4 生徒会冬合宿(13)
「しっかし豪華なんだか手抜きなんだかわからねえけど、散らし寿司ってのはなんだろな」
羽飛と隣り合う最奥のお誕生席。ついさっきまで清坂が腰掛けていた席だ。当の清坂は名倉が無視しているのも気にせず鴨河先生となにやら語り合っているし、その向こうには阿木と更科および泉州、難波の四人が静かに食事している。それなりに会話を交わしているところみると悪い雰囲気ではなさそうだ。
「まあ男ふたりでまずは乾杯だ」
「そりゃあどうも」
乙彦から一杯お茶を汲んでやった。ポットに入りっぱなしのお茶が実は結構おいしくて、何杯でもいける。濃い番茶はやはりすしに合う。
「まああれだ。俺もお前さんとおんなじ副会長なんでな。いつかはこうやって話す機会があるじゃねえかとは思ってたんだが、時間かかったなあ」
「しょっちゅう顔をあわせていると思うんだが」
「いや、大抵美里はさんでるだろ。それか生徒会の誰かかしらかあと立村とか」
──確かに。
羽飛の言いたいことも何となくわかるところがある。生徒会に参加して二ヶ月経つがなかなか個人との交流がままならないところは感じている。だからこそ乙彦もこうやって呼びかけたわけなのだが、まさか羽飛がこうもあっさりと誰の異論もなく振り分けしてくれるとは思わなかった。手際がよいったらない。
「そうだな確かに」
「とりあえず、さっきはすまんかった。ごめん」
ぺこりと羽飛は頭を下げた。一拍置いて気がついた。
「いや、わかっていればいいんだ」
「そうきたかよ」
乙彦だって黙って言いたいようにされたくはない。それなりの仁義があってしかるべきだろう。
「理由を聞かせてもらうことはできないか」
「今は無理だろ。またあとでになるんだが、まあなあ」
しゃべりつつも箸を動かす手は止めない。あっという間にピンクのでんぷんと黄色い卵焼きがたっぷりかかった散らし寿司はご飯粒残さずに空となった。乙彦も追いつこうとするがかなわない。羽飛の早食いには感服する。
「この前美里がしゃべってたことと今のこと、両方につながるんだがな。言っちまえば立村の敵討ちってとこなんだわ」
お茶を一気にすすり、羽飛は自分で二杯目を汲んだ。腹を叩きながらしゃべり続けた。
「あいつが『大政奉還』とかいうわけわからんことやろうとしてたこと、この前美里言ってただろう? 覚えてねえの?」
「そのくらいは記憶しているが」
「評議委員会が独占してた権限を生徒会に譲って、ま、タッグ組んでいこうぜってことだったんだがいろいろあって立村はやり遂げられなかったんだ。後期は天羽が別の考えでやってたとこあったから結局宙ぶらりんのままなんだがな」
──ああ、思い出した。
「あの時は結局水鳥中学の交流会のみで終わっちまってるけど、もっとたくさんの学校とのつながりをもって広げていきたいってのも、美里よりも立村の発想だよな」
「それはわかる。だが俺が聞きたいのはそういうことじゃないんだ」
乙彦もやっと散らし寿司を食い終わった。まだ米粒が残っている。箸でつまみながら、
「俺も立村の事情はなんとなく理解できるしその無念を晴らしたいのなら協力するつもりはおおいにある。だが、なぜ俺にそれをやらせてもらえないのか、疑問はそこなんだ」
さすがに清坂には聞かれたくないが羽飛には言うしかない。
「可南女子高校の生徒会長が俺の中学時代の知り合いだが、青大附高にはつながりが一切ないだろう。そこで知り合いの俺が彼女と連絡を取り合い、その上で執り行うのが普通じゃないのか? なぜいきなり渉外に」
難波に、と名指しはできないが言うことは言う。
「第一お前たちはその生徒会長について何も知らないだろう? 俺の話した内容だろう? それに青大附高と可南女子高校との付き合いはほとんどなかったとも聞いている。だったらやはり、共通のつながりがある俺がいくべきじゃあないのか」
「ずいぶん燃えてるなあ。少し頭冷やせ、ってこの茶あちいな」
羽飛が乙彦にお返しのお茶組みをしてくれた。ありがたくいただく。やはりうまい。冷めるわけがない。
「んで、俺も聞こうと思ってたんだけどな。その可南の生徒会長ってどんな女子なんだよ。美里とも頭ひねってたんだけどな。関崎と話の合う女子だと相当はっちゃけた奴なんじゃあねえかってな。ほらお前、古川ともよくしゃべるだろ。ああいうタイプかなあと」
心外な。乙彦は羽飛の肩をがっちり押さえて、じっとその目を見据えた。
「羽飛、学校のランクで先入観を持つもんじゃない」
脅しているわけじゃないのだが、羽飛の顔が思い切り引きつっている。
「生徒会長をやっている知り合いは、俺の知る限りまじめすぎるくらいまじめな人だ。制服を崩して着ることもない、髪の毛も校則にしたがったお下げ以外したことがほとんどない。それでいて分け隔てなく人に接する、そんな人だ」
「わかった、それお前から聞いた時からわかってたから、なあ、そう怒るなよ」
「怒ってはいない。誤解をきちんと解いておきたいだけだ」
普通に話しているだけのことなのになぜ羽飛の奴、そんなに背を反らせて逃げようとするのか。様子のおかしい羽飛を見咎めてか清坂が振り返って声をかける。
「何ふたりでふざけあってるのよ。まったくもう!」
「ふざけているわけじゃない、羽飛、まじめに話しているだけなんだ」
いたって普通に、穏やかに。乙彦は意識して語り続けた。
「もちろん可南女子高校の校風もあるだろうし他の役員たちとの温度差もあるだろう。だからこそ、順を踏んで話を勧めるべきだと俺は思う。いきなりこちらから押しかけていくようなやり方ではなく、できればその、中学の評議委員会と水鳥中学生徒会との交流会のようにだ」
乙彦がそこまで、ゆっくりと説明した時だった。
「あのな、悪いが渉外の件は俺と更科とで組むことになったんだ。これ、清坂会長からの指示ってことなんだが、なぜいきなり関崎が絡んでくるんだ?」
いつのまにか乙彦の後ろに難波が回りこんでいた。更科が困った顔して阿木とふたりなにやらささやきあっている。泉州は呆れ顔で腕組みを、清坂は羽飛の真後ろに。それぞれ位置している。
「そうだろ、清坂?」
「そうね」
清坂は短く答え、乙彦にかがみこむようにしてたずねてきた。
「私、可南女子高との交流の話をもらった時にね、最初は関崎くんの個人的なつながりで話し合ったほうがいいかなって思ったんだけど」
同時に羽飛の肩を軽く叩いた。
「でもそうしたらかえって、内輪だけの話になってしまいそうかなって思ったの。それにもし、運悪く話がこじれちゃった場合関崎くんにだけ負担がかかると思うんだ」
「俺は別に話をこじらせる気はないんだが」
言い返した乙彦をやんわり清坂は跳ね返した。
「大丈夫。私、関崎くんのお友だちがまじめで一生懸命な人だってこと疑ってないから。だからこそいっちゃん最初は個人的な入り方よりも、正式な渉外さんから入って話を進めていったほうがそのお友だちも楽なんじゃないかなあ」
ひとり、場違いな拍手をする奴がいる。
鴨河先生がひとり、にこやかに手を叩いていた。
「ブラボー」
ときたものだ。




