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4 生徒会冬合宿(5)

「あのな、関崎」

 しばらく黙りこんだ中割って入ったのはやはり羽飛だった。

「お前さんの本気な気持ちはよくわかる。まあ俺もだ、こう見えてそれなりに英語科A組の事情とか立村がらみのいろいろなこととかあって、それなりに観察はしてたんだ」

 いたってのどかに愛想良く笑いかけた。

「春の新歓合宿から合唱コンクールとかいろいろあっただろ。立村は評議としてそれなりに思うところがあったんかもしれないが、俺としちゃ新鮮だったわな」

「羽飛、何言いたい」

 難波が不愉快そうに顔をしかめる。どうもこいつはまだ乙彦とさしで勝負するつもりはなさそうだ。

「あのな難波、今俺は関崎と話してるの。少し黙ってろ。それと更科悪いけどな、こいつのお守りよろしくな」

「あいよ」

 なんだか漫才に似たやり取りの後、羽飛は再び乙彦に向き直った。後ろにいる難波からは見えないかもしれないが、妙に真剣さが増している。思わず乙彦も正座しなおした。


「さっきの衝撃的裏ビデオの件なんだが」

 羽飛は切り出した。

「正直俺としてはあまり気持ちいいもんじゃあねえ。そりゃそうだろ? 一応俺は内部の持ち上がりだしそれなりにいろいろやらかしてきたつもりだけどな、締めるところは締めてきたしこの学校結構好きだし、やりたい放題してきたよ」

「俺も別に学校批判したいわけじゃないんだが」

 言いかける乙彦を押し留めて、

「そりゃわかってる。お前あのビデオでなんも言わなかっただろ」

「言ったには言ったが、編集されてなかった」

 静内に全部持っていかれた、それは事実だ。羽飛は鼻の頭をこすりにかっと笑った。

「そうだわな。たぶんB組の静内が全部しゃべったんだろ。想像はつく。一応俺も評議であの性格はだいたい把握してる」

「誤解を招く奴かもしれないが、悪意はないんだ。それはわかってやってほしい」

「そうだな。美里も似たようなもんだ」

 俯いてひとりごと、その後すぐ顔を上げて、

「どっちにせよ向こうさんが相当附属上がりの俺たちがいい加減に遊んでいるよう見えるのは仕方ないかと俺は思ってる。三年前だったらちょっくら体育館の裏に来いくらい言ったかもしれねえけど、外部の奴はみなすげえなって思うぞ。もし俺が高校で受験してたら余裕ですべってただろうしな」

「数が少ない。比較はできないだろう」

 謙遜ではなく確率の問題だが。

「まあそうだけどよ。それと、あっそっかと思ったことがひとつあって、確かに俺たちには三年間しか時間がないってのもわかるような気がするんだ」

 いきなり共感か。羽飛は難波たちと違ってやはり中立的に見ているのだろうか。

「わかるかそれは」

「ああ、わかる。俺もさ、中学卒業間際でいろいろあってな。そんときにあと二ヶ月しかねえ、あと二ヶ月の間にどうやってクラスまとめるかどうするかって頭悩ましたことあってな」

 思い出すように指を折って数える。

「ちょうど去年の今頃だ。まあ偉い目にあったけども、結果オーライってことでそれはそれでいいかなってとこなんだがな。まああせったあせった」

 後ろで難波と更科が顔を見合わせている。何か感じるものでもあるのだろうか。乙彦にはなかなか把握できない機微というのはそこにあるのかもしれない。三年間の違いというのはそこなのか。

「だからな、静内の言う『時間がない』ってのはなんかわかるような気がするし焦りたくなるのもほんのちょびっとだけど理解できる。そうだよな、あと二年あるかないかだもんなあ。大学進学のことも考えねばなんねえし。大学入ったらたぶんそのあと四年後が待ち受けてるんだぞ。面倒っちゃ面倒だ」

 ──大学か。

 ふと思った。目の前の三人にとって大学は「そのまま進学」できる場であって受験する場所ではないのだと。

 ──やはり国公立でないとまずいよな。


「そんなこんなで俺も関崎たち外部生がこの三年間を完全燃焼しようとつっぱしるのは理解できなくもねえんだ。けどな、関崎」

「言ってくれ」

 手ごたえがある。腹があったまってくる。

「その一方で俺たちも過去三年間でやることやってきたって誇りつうか、自負っての? そういうのがあるんだわな。例を出すと俺かかわってねえけど委員会最強伝説とか、立村が松の廊下で絶叫させられたビデオ演劇だとかいろいろあるけどな、公立の中学行ってたらまず出来ねえだろうなって経験を背負ってるんだ。これ、まじ、すごいぞ。俺も公立に行ってる友だちそれなりにいるから聞かせてもらってるけどな。やはり青大附属は特殊だよ。修学旅行をまるまる自由時間にして泳がせたりとか普通しねえよ。しかもほとんど先生がたがこっそり付回してたけどその時は決して注意しなかったというおまけつき。すげえよなって思うよまじで」

「確かに。俺の修学旅行は完全におのぼりさんツアーだった」

「そこなんだよ、関崎」

 膝をたたきながら羽飛は前かがみになり、乙彦をその格好で見上げた。

「何が良い悪いは関係ねえけど、やっぱ、いろんな経験を交換しあうのっておもしれえと思うんだよなあ。これな、俺が立村の面倒を見ててつくづく思ったんだけどな、やっぱり自分と生きてた世界全然違う奴と話すと最初は揉めるんだよ。これまじで」

「わかる。俺も同じだった」

「わかってくれるなら聞いてくれよな。ほんと俺、立村のどっかのおぼっちゃんみたいな態度にどんだけ振り回されたかもう泣けてくるよな。美里なんて俺の十倍はぱにくってるし、あ、古川は結構首根っこ押さえてたな。とにかくえらく大変だったことはわかってもらえると俺は泣けるほどうれしい」

 くすりと笑いの気配。附属二人組が共感したようだ。

「ま、関崎もその辺はだいたい把握してくれてると思うんだがこれ言うなよ。あいつまた下手なこと言ったらすねるからな。とにかく俺が言いたいのはそれだけ振り回してきやがったアホな奴ほど可愛いってことでめでたしめでたしなんだよ。得るもんはたんまりあった」

「あったのか? 本当に?」

 後ろで我慢してたのか、難波がくそまじめに問う。頷くのは更科。どんぐり眼で。

「見てりゃわかるだろ。ああそれとなお前らも絶対立村には言うなよ。またあいつがどん底落ちやがったら目も当てられねえからな。結論として俺言いたいのは」

 ぽん、と羽飛が膝を叩き、乙彦と隣りにいた名倉を指差した。目つきはまじめだった。

「せっかくの機会だし、この二日間とことんしゃべろうやってことなんだよ。これ、美里、んじゃなくて清坂会長のお言葉なんだけどな。立村の面倒見るよりはずっと楽だと思うぞ、な、難波もそう思うだろ」

 難波は返事をせずそっぽを向き、さっさと立ち上がった。そろそろ十五分経ったようだった。




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