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4 生徒会冬合宿(3)

「なんだありゃ」

 暗闇からゆっくりフェードインしてゆくビデオルーム。目がちかちかする中で乙彦が最初に耳にしたのは、難波の一声だった。

「俺たちに喧嘩売ってるんかよ」

「まあまあホームズ」

 更科がなだめようとするも、難波の口調はまだ荒いままだった。

「つまり何かよ。俺たち附属上がりは時間を無駄に過ごしてへらへらしているお気楽野郎で、高校からの外部生は貴重な時間を無駄にしないエリートばかりとか。ずいぶん言いたいこと言ってくれるぜ」

「ホームズ頭冷やせよ。話の内容はそれがテーマじゃないよ」

 同じ部屋の中に乙彦や名倉がいるにも関わらず文句言い続けるとはたいした根性だ。一方の乙彦も本来であれば思い切り文句を言ってやりたいところだが、いかんせん放送局インタビューの場に居合わせたことも確かだし、多少は静内の援護射撃もしたのも事実だ。難波に食いつかれてもしかたない部分もある。

「難波くん、まず、先生の話を聞こうよ。それからだよ」

 清坂が振り返りぴしりと制した後挙手をした。

「先生、今日このビデオを私たち生徒会役員に見せてくれた理由を教えていただけますか」

「自分たちの胸に沸いてきたもので十分だろう」

 さらりと流そうとするのを今度は羽飛が立ち上がった。

「いやあ、俺ばかだからどうもぴんと来ないんだけど」

 笑いが起きる。泉州と阿木のふたりだ。

「先生もさ、この面子に附属あがりと外部生が入り混じっていることは承知してる上でぶつけたと思うんだけど、さすがにこのままだと修羅場に突入することは避けられないんじゃねえかって思うんだ。だろ、難波?」

 振り返り難波に問いかけた。まさに「修羅場」に足を踏み入れている難波が冷静さを取り戻そうとばかりにゆっくり訴える。

「羽飛の言う通りです。附属上がりと外部生との間に修復不可能な溝があることはよっくわかりましたがそれを、ここにいる生徒会役員たちとでどう共有しろというんですか。少なくとも俺は気持ちよいもんではなりません」

「そうだな、難波、お前の言う通りだ」

 まだ若い鴨河先生は頷きながら席通路をうろうろした。乙彦たち外部二人組を見下ろして、その後改めて難波に向かい、

「十一月の改選時にみな、この学校をよくしたいまとめたい、そういう意思でもって訴えてくれたと思う。もちろんそれは素晴らしいことなんだが、現実として今、内部と外部の明白なまでの対立が生まれている以上はその事実を見極めないといけない」

「見極めて、どうするんですか」

 泉州も発言した。両腕をくんでふんぞり返り、

「内部生と外部生の対立なんて言ってたらこの生徒会内はすさまじいことになりますよ。私は名倉や関崎のふたりと喧嘩ふっかける気さらさらないしね。むしろ問題なのはそれぞれの価値観が違いすぎるってことだけじゃないですか。今の話だと外部生である静内さんと、附属上がりのななしのごんべいさんとの意見が違うだけであって必ずしも外部生だから同じ考えってのは一方的な決め付けではないかとも思います」

「確かにそれも一理ある」

 鴨河先生は否定しなかった。そのまま続けた。

「内部生と外部生との違いは単に入学したのが中学からか高校からかといったものではないんだ。これはいろいろと噂で聞いているかもしれないが、青潟大学附属中学では今まで個性の特化した生徒を最優先で育ててきた。極端な話をするようだが特定の成績が優れていれば他の科目が零点であっても受け入れるといったようなことだ」

 清坂と羽飛が顔を見合わせている。

「そういう時代も四年前は存在した。しかし今の二年生たちが入学した頃からはその考えががらっと変わった。バランスのよい、各科目にそれなりの点数を取ることができる生徒を求めるようになった、といった方が近い」

「平均点が高い人ってことですか」

 阿木がささやくように先生へ尋ねた。鴨河先生は口を一文字にして頷いた。

「そういうことになるんだ。事の是非はともかくとしてそういう現実があり、その価値観のもとで入学してきた外部生の考えと、ひとつの個性を大切にしてつきぬけようとするタイプが多い内部生とはなかなか重なりあわないことが多いのも事実だろう?」

 ──ずいぶん「事実」を繰り返すよな。

 乙彦の心のつぶやきはもちろん聞こえない。

「俺が言いたいのはこの価値観が真っ二つに分かれた青大附高という環境ではたして、君たちの目指す「学校内をまとめる」ことが可能かどうかということだよ。個人同士では友だちになることだってできるだろうが、それを同じ方向に向けて歩かせることがはたしてできるのかどうか。どう思う、会長?」

 清坂を指した。しばらく首をひねっていた清坂がやがて立ち上がった。

「私の中ではまだまとまっていません。時間が欲しいです。今の段階でということであれば」

 言葉を切り、そのまま乙彦の方にじっと目を向け、

「全く同じ方向は無理だと思います。でも、さまざまな考えをすり合わせることはできるんじゃあないかなって、そんな希望はあります」

「なんだよどんな希望だよ。俺たちあれだけ罵倒されまくっててそれでさらに希望ってのか」

 清坂に対してというよりも独り言のように難波がつぶやく。すぐに羽飛がフォローに入る。

「いやあ、なんでそんなこと言うんだよって確認する程度ならいけるだろ? さすがにおおそりゃすげえなとは言えないにしても、そういう考えがあるんだ程度はな」

「羽飛、お前最近ずいぶん丸くなったな」

「いろいろ苦労したでな。この一年ほど」

 憎めない口調につい難波も気を許したのか、

「お前の言いたいことはわかる」

 ぼそりと答えた。


「それでは、まだ昼飯まで時間もある。男女別々に部屋に分かれた後、十五分後に今度は集会室に集まろう。頭を冷やさないとこの手の問題は片付かないからな」

 ──かえって面倒になるような気もするんだが。特に男子は。

 外部生と内部生がドッキングする男子部屋でどう過ごせばいいというんだろう。

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