4 生徒会冬合宿(4)
──集合まであと十五分か。
本来であればその時間は友だちと語らったり全く関係ない馬鹿話をしたりと、肩から力を抜いて過ごすものだろう。男子五人が集まる部屋の中、みなひたすら荷物開きに勤しんでいる。名倉と隣り合っているのが救いではある。乙彦は他の三人の様子を伺いつつ、着替えとラジオを取り出していた。
「お前ラジオ持ってきたのか」
「当たり前だろう」
名倉も興味深げに手を伸ばしてきた。
「せっかくだ、電波拾えるだけ拾ってみたい」
「いわゆるBCLだな」
乙彦に日頃より熱くBCLについて説明されていることもあってか、名倉は取り立てて驚くこともなかった。
「いたって普通のラジオだな。FM、AM二バンドの」
「当たり前だ。短波ラジオなど持っているほど俺は豊かじゃない」
「そうか」
あっさり答えて名倉も膝を抱え直した。居心地悪いのはよくわかる。乙彦たちの斜め向かいには難波と更科が険しい表情でなにやら話をしている。聞こえない。一方でのんびりと羽飛が、
「これ、食うか? まだ昼飯前だからな」
とかいいながらポテトチップスの袋を放り投げてくる。畳のど真ん中に落ちたが誰も手を出そうとしない。しばらく放置されているのを見守っていたがやはり誰も何もしないのはまずいだろう。乙彦が手を伸ばしてそのまま羽飛に渡した。
「やはり、昼飯前はまずいだろう」
「あっそか。俺がひとり腹すかせてるだけか」
愛想良く羽飛は笑い、次に難波たちへ声をかけた。
「天羽や立村と久々に元評議四人組でなんかやったんだろ。あいつ元気だったか」
むすっと黙っている難波の代わりに更科が答えた。こちらもいたってのんびりと、
「うん、天羽のうちでマージャンやろうとしたんだけど、結局立村がルール覚えられなかったんであきらめたんだ。あいつ、ああいうゲームものとんと苦手だよなあ。花札はなんとか覚えたみたいだけど」
「マージャンだとそうだわな。四人揃わないとなあ」
「結局だらだらいろんなことしゃべってるうちに真夜中になっちゃったから四人で泊まりこんだよ。朝一番で立村帰ってたけど絶対あれ、朝帰りしたと思われてるよな」
「そりゃ受けるなあ」
そこで難波が無愛想ながら割り込んだ。
「天羽の母さんが立村帰った後すぐあいつんちに電話かけただろ。立村すげえ豪華なクッキーと口取り持ってきたからな。天羽宅の親たちには受けいいぞ」
乙彦の隣りで名倉がささやいた。
「マージャンのルールを覚えられないってのは相当重症だな」
「悪いが俺もルールは知らん」
タイミング悪かったのか聞きつけたのか難波がにらみつける。名倉が見返そうとするのを無理やり乙彦は押さえて、
「そうだ、合宿終わったところで久々に三人で集まるか。静内も誘っていつもの場所で景気付けでもするか」
気を逸らそうとしてみたが、かえってどつぼにはまってしまったと気がついたのは次の瞬間だった。明らかに冷ややかな眼差しが附属上がり三人から帰ってきた。
なんとも言えない不毛な空気の中、他の三人はそれぞれに立村の噂についてぺらぺらしゃべり続けていた。外部生と内部生を意味なく対立させようとするビデオを見せられた後、癒しの存在となるのが立村というのも皮肉な話ではある。羽飛がしみじみつぶやいた。
「んでな、ちょいと俺も美里も気になってたんだけど、あいつ年末から思いっきり落ち込んでるだろ。少しは復活してたか」
「お前ら会ってねえのか」
「正月の初詣で顔は合わせた。全然浮かび上がってないんでそれで続きを聞きたかったっつうわけ。なんせな、俺だろ、美里だろ、古川だろ、いつもの面子だと立村見事に埋もれちまうからな」
