聞きたい」

 まだ爆弾たちのいそうな部屋に戻るのも気がひけて時間つぶししたくなる。本当は早く風呂に入らないとまずいのだが。

「さっきの話、とは例の、渉外の件だろう」

「まあ、そうだ」

 そっぽを向く名倉に乙彦は畳みかけた。

「事情が事情だが、俺も言いたいことがそれなりにある。知り合いの性格を考えれば難波の切り出し方でかえって窮地に立たされてしまう可能性だってある」

「だが今、話さなくたっていいだろう」

 名倉はなおもごねた。

「ここでしゃべっているところをあいつらに聞かれたらさらにこじれるだろう」

「確かにな」

 それは乙彦もわかっている。一番よいのはロビーだが、通りすがりの関係者に聞かれないとも限らないしあの清坂のことだから「なになに、なあに?」と首をつっこんでこられたらどつぼにはまる。

「ああそうだ、いいことがあるぞ」

「なんだ」

「ラジオを持ってこよう」

 手を打った。本来の目的を忘れていた。趣味と実益、両方満たせるチャンスじゃないか。


 ──今夜、BCLのために外でラジオを操作したいと先生たちに伝えておいて、何人か誘って玄関口でやらせてもらうってことにしたらどうだろう。


「海外放送局の電波をつかんで報告書書いてベリカードってのもらうというあれか」

「そうだ、あれだ」

 先生もいる中でこそこそ女子たちと語り合うのは正直気がひける。しかし、BCLをやりたがっている乙彦の側で、どんなもんかを覗き込みたいというのであればごくごく自然に会話も成り立つ。おそらくくっついてくるのは名倉とD組女子のみ。もしかしたら清坂も興味を示すかもしれないが、羽飛が無理やり何かかしら抑えようとするだろう。

 ──羽飛もああ見えて結構清坂の手綱をひっぱってたしな。

 陰の会長的存在なのかもしれない。どちらにせよ、乙彦たち四人が自然に語らうには問題ないシュチュエーションかと思う。

「なるほど。お前のやりたいことを俺たち利用してやるというわけか」

「静内のやり方をまねさせてもらう」

「納得だ」

 名倉が合宿開始後、初めてまともに笑った。


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