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4 生徒会冬合宿(11)

 途中「三時のおやつ」タイムもはさまれた後、いったん話し合いは中断となった。さすがに合宿中まじめな議論ばかりでは息も詰まる。一応行われた羽子板大会も、いったん生じた内部生VS外部生との亀裂を改善するには至らない。なんとも言えない他人行儀な雰囲気が漂うなか、とりあえず五時までは自由時間と相成った。

「六時に夕食、その後はみんなで宴会だよね」

「ちょっと待て清坂、なんだこの五時から六時まで勉強タイムってのは」

 難波がすごむ。清坂の隣りで羽飛が説明する。

「やっぱそろそろ宿題のラストスパートってのがあるだろ。せっかく全員が集まるわけだしな、頭を寄せ集めて答え写しとかなんとかやろうぜって魂胆。楽できるんだぞ感謝しろよ」

「楽、なのかなあ?」

 すっとぼけた声で更科が笑いかける。いつのまにか、元評議四人組がさっさと靴を履き替えて外に出ていこうとしている。セミナーハウスの部屋で過ごす気にはどうもなれないらしい。どこに行くのか尋ねたら、

「生協で夜の買出しに行って来るだけ。それと、部活で来ている友だちとも顔合わせたいしね」

 清坂がからりと答えた。一緒に来いと誘われるかと思いきや、それはなかった。


 ──とりあえず一時間は自由ときたか。

 誰もいない男子部屋でごろんと横になった。名倉が残っているかと思ったが姿はない。鴨河先生もちらとみたらひとりでのんびり集会室で文庫本をひもといている。じゃましてはならない。みなこうやって自由なひと時を堪能できるのも悪くはない。せっかく持ってきたラジオのチューニングに手を出そうかと思ったが、まだ四時前後だと電波の入りが良くないだろうし、居眠りするのが一番よさそうだ。

 ──それにしても、あれはないだろやっぱり。

 乙彦もあまり拘りたくはない。それでもやはり納得いかないものはある。

 ──俺が最初に提案したものをなんで難波に持っていかせるんだ。

 思い出すだけでも胃の辺りがむかむかする。羽飛の哀願するような眼差しに免じてしばらく我慢はしたが、今晩どこまで我慢していられるか自信が正直ない。ここでなんとしても羽飛をとっ捕まえてなぜあんな芝居を打ったのかを洗いざらい白状させない限り、乙彦は寝られないような気がする。まったくだ。可南女子高校の生徒会長とつながりがあるのは乙彦だけなのだ。青大附高生徒会の連中は誰も水野五月という名の一年生徒会長を知らないはずだ。

 ──しかもだ。あの難波が入り込むってのはどういうことだ!

 百歩譲って羽飛ならわかる。立場が副会長で乙彦と一緒に組むのならば。いやもっと言うなら乙彦の補佐として難波が入るとしてもまだ理解できる。しかし清坂の言い方たるやあれはなんなのだ、「関崎くんに頼もうと思ったけど」頼りないとでも言うんだろうか。乙彦が提案した時ずいぶん迷っていたようだったが。向こうが乙彦に悪意を持っていないことだけはいやというほどわかっていることなので、ここは羽飛をはさむ形で真意を問いたい。さらに、さらに。

 ──難波にも釘を刺すべきだ!

 あの、意味もなく喧嘩を吹っかけてくる謎のシャーロキアン野郎についても乙彦はまだ把握しきれていない。根は悪い奴じゃないのだろう。腹には何もないとも言うが、外部生としての的にされた乙彦としては決して気持ちいい相手ではない。

 ──もし、水野さんがあの難波に俺に対するのと同じような態度で喧嘩売られたらまじで大丈夫か。いくら同学年であってもだ。

 水野さんの性格上理論的にびしばし斬り付けてくる男子を上手にあしらえるとは到底思えない。下手したら傷つけてしまうのは明白だ。このままでいいとはどうしても思えない。


「関崎、なんでこんな時間に寝てるんだ」

「お前こそ、どこ行ってたんだ」

「行ってたわけじゃない、連れ込まれただけだ」

 名倉が部屋に戻ってきたのは乙彦がうとうとしてから五分程度経った頃だった。時計の針が全然動いていなかった。手には飴玉をいくつか。ばらりと畳の上に投げた。

「さては女子部屋か」

「俺が好き好んで踏み込むと思うか。お前のためだ。感謝しろ」

 いかにもといった風に恩着せがましく言う名倉。部屋の戸を閉めた。大きく息をつき足を伸ばし、靴下を脱いだ。

「また阿木に引きずり込まれたか」

「泉州が戻ってきてくれたのでタイミングよく逃げられた」

 ──動じてないな。

 D組女子ふたりの激しいアピール合戦に閉口している様子が伺える。ふたりとも外見は決して悪くはないし、特に泉州の外見はどこぞの欧米系美女コンテストで上位を狙えそうな彫りの深さが際立つ。それでいて全く気持ちの揺らがぬ名倉はさすがである。

「ところでだ。関崎、気になることがある」

「なんだ」

 乙彦は身を起こし、畳に転がっている飴玉を包み紙から剥がして口に放り込んだ。ストロベリー味であまったる過ぎた。

「さっきの、可南女子高校の生徒会との交流についてだが」

「別に後ろめたいことはなにもないが」

「お前にはなくとも相手にはある」

 名倉はぐるりと三百六十度見回した。まだ陽がさしている窓を気がかりそうに見上げ、

「なぜ、会長と副会長のふたりが渉外のあいつを切込隊長にしたのかだが」

「難波のことだな」

「因縁があった」

 短く名倉は言い切り、胡坐をかいた。飴玉をテーブルにおいた。食べる気さらさらなし。

「あいつには、可南女子高校に懸想している女子がいるらしい」

「けそう?」

 名倉に似合わぬ古風な言い方に思わず吹き出しつつ、乙彦は身を乗り出した。

「そうだと聞いた。それを知っている生徒会陣はこの機会に奴の想いを実らせようと一肌脱いだというのが本当のところらしい」

 あっけに取られて何も言えない。いや、青大附高生が可南女子高の生徒に想いを寄せてはならないなどとは絶対に思わない。思わないのだがしかし、あの外部生差別意識まんまんの難波に限ってなぜ。なぜなのか。

「阿木からの情報か」

 名倉は頷いた。そのまま脱いだ靴下をかばんに押し込んだ。

「実力よりも、恋愛沙汰を最優先する青大附高だけある」

 

 ──確かにな。

 阿木の情報がどこまで正しいかはさておいて、この一件、もう少し詳しく吟味する必要がある。人の恋路を邪魔するほど乙彦も野暮ではない。ただ難波が暴走したあげく可南女子高校の生徒会長に大迷惑をかけたりしたら大変だ。水野さんにも、いや雅弘にも申し訳が立たない。



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