「全くだね」
更科があっけらかんと答えた。少し空気が和んだ。
「あの、例の件だよね。聞いてる。もう学校に逆らったら禄なことにならないのに、要領悪いよね。うちの先生も言ってた」
「更科少し黙れ」
難波に制されて素直に黙る更科。すぐに羽飛が話を引き取って、
「まあなあ。立村の謎な趣味は今に始まったことじゃねえけどよ。あそこまでどん底に落ち込まれるとこちらも気をめちゃ遣うよなあ」
「落ち込むのもね、無理ないけど、かえって立村のためになるんじゃないかって気もするよ」
またまた更科がさらりと言い放つ。
「こう言ったらなんだけど、あの子、いわゆる中卒扱いになるんだよね。どんなに勉強が出来てひとりで一生懸命通信講座受けてても、卒業したら『高校生』にはなれないんだよね。学校の仕組みはよくわかんないけど、公的に認められていないいわゆる私塾っぽいとこに進学するんだよね。それも青潟から百キロくらい離れたとこだよね。ええとどこだったっけ、ホームズ、山の上の学校って、ほら駅の名前なんだっけ」
「里美那だろう」
ぼそっとつぶやく難波に思いっきりえびぞる羽飛。
「ひええ、なんつう僻地! あそこに学校なんてあったんか」
「国の許可は下りていない学校らしいよ。義務教育が終わった後なら誰でも入れる学校らしいけどね。せっかく青大附中で学年トップを保ってながら、なぜそういうとこに行かなくちゃいけないのかなあ。俺、どう見ても立村を正気にもどすためのショック療法にしか思えないんだけど、どう思う、羽飛?」
羽飛が答える前に乙彦は割り込んだ。黙って聞いていれば言いたい放題、これは放ってはおけぬ。
「悪い、俺にも今の話、参加させてくれないか」
ぎょっとした顔つきで附属上がり三人組が乙彦をにらむ。それは承知の上だ。
「お前たちが俺たち外部生にあまりいい感情を持たなくなったのは今のビデオ観ていれば当然だろうし、言い訳はできない。もちろん俺たちにも反省することはたくさんある。それは今日と明日、じっくり語りたい」
「別に語らなくたっていいだろ」
難波が冷たくあしらうがここで引いてはならないと自分を励ます。
「いや、一泊二日という長時間ここで顔を合わせられる機会はそうそうない。この機会を俺は絶対に逃したくないんだ。それ以上にもうひとつ、立村のことなんだが」
「そっか、お前同じクラスだもんな。いつもあいつが世話かけてるよなあ」
羽飛がわざとらしくのんびりした声を挙げた。芝居に見えるが気にしちゃいられない。
「そうなんだ。俺もあいつのことに関しては前から気にしてたんだ。この前もちらっと気になる噂を耳にしていたし、冬期講習でも顔を合わせられなかったしな。立村も規律委員に上がってきてくれてからはかなり充実しているようだったから心配はしてなかったんだが、今の話だと精神的にどん底ということなんだが」
「無理に聞き出す必要ないんじゃないかなあ」
更科が無邪気な声を出す。やはりつくろっているように聞こえる。
「いや、俺はあいつと同じクラスだからわかるんだが、立村はまだうまくクラスに溶け込みきってない感じがするんだ。それと例の、あの、女子も」
言いよどんだ。名前を呼べない。
「俺とはいくつかの因縁がある。また俺を青大附高に誘ってくれたのは立村なんだ。あいつが青大附高の受験勉強についてたくさんアドバイスをしてくれたからなんとかもぐりこめたようなものなんだ。ある意味恩人なんだ」
三人が顔を見合わせる。知らなかったのだろうか。てっきり常識と思っていたが。乙彦は両拳を畳みにつけ、三人をじっと見据えた。
「さっきの話、もう少し詳しく話してくれないか」